episode14 : 墜落の夜、星の下で
【オメガ(Ω)軍 第一戦闘部】
翌日俺は、ゼータの生物兵器である“バイオドローン”の件を受けて、各部のトップ宛に極秘の通達を出した。
しかし、その通達など問題にならないほどの大きな事故が起きた。
『キリュウ!大変な事故が起きた!』
執務中に、ロベール少佐からホロ通信が入った。
「どうしましたか」
『タナーが東部砂漠地帯に墜落した!』
・・・は?
「タナーとは・・・わが軍の最新鋭の戦闘艦の、あのタナー?」
ロベール少佐は頷く。
『そうだ、あのタナーだ』
まさか・・・!
タナーはわが軍の次世代主力戦闘艦で、正式配備前の実戦データ収集中の任務中だった。
対ゼータ戦も想定し、初の異種族神経リンク耐性設計艦だった。
その設計には、アリゲーター・デバイスの応用が使われており、ルークも力を貸していたところだ。
「乗員は?」
『艦長のジェームズ中佐とは連絡が取れず、まだ詳しい被害状況は不明だ。第二、第三戦闘部は現地へ緊急派遣する』
その後数時間で、タナーの被害状況は明らかになってきた。
乗員55名のうち、大気圏に突入する前に脱出ポッドに乗れた6名だけが救助されたが、いずれも船内にいた時の爆発などで重症だ。
残る49名のうち、10名が遺体で発見され、39名が行方不明。
おそらく、大気圏突入時の船体の破断により、生存はほぼ絶望的だった。
これにより、チームAZFから医療部のニコライとメイヴは現地のタナー救助部隊に借り出された。
また、第三戦闘部は軍用犬を率いて現地に入ったのだが・・・
「クドウとリアムは残った?」
第三戦闘部の災害派遣チーム長からの意外な報告がホロ通信で寄せられた。
『先週、クドウが2日間消えただろ』
「ああ」
『あれ以来リアムとの足並みが揃わない』
たった2日間で・・・?
『クドウがリアムに対して躊躇しているような、そんな感じで・・・それをリアムが感じていて言う事を聞かない』
リアムに対して躊躇している?
そんな事はヤツがリアムのハンドラーになってからというもの、全く感じた事はなかったが・・・
やはり、クドウはいつもと何か違うのか?
『現地は砂漠地帯のためヘリからパラシュートで降りる。それが確実にできるハンドラーと犬は少ない。クドウ・リアムチームが来れないのは痛手だ』
確かに、パラシュートでの降下は、ハンドラーと強い信頼関係がある、限られた優秀な軍用犬のみだ。
『任務から外されたのはさすがにショックだったんだろう。合気道で精神集中するって言ってた。会ったら励ましてやってくれ』
「ああ、わかった」
ますます、クドウがバイオドローンで神経リンクを張られている可能性は高くなった。
リアムはそれを感じとっているのではないだろうか・・・
クドウとリアムがどんなふうに足並みが合わないのか、その時のクドウの様子に変化は無いのか。
気にはなったが、俺が集中できないリアムの前に姿を現すのは、リアムにとって良くない。
いったん、合気道の様子を見に行ってみるか。
*
【道場裏の庭】
「お疲れ様」
私は、道場裏の芝生の斜面に先に来て座っていたルークに声をかけた。
「お疲れ様」
ルークはこちらに顔を上げる。
私はその隣に腰を下ろし、仕事から解放され、彼のそばに来れた事に安堵のため息をついた。
今日は新型AI戦闘ロボットを体に装着しての訓練の後、タナー墜落事故の生存者のヒアリングに同席し、心身共に疲れた1日だった。
「生存者の証言は聞けたのか」
「うん」
ヒアリングしたのは、同期の女性だった。
私がいた方が落ち着いて話せるかもしれない、との配慮からだったが・・・
「それが、だいぶ錯乱してて・・・」
「錯乱?」
私は頷いた。
「艦長が、艦長じゃなかった、副操縦士も、副操縦士じゃなかった。ガクガク震えてそう言うばかりで・・・」
「それは・・・まだヒアリングができるような状態じゃないな。事故当日じゃ無理もないけど」
「そうなんだけど、他の生存者も、似たような事を言ってるらしくて」
「似たようなこと?」
「エンジンの爆発が起こる前、メインの操縦士が体調不良を訴えて、副操縦士に交代したそうなの。どうもそこからおかしかったらしくて」
「おかしかった・・・?」
「呼びかけても上の空で返事をしなかったり、艦長も妙な指示を出したり・・・」
私はそこまで言い、無言になってルークと顔を見合わせた。
おそらく、同じ事を考えている。
「考えたくはないが・・・」
「ええ、その、考えたく無い事の可能性は高い」
艦長と副操縦士の2人が、ゼータの神経リンクを張られていた可能性だ。
2人はまだ、見つかっていない。
「オレはバイオドローンのサーチをかけてみたが、特に何も引っ掛からなかった」
「そう・・・」
ルークは、私の神経リンク切除術と同じ方法で、基地内のバイオドローンをサーチできるかもしれないと言っていたが、それは不発に終わったようだ。
「ここで考えてても進展はない、明日に持ち越しだな」
ルークはそう言って仰向けに寝転がり、ホロ天体観測のスイッチを入れて目を閉じた。
「風が・・・気持ちいい」
私も仰向けになる。
6月に入り、晴れていれば初夏を感じる季節になった。
今日も、こんな状況とは裏腹に空は良く晴れ、満天の星空の空間に包まれる。
快晴の日は、もしかしたら、ルークが夜ここに誘ってくれるかもしれない。そんな期待を抱いていた。
期待通りホロセルにメッセージが入ると、任務のプレッシャーやストレスが癒やされた。
すぐそばにある、横顔と、かすかに香る、いつもの香水の匂い。
今の私の心を何よりも高揚させる。
彼はそんな私の視線に気付いたのか、こちらを見た。
「君が今、何考えてたか当ててあげようか」
「え?」
私は内心ドキドキし、視線をホログラムの星空に戻した。
「“私この人に恋してるのかしら”」
「ええぇ?」
思わず笑って誤魔化す。
ルークは仰向けからゴロンと体勢を変えてうつ伏せになり、両肘をついて上から私の顔をのぞき込んだ。
「試してみる?」
「え・・・?」
すぐ真上に迫った不思議な色の二重の虹彩の瞳は、私の唇へと視線を落とした。
そしてゆっくり顔を傾け、唇を近づける。
私は、目を閉じた。
1秒間だけの、優しくて、柔らかい感触。
ルークは唇を離して私を見つめた。
「ん?」
どう?
そう聞いているようだった。
「・・・オメガの唇は・・・柔らかい」
ルークを見つめ返し、正直に思った事を口にした。
その直後、再び私の唇はルークの唇にふさがれた。
ルークが・・・
好き。
私はルークの背中に腕を回すが、すぐに身を離して起き上がった。
ここは軍の中だ。
「誰かに見られたら・・・」
「じゃ、オレの船に来る?」
オレの船?
私は目をパチパチさせ、冷静になった。
そして、おもむろに、ルークに背を向け、両膝を抱える。
「行かない」
「なんで」
「だってあなたは特定の相手を作らないんでしょ?どういうつもりかわからないもの」
ここで流されてはいけない。
そんなこと思いたくないけど、グオが言ってたように、私がゼノンの愛人だったから、どんな女なのかやってみたいだけかもしれない。
そんなのはイヤ。
「じゃ君はどうなの」
「え・・・?」
私は再びルークの方を向いた。
「どういうつもりでキスしたの」
ど・・・どういうつもりって・・・
「ん?」
顔を傾けるルーク。
「・・・それを、私から言わなきゃいけないの?」
彼を相手にこっちから好きだって言うなんて、ハンデが大きすぎる!
「オレから言わなきゃいけない?」
彼はいつもの甘い笑みを浮かべる。
むうぅ・・・
口をつぐむ私を前に、ルークは提案をしてきた。
「わかった、じゃ、ジャンケンで決めよう」
へ?
「一発勝負だ」
ヨシ!
私は彼に向き直った。
「ジャンケンポン!!」
私はグー。
ルークはパー。
「あぁん・・・」
私は力の抜けた声を出しながら再び芝生に横になった。
「オレの勝ち」
笑いながらすぐ隣でこっちを見て横になるルーク。
「わかってるわよ」
どうしよう・・・
なんて言えば・・・?
あなたが好きって?
でもそれで、オレはゼノンの愛人とやってみたいだけ、とか答えられたら?
ドキドキしている私を、ルークの甘やかな笑みが捉える。
そして先に彼が口を開いた。
「君が好きだから、オレの特定の人になって」
え・・・?
待って・・・
思わぬルークの先制告白にテンパる。
「な・・・なにそれ・・・告白?」
ルークは笑った。
「そうだろうよ、オレが勝ったから先に言ったの」
「ルーク・・・」
「なに」
私は彼に抱きついた。
「好き」
彼は私の体を抱きしめた。
「知ってるよ」
「もう!」
私たちは顔を見合わせて笑い、再び唇を重ねた。
満天の星空が見下ろす、その下で。
だがその夜、星の静寂の裏側で、
確実に“何か”が動き始めていたことを、
私たちはまだ知らなかった。
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