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episode17 : 二重虹彩の真実



【第一戦闘部 射撃訓練場】



私は通常任務を済ませ、射撃場の訓練用ホロプログラムに向かっていた。


医療部のジアン・パクが不審な動きを働き、軍本部はゼータによる神経リンク感染と判断した。


確実に軍内部に神経リンクは張られている。

私は、こうしている間にも、ゼノンに監視されているかもしれないのだ。


射撃場に着くと、武器庫の施錠を解除し、自分のケストレルを手に取る。

コイルラインが赤く脈打つように光った後、青い点灯に変わる。


大丈夫!もう中級コースはクリアできる!


「・・・はず」


私は小さくつぶやき、ホロプログラムへ入った。


中級コースはオメガ軍内にゼータが侵入してくる事を想定した訓練だ。

普段通りの軍の様子。

本当によくできている。


私は注意しながら通路を進んだ。

横を通り過ぎようとしていた軍人2人がライフルを向けて来た。


来た!


1人を撃つ間に1人にケストレルを持った腕を掴まれるが、合気道の組手を使い、腕を引いて相手を倒し、撃つ事に成功した。


ヨシ!


私は立ち上がり、先へ進む。

そこへなぜか、ルークが姿を現した。


「え・・・?」


実際の登場人物は出て来ないはずだ。


〈リラ〉


彼はいつものように私に優しく微笑みかけた。


どういうこと・・・?


「ルーク・・・?」


イタズラで私のホロプログラムに入り込んでるの?


〈おいで、行こう〉


いぶかしげな私の腕を引くルーク。


「待って、どういうこと?」


私の腕を引くルークの腕の色が、茶褐色に変化する。


え・・・?


〈ノヴァよ、私だよ〉


その声に、心臓を鷲掴みにされた。


〈驚いたか・・・〉


ゼノンだった。


「なぜ、ここに・・・?」


ゼノンはいつもの優しげな微笑みを浮かべていたが、やがてその顔は敵に向ける凶悪な司令官の顔になる。


〈おまえの居場所はわかっているのだ〉


ゼノンはそう言うと、その両手で私の首を絞めた。


「う・・・っ・・・」


しまった・・・油断してた!


〈おまえは私から逃れられないのだ・・・〉


その手の力は加減なく強くなる。


待っておかしい!

本当に首を絞められている!


ホロプログラムにも、物に触れる感触はあり、体に圧力がかかる事はあるが、安全装置があるため、危険が及ぶような圧力や痛みが生じる事は無いはずだ。


「・・・っ」


気が・・・遠くなる・・・


その時遠くから、犬が吠える声が聞こえて来た。


リアム?


私は力をふりしぼり、ゼノンの腕を掴んだ。


〈ほぉ・・・私に抵抗しようと言うのかノヴァ。おまえも変わったものだ。その姿形と同じように〉


「リアム・・・」


蚊の鳴くような声を振り絞ると同時に、辺りの景色はフッと消え、私は無機質なホロプログラム・プレイルームの真ん中に倒れた。


「リラ!」


カイの声がした。


同時にリアムの吠える声がする。


「リラ!しっかりしろ!」


カイに上半身を抱き上げられた。

リアムがキュンキュン言いながら私の頬に鼻をくっつける。

私は咳き込んだ。


「大丈夫か!」


「だい・・・ごほっ、ごほっ、じょぶ・・・」


いったいどうなってたの・・・?


「プログラムに・・・ルークが出て来て・・・」


「ルークが?」


私は上半身をカイの腕から起こし、プレイルームの冷たい床を感じながら座った。


「でもそれが、ゼノンに変わったの」


カイはそれを聞いて息を吞む。


「そのゼノンに首を絞められた。“おまえの居場所はわかっている。おまえは私から逃れられない”と・・・」


私は話しながら横にいるリアムを撫でた。


「なぜリアムがここに?クドウがいるの?」


カイはため息をついてうなずいた。


「この部屋の前にクドウとリアムがいて、リアムがクドウに向かって吠えてた」


「クドウに向かって?」


そんなはずは・・・


「様子がおかしいので近づくと、君がプログラム使用中なのがわかった」


「クドウは?」


カイは首を横に振った。


「無言で立ち去った」


そんな・・・


「目が、ゼータのリンクに支配された目だった」


やっぱり・・・


「すぐに保安部に連絡する。君は念のため医療室に」


私はリアムを腕に抱いて撫でた。


「パートナーが・・・違う人になっちゃったのね、リアム・・・」


リアムはクゥンと、か細い鳴き声を上げた。




【医療部】



私はカイとリアムに付き添われ、医療室でニコライに診察を受けた。

倒れた拍子に肘をすりむいただけで、他はなんともない。


そこへルークが慌てた様子で入って来た。


「リラ!大丈夫か!」


私は頷いた。


「ええ、平気よ」


ルークは私のそばまで寄って来ると、私をかるくハグした後、カイとニコライに向かって言った。


「宇宙船ポートに制限警戒が出てる!」


「宇宙船ポートに?!」


カイはすかさず自分のリンクコムに視線を落とす。


「何の通知も来てないが・・・」


ニコライも自分のリンクコムを見る。


「オレにも来てない」


私も同意した。


「私もよ」


ルークは自分のホロセルで、宇宙船ポートの様子を投影した。


「離発着する船に原因不明の事故が同時多発的に起きている」


私たちはその様子を信じられない思いで見た。

数基の宇宙船がぶつかり合うように一か所に集中し、黒煙と炎を上げていた。


「こんな事態になっているのに、アラートも作動しない」


いまいましくそう言うルーク。


「軍事通信網が死んでる・・・」


カイはそうつぶやき、リンクコムを見下ろした。


「連絡は私用のホロセルを使うしかない」


その時部屋の隅でおとなしく座っていたリアムがこちらに向かって唸り声をあげた。


「リアム?」


私がそう言うと、ルークがリアムに近寄る。


リアムは立ち上がり、警戒する体勢でルークに向かって唸る。


ルークはそんなリアムの前にしゃがみ、リアムの目をじっと見つめた。

唸っていたリアムは静かになり、再びおとなしく座ると、ルークの目をじっと見つめ返した。


「クドウだ・・・」


ルークはそうつぶやき、立ち上がった。


「この騒動を起こしているのは、ゼータに動かされているクドウだ」


私たち3人は顔を見合わせた。


「事故の怪我人が多数出てる、行こう」


ルークの言葉にまず1番に立ち上がったのはリアムだった。


「リアム、カイに付け」


まるでルークの言葉がわかるように、カイを見上げるリアム。


カイとニコライはこの状況を理解したように頷き合った。


「ルーク、おまえの処遇は後で伝える。彼女と話してから来てくれ」


カイはそう言うとリアムを連れ、ニコライと共に医療室を出て行った。


残された私とルーク。


何かただならぬ事が起きている事はわかった。

軍にも、ルークにも。


ルークは固い診察用ベッドに座った私の横に座った。

そして私を腕に抱く。


「オレの・・・特定の人になってと言ったけど・・・」


なに・・・?


ドキドキする。


「君を危険な目に遭わせることになる」


私はルークの顔を見上げた。


不思議な色の二重虹彩が、より濃くハッキリと浮かび上がっていた。


シルバーグレーと、チャコールグレーの、二重虹彩・・・


まさか・・・


そう思うと同時に、私の口から声が出た。


「アルセリオン・・・」


ルークは驚いたようにその目を見開く。


「なぜ・・・それを・・・?」


私はルークの目を見つめたままつぶやいた。


「わからない・・・」


わからないけど、わかった・・・


「オレはおそらく・・・シータの最後の王、アルセリオンの息子だ・・・」


ああ、やっぱり・・・


シータの力の痕跡は、ルークだった。


驚くべき事のはずなのに、なぜかそれがすんなり腑に落ちた。


ルークのネックレスの水晶の核の部分が光を放ったように見えた。

その二重の光はフワッと私たちの体を包み込む。


「ルーク・・・」


私はルークに抱きつく。


「私を、守って・・・あなたの力で」


「リラ・・・」


いつもの、ルークの匂いがする。

深い安らぎと、胸の奥が静かに満たされていく感覚。


「私は・・・あなたのためにある・・・」


なぜそんな事を言ったのかはわからない。

でも、来るべくして、この時が来た。


そう感じた。




【AZF対策室】



宇宙船ポートの多重事故は、大規模なシステムトラブルによる事故で、死傷者が多数出た。

チームAZFはその対応に追われた。


私は機関システム部でシステムトラブルの対応に追われ、メイヴは引き続きタナー墜落地に派遣。

カイとグオは宇宙船ポートの被害者救助、ニコライ、ルークは怪我人の処置、それに加えてルークはゼータの神経リンク感染者のリンク切断術も行った。


次から次に、連鎖的に起こるトラブル、事故。

ゼータの侵略は始まっている。


宇宙船ポートの多重事故から3日後、私たちはAZFの対策室に集まった。


「アリゲーター・デバイスによるシステムは正常に働いています」


私は機関システム部の状況を報告した。


「にも関わらず・・・」


中央のテーブルに両手を付くロベール少佐。


「システムトラブルによる事故が多発している。これらは全て人為的なものであり、監視カメラの映像やシステムログから、トラブルの発端には第三戦闘部のクドウ一等兵が関わっている事がわかっている」


ホロプログラムの異常が起こって以来、クドウは再び行方不明になっていた。

クドウはゼータの神経リンクにより、自らの体臭なども変わっているようで、リアムによる追跡もできない。


パートナーを失ったリアムには、出来る限りカイが付いていて、今もこの対策室の片隅にL2D2と共に座っていた。


『ん?リアム、トイレですか?』


ソワソワするリアムにL2D2が気付き、掃き出し窓を開けて庭に出した。

リアムもL2D2もすっかりAZFの一員のようだ。


「他にも神経リンク感染者は多数潜んでおり、それらを現場で操っているのがクドウではないかと思われます」


カイが少佐にそう発言した。


「バイオドローンが見つかったと聞いたが?」


少佐の言葉にはグオが答えた。


「自分が殺しました!」


言いながらグオは、蚊を叩くように両手をパチンと合わせるジェスチャーをした。


「危うく刺されるところでしたが、“虫除けスプレー”で助かりました!」


「虫除けスプレー?」


ロベール少佐は聞き返す。


それにルークが答える。


「バイオドローンの生体は実際“蚊”と変わりありません。“蚊”に効くものは、効く。その情報を広め、更なる感染者の増加に歯止めをかけています」


「なるほど、早速私も虫除けスプレーを・・・」


「軍で購入してますので、後ほどお持ちします!」


メイヴがすかさずそう言った。


約1週間ぶりに集合したAZFだが、それぞれの現状報告と“虫除けスプレー”の話以外にこれといった打開策は出て来なかった。


「一連のトラブルのおかげで、使える宇宙船がほとんど無い。アナログな旧式の宇宙船か、独自技術を搭載した宇宙船しか・・・」


カイはそう言いながらルークの方を見る。


「わかってるって。なんかあれば俺の船を飛ばす」


ルークは、その特異遺伝情報から、シータの王アルセリオンの子であり、ゼータが探す“シータの力の痕跡”とわかったが、軍はその身をAZF預かりとした。


ゼータに捕まれば利用され、この宇宙を意のままに操られる危険がある。


それならばオメガと共に在り、宇宙の調和に尽力してもらう方が良いという結果に至ったらしい。


ルークも今のところ、オメガ軍のその決定に従い、軍のトラブル対応に当たっている。


「よし、今日はこれまでだ!引き続き対応に当たってくれ!」


それぞれが対策室から出ようとする中、私はルークに呼び止められた。


「リラ」


私は彼を見上げた。


「今日一段落したら、オレの宇宙船の整備を手伝ってくれないか」



私は頷いた。

「いいわ」


ルークとは、思いは通じ合っていても、この状況の中おちおち2人で会ってはいられなかった。

この任務の中で共に過ごすしかないのが現状だ。


ふと外を見ると、トイレで中庭に出たリアムがそのままL2D2が投げるフリスビーをキャッチして遊んでいる。


「L2D2は犬の相手も上手いのね」


この状況下での束の間の癒しの光景だ。


「そりゃオレのAIコンシェルジュはパーフェクトだ」


私はふふっと少し笑った。


いつものその口調にも、癒された。




【宇宙船野外ドッグ】



辺りは次第に暗くなり、私はヘルメットの懐中電灯を点けた。


ポツポツと雨が降り出した。

稲光が遠く光るのが見える。


私はルークの宇宙船の外壁のパネルを開け、有機回路の調整を行っていた。


室内の宇宙船ドッグは、トラブルの起きた宇宙船の修理でパンクしており、屋外の外れにある整備スペースを使うしかないのだ。


「それにしても・・・見た事無い有機回路だわ」


とても興味深い。

軍の船のどのタイプでも見た事がない。


「そりゃオレの船だから」


隣でルークがパネル内部を覗き込みながらそう答える。


「考えてみればさ・・・」


アナログにドライバーを回しながら話す。


「これも結局、シータ由来の位相を応用してるんだ。なんでこんな事を思いついたのか、今わかった」


彼自身、無意識のうちにシータの王族が持つ星脈を操っていた事に初めて気がついたのだろう。

私の頭の神経リンク切断も、そうだった。


『ご主人様!リラ様!』


脚立の下からL2D2の声がした。


『大雨雷注意報が出ています!そろそろ作業を切り上げませんと、雷は危険でございます!』


既にけっこうな大雨になってきている。


「わかった!ここを同期したらひとまず終わりだ! リラ、同時にこことここのノイズの同期を」


「うん」


雨に打たれながら集中し、ノイズを同期させた。

まるで蛍の光のように、ポワンと光る有機回路の姿は神秘的だ。


「よし、片付けよう!」


パネルを閉め、先に脚立を降りたルークは私に手を伸ばす。


「気をつけて、雨ですべ・・・」


そこまで言われた時に、見事に足を滑らせた。


「わぁっ!」


「あぶなっ!」


ルークに抱き止められた。


「技術はあるのに行動は姫だな」


からかうようにそう言われる。


『風邪を引かれますよ、バスルームを温めておりますので、急いでお入りください! 雷雲が近づいてま・・・』


L2D2の声を掻き消すように稲光が光り、雷が鳴る。


「ひゃっ!」


「ホントに早く入ろう!」


「うん!」


私たちはバタバタと宇宙船の中に駆け込んだ。


「うー寒い!いくら6月でも夕方にびしょ濡れは寒い!」


シータの王の息子でもビショ濡れは寒いのか。

妙なところに感心してしまう。


「あっという間に暗くなったわね」


外は激しい雨と雷だ。


「シャワー入ろう」


ルークは私の手を引いて脱衣室に入る。


既にL2D2がエアコンを入れてくれており、バスルームからはシャワーが流れる音がする。


「脱いで」


「うん」


私は作業服のジャケットを脱いだ。


ルークもジャケットを脱ぎ、洗濯機に放り込み、続けてTシャツも脱いだ。

あらわになる筋肉質の上半身。


ん?どこまで脱ぐ気?


「何ボーッとしてんの、全部脱がなきゃホントに風邪引くよ」


「ぜ、全部?」


「そ、シャワー浴びるんでしょ」


言いながら私のTシャツを脱がせた。


「一緒に?」


「交代に入ったら待ってる方が風邪引く」


そ、そりゃ、そうかもだけど・・・


ルークはあっという間に全部服を脱いで洗濯機に放り込み、私のブラジャーのホックを外した。


そしてそのまま私の体を抱いて唇にキスした。


「ほら、冷たくなってる・・・」


抱き合ったまま、バスルームに入り、天井から降り注ぐレインシャワーにあたった。


「あったかい・・・」


「泡アワのお姫様にしてあげる」


「うふふ・・・」


外は雷雨。


軍はゼータの侵略に脅かされ、私たちは狙われる存在だ。


それでも2人でいるこんなひと時だけは、現実を忘れていたい。





*作者コメント



本日も、お読みいただきありがとうございます。


私もアワアワのお姫様にしてもらいたいなー笑


と、言うわけで!


本日は、お待たせいたしました(?)


⭐︎ルーク・ウォン⭐︎


リラと同じく、この『星脈のネクサス』の主役。


私はこのルークというキャラが大好き。


一見すると軽口を叩くし、

友達に

「あの人、やめた方がいいよ?」

と言われそうな、どこか掴みどころのない男。


でもその奥には、覚悟と孤独を抱えている――

そんな人物として描いています。


このキャラは実在のイメージモデルがおりまして、その方からインスピレーションを受けております。

(かなり私好みのオリジナルキャラに仕立て上げてますが)


出身と名前から、わかる方にはわかってしまうかもしれませんが……

(実在の方と同姓同名ではありません)

全身彫刻のような、圧倒的フィジカルを持つお方です。


ですので、今この私が!

彼のハリウッド初主演作を執筆しているのだよ!

という、かなり壮大な妄想の元に書いております笑


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