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episode15 : 星脈位相制御領域



【オメガ軍 道場】



退勤後グオから、クドウが合気道の組手に道場へ来ていると連絡があった。


俺はそのまま道場へ向かった。


「ありがとうございました!」


ちょうどクドウはグオに一礼して道場を出るところだった。


俺に気づいてやって来る。


「キリュウ大尉、お疲れ様です! 大尉も合気道ですか?」


「いや俺は違う。おまえがどうしてるかと思って」


クドウは申し訳なさそうな顔になる。


「すいません・・・まさかたった2日空けただけで、リアムがこんなに言う事を聞かなくなるなんて・・・」


それは、一方的にリアムが自分の言う事を聞かない、というような言い方だった。


「まぁ・・・あいつは特別頭がいいからな。おまえが、2日いなかった間に、知らない人にでもなったように感じてるのかもしれない」


“知らない人にでもなった”


カマをかけるつもりでそう言ってみた。


「はい・・・」


クドウの表情が一瞬、感情の無い人形のように固まった。


その間、まばたきが一度も無かった。


だがすぐにいつもの“クドウの顔”に戻る。


「別に無断欠勤を注意されるのは当然のことで仕方ないですが、リアムにそっぽ向かれるのが一番こたえます・・・しかも、それが原因でこんな重大な事故の任務から外されるなんて・・・」


それはそうだろう。


「少しずつ仲直りするしかない。どうせあいつはおまえ以外のヤツの言う事なんか聞かない。それまで俺やミタライも、リアムのとこには行かないようする」


「はい。ホントに申し訳ないです、余計な気を使わせてしまって・・・」


そう言うクドウはもう、いつものクドウのように見えた。


リラが言っていたような、瞳孔の変化などもパッと見ではわからない。


グオにも様子を聞いてみよう。


「ではこれで、失礼します」


クドウは敬礼するとその場を去って行った。


その背中を見送っているとグオがやって来た。

黒帯を締めた道着姿はさすがの貫禄だ。


「どうだった?」


「別に普通。前に指導した時と変わった様子はない」


そうか・・・


「墜落船の状況は?」


「被害は甚大だ。事故原因については調査中だが・・・生存者の証言から、人為的な操作ミスによるエンジン爆発の可能性があると報告が入ってる」


「・・・考えたく無いけど・・・」


グオはそう言いながら意味ありげに俺を見る。


「ああ、考えたくは無いが、その可能性はある」


ゼータの神経リンクによって操られた人間の仕業である可能性だ。


「ニコライとメイヴはしばらく墜落船の救助に借り出される。AZFは残るメンバーで進めなければならない」


グオは俺のその言葉を聞いてため息をつき、道場の裏口の方に目をやった。


「“残るメンバー”が、デートからお戻りだ」


え・・・?


俺はグオの視線の先を振り返って見た。


裏口から、リラとルークが入って来たところだった。


「ついこの間も、ここの裏庭で2人で星を見てた」


「星?」


「どう見てもデキてるだろ、あの2人」


ああ・・・そうか、やっぱり・・・


「いいのかよ」


いいも悪いも・・・


「プライベートだ。任務に支障をきたすような事が無ければ口は出せない、一応」


「いや任務はそうだけどさ・・・」


グオはそこまで言うと小声で先を続ける。


「カイはそれでいいのかって聞いてんの」


は・・・?


「好きなんだろ?リラのこと」


「好きって・・・っ」


俺は思わず、何も飲んでいないのにむせて咳きこんだ。


「お疲れ様!カイどうしたの?大丈夫?」


何も知らないリラは俺たちに近寄って来てそう言った。


「いや・・・っ、げほっ、大丈・・・ごほっ、大丈夫だ」


リラは目をパチパチさせて不思議そうに俺を見ていたが、グオの方に向き直った。


「どうだった?クドウ一等兵」


「普通だった。リラが言ってたような瞳孔の変化も見られなかった」


リラはウンウンと頷きながらグオの話を聞いて俺を見る。


「とりあえず私たちはリアムには関わらないようにしなきゃ、ますます混乱させちゃうわよね」


「ああ、そうだな」


リラが好き?


そりゃ・・・この手でZeroniaから連れ戻した女性だ。


気にならなくはない。

気になって、言動は見てしまう。


気になって・・・


「墜落船の状況はどうだ」


ルークが俺にそう聞いて来た。


「ああ・・・考えたく無い事が可能性としてはあると、今話してたところだ」


「確かに、オレたちもそれを話してた」


ホントにそんな事を話してたのか?

星を見ながら?

おおいに疑わしい。


「ニコライとメイヴはしばらくそっちにかかりっきりだ。他の部も手が足りなくなるだろう。もしかすると、おまえの宇宙船をアテにされる案件も出て来るかもしれない」


ルークは短くため息をついた。


「仕方ない、“何でも屋”として雇われてるから」


「とりあえずは、引き続き状況を注視して、例の“蚊”のサーチを続けるしか無い」


「そうだな」


「虫除けスプレー買った方がいい?」


グオが大真面目にリラにそう聞いた。

それを受けてリラはルークの顔を見て大真面目に聞く。


「どう思う?」


「無いよりいいかも」


「無いよりな」


グオは納得したようにウンウン頷き、この場は解散ムードになった。


グオは道場に残り、俺と2人は宿舎へ向かう。

なんだか、自分がジャマなような気もしてきたので2人に言ってやった。


「俺は医療部に寄って帰る」


「まだ働く気?」


リラは目を丸くする。


「たいした用じゃない。じゃ、また。お疲れ様」


「お疲れ様」


そして2人と別れて歩き始め、立ち止まって振り返った。


「まっすぐ宿舎に戻れ」


2人にしてやる代わりに余計な一言は言わせてもらおう。


ルークはその言葉の意味がわかったのか、フッと笑う。


「わかってる」


やはり、関係は否定しないのか・・・


“好きなんだろ?リラのこと”


さっきのグオのセリフが蘇ったが、大きく深呼吸し、それを振り払った。




【医療部】



医療部へ入ったところで、引き換えそうと立ち止まる。


夜の医療部は、異様なほど静かだ。


別にこんなところに用なんてない。


そう思った時、突き当たりの研究室から、ジアン・パクが出て行くのが見えた。


ドアを開けたまま、何かフラフラした様子で廊下を歩いて行く。


「ん・・・?」


様子が、おかしい・・・


俺はその研究室の前まで行ってみた。

辺りにジアン・パクの姿はないが、ドアを開けたままだ。


中を覗くと誰もいない。

中央辺りにあるデスクのホロPCがついたままだ。


俺は中に入り、そのPCに目をやった。


データはホロでは投影せず、モニター画面に表示させてあるのみだった。


「これは・・・?」


専門では無いため詳しくはわからないが、おそらく人間の遺伝子の染色体の様子を表したものだろう。


その1箇所に、


“Stellar Phase Control Locus”


という文字が点滅しているのが見えた。


「ステラ・・・フェーズ・・・」


まさか・・・これは・・・?


俺は振り返り、誰もいない事を確認すると、腕のリンクコムでその表示されたデータをコピーした。


このままルークに送ろう。

ヤツならこれがなんなのか、詳しい事がわかるはず。


コピーを終え、研究室を出たところでジアン・パクと出くわした。


いつも一つにまとめている髪は、今日はまとめておらず、黒縁メガネもかけていない。


その目は瞳孔が開き切って真っ黒だった。


ジアンはオレを前にハッとして我に返り、白衣のポケットに入れていたメガネをかける。


「・・・キリュウ大尉!」


そしてそう声を上げた。


「大丈夫ですか?」


俺はとっさにそう言った。


明らかにいつもと様子が違った。


「あ、少し気分がすぐれず・・・」


ジアンはそう言いながら、下ろしている髪を触る。


「こんな時間まで仕事を?もう退勤した方がいい」


「はい、そうしようと思ってました。何か用事があったんですか?」


「いえ、たまたま通りかかったら、ドアが開きっぱなしで中に誰もいなかったので、気になって」


「ああ・・・すぐ戻るつもりで・・・」


「体調は仕方ないですが、施錠は気を抜かないようお願いします」


「はい、申し訳ありません。・・・あ、何か、見ましたか・・・?」


PCにデータを出しっぱなしにしていた事を気にしているのか。


「いえ、私が見てわかるものはない」


そう言って軽く首を横に振った。


「1人で戻れますか?」


「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


「無理をしないようにお願いします」


俺はそれだけ言うと、研究室を後にした。


“Stellar Phase Control Locus”


おそらくあれは、シータの王族だけが持つとされる遺伝子の事だ。


ジアン・パクは、ゼータが狙っているシータの痕跡を掴んでいるのかもしれない。


そしてさっきのあの、開ききった瞳孔・・・


あれがおそらく、ゼータの神経リンクで操られている目だ。


俺は足早に医療部を後にし、宿舎に戻りながらルークに今コピーした遺伝子のデータとメッセージを送った。





【宿舎エリア】



「じゃあ、また明日」


女子宿舎の前で彼女はそう言って立ち止まり、オレを見上げた。


門灯の柔らかいライトが、彼女の瞳に映る。


名残惜しそうなその顔がかわいい。


「また連絡する」


「うん」


オレは辺りに誰もいないのを確認して、彼女の唇にもう一度キスした。


「おやすみ」


「おやすみ」


彼女は微笑んで、オレに背を向けると宿舎へ入って行き、入り口でもう一度振り返ってこちらに手を振った。


かわいい。


思わず笑みが出てしまい、手を振り返す。


彼女の姿が見えなくなると、元来た道を戻り、男子宿舎へ戻る道をゆっくり歩いた。


あー、言っちまったな。

“特定の人になって”だなんて。


まさかのオメガ軍通いかオレは。

軍人女性には深く関わるまいと思って来たのに。

彼女のオレを見る目を見ていたら、応えずにはいられなかった。


ゼノンの元愛人なのに。



半ば自分に呆れながら、宿舎の部屋に帰り着くと、軍から支給されているリンクコムにメッセージの着信があった。


誰だよ、もうとっくに退勤時間は過ぎてるのに。


「カイ・・・」


なんだ。


“この遺伝子データはなんだ?”


「遺伝子データ?」


オレはコーヒーを入れ、ソファに座ってそのデータをホロで投影した。


「あぁん、なんだオレのデータじゃん」


“被験者 ルーク・ウォン”


と最初に入っている。


これはジアン・パクに受けろと言われて受けた遺伝子検査の結果だ。


例の、未知の遺伝子があるっていう・・・


見ていると、リンクコムにカイから音声通信の着信があった。


「なんだよ、このデータ医療部から持って来たわけ?」


『ジアン・パクが研究室で開いていたデータなんだが・・・』


まぁそりゃ彼女しかいないだろう。


ったく人のデータを開きっぱなしでカイにまんまとコピーされるなんて・・・一言言ってやらないと・・・


「個人情報流出だなー」


『それは誰のデータだ?』


あれ・・・

オレの“未知の遺伝子データ”だから送って来たのかと思ってた。


「誰のって・・・オレだろ」


カイは一瞬黙った。


『・・・おまえの・・・?』


驚いたような声が響くと同時に、


“Stellar Phase Control Locus”


の点滅の部分が現れた。


そのピンク色の光がオレの瞳にチカチカ映る。


その瞬間、いったい自分が何者なのか、知る事になる。


「これは・・・星脈位相制御領域か・・・」


シータの王族だけが持つ、特異遺伝子。


そしてそれは、オレ自身が、“王の血”を引いている証だった。





いつもお読みいただきありがとうございます。


本日は、登場人物エピソードです。


⭐︎カイ・キリュウ⭐︎


リラと同じく日本人設定。


“カイ”という名前は最初から決めていたので、生成AIに、カイのフルネーム何がいいと思う?日本人で。

と聞いたら、


「甲斐隼人」


というご提案が……

いや悪くないけど、それは違う……


ごめん、カイはファーストネームでお願い。

と質問し直し、いくつかの名字の候補の中から、


「桐生輝」


に決定。

カッコイイわー。

カイのイメージにピッタリ。


真面目でストイック、仕事熱心。

口数は少なくクールなんだけど、秘めた思いは強い。

リラのことが好きなんだけど、あくまでも仲間であることを貫こうとする人です。



– – – – – – – – – – – – – – – – – – – –



毎日21時更新。

全35話です。

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