episode13 : カーディスの蚊
※このepisodeには残酷描写、及び性的表現(R15相当)が含まれます。
【オメガ軍 AZF対策室】
「バイオドローン?」
AZFの定例会議の場で皆はそう聞き返した。
ゼータ宇宙域の惑星ダリアから帰還したルークは、ゼータのバイオドローンの情報を掴んでいた。
「リラ、聞いたことある?」
早速、メイヴが私にそう聞いてきた。
「うん・・・よく覚えてないんだけど、ゼノンの部下のカーディスという人物が中心になって開発していた生物兵器じゃないかと・・・」
ゼータは昔のSF映画のように、ある日突然大きな宇宙船で現れて、ビームで街を破壊する、などという古典的な攻撃は仕掛けない。
水面下で神経リンクを広げるのが侵略のやり口であり、そこに生物兵器を投入してくるのは自然なことだ。
「その話、いつ聞いたんだっけ・・・」
私は机に肘を付いて頭を抱え、記憶を探る。
「記憶データを“生物兵器”で検索する?」
カイに聞かれ私は顔を上げた。
「あー、“生物兵器”とは言及しなかったと思うから、“カーディス”で検索した方がヒットするかも」
「わかった」
カイはホロプロジェクターを起動した。
「ホロ1、検索“カーディス”」
“カーディス”
のワードで検索すると、いくつかの場面がヒットしたが、どれも
“Warning: Sensitive Content”
と表示され再生はされない。
私が他人には見せられない、見せたくないと思っているセンシティブな記憶は再生されない仕組みになっている。
おそらくカーディスの事を話したのはベッドの中なのだろう。
ゼノンが他種族の侵略や攻撃の内容を話すのは大半がベッドの最中だった。
その時が一番、周りに誰もいないからだ。
「ああごめんなさい、ちょっと私1人で確認しても?」
カイは頷いた。
ベッドの最中の記憶を見返すと思うと、隣のルークの顔は見られなかった。
「ホロ1、リラ、脳内再生」
私はAIにそう指示して目を閉じた。
記憶の持ち主の頭の中だけで、その場面は再生される。
最初に出て来たのは、公開処刑の場だった。
ああ、あの時か・・・
〈カーディス様がスパイを処刑されるんだな〉
道ゆく人々がそう囁く。
公開処刑が行われるのはゼノンの基地の前の広場で、予めその事が公示される。
私はスパイとして潜入間もない頃だったので、それがすごく恐ろしかったのを覚えている。
人々が見守る中、処刑されるスパイ3人は、看守と共に後ろ手をチェーンで繋がれ現れた。
それぞれ処刑台の上に立たされ拘束される。
原始的な攻撃こそしないゼータだが、内部を統制するための“見せしめ”である公開処刑は恐ろしいほど原始的だ。
〈あの・・・〉
私は隣の男性に話しかけた。
〈あの、後ろにいる方がカーディス様ですか?〉
遠目に見ても怪物のように大きな体は人に恐怖と威圧感を感じさせる。
〈ああそうだよ、その後ろに座られてるのが、ゼノン様だ〉
私はこの時初めてゼノンの姿を見た。
カーディスの威圧感が強烈過ぎて、その後ろにいたゼノンは目立たなかった。
ゼータは茶褐色の肌が特徴だが、ゼノンの肌の色は明るい方で、整った顔立ちはソフトな印象すら与えた。
がしかし、よく見るとその目は鋭い。
でも、あの人になら、近づける気がする・・・
私はこの時、ゼノンに近づく事を決めた。
〈あんたは下がってな、あんまり女性が見るもんじゃないよ。オメガの旅行者かい?〉
〈あ、はい・・・人だかりができてたもので、何かと思って・・・ありがとうございます〉
私はその男性に軽く頭を下げ、目立たないよう後ろの方へ下がった。
〈罪状!〉
カーディスが処刑台のそばに立つ。
〈この者たちは、祖国の利益のために我々ゼータにスパイ行為を働いた許されまじき犯罪者だ! ここに、量子分解刑に処する!〉
量子分解刑?
〈恐ろしい・・・〉
そばにいた男性が身震いする。
なら見なきゃいいのに、と思いつつ、怖いと思っている私も確認しないわけにはいかなかった。
カーディスの合図の直後、処刑台の3人は突然悲鳴を上げ、苦悶の表情で顔面を痙攣させた。
その顔は次第に崩れていき、人間の“顔”ではなくなり、“声”でもなくなる。
生身の人間が量子に分解されていくところを初めて目の当たりにした私は、嗚咽を上げた。
「リラ?」
異変を察知したルークが隣で私の肩を支えた。
「ホロ1、停止」
私はそう言って片手で口を覆った。
吐き気が・・・
ここは見るべきじゃなかった。
「大丈夫か」
優しく背中を撫でるルーク。
「ごめんなさい、大丈夫・・・」
ベッドの中かと思ったら思わぬ場面だった。
「カーディスが公開処刑を行うところだった・・・」
「公開処刑?」
聞き返すルークに頷く。
「民衆の前で、受刑者を量子に分解する刑なの・・・」
それを聞いたグオが声を上げる。
「うーえっ!グロい!」
私は深呼吸した。
「スパイに対する刑で、見せしめだったのよ」
あれを見た時私は、バレたら死のうと思った。
あのスパイたちは、刑に至るまでも拷問を受けていたはずだ。
その後ゼノンの愛人となった時私は、本当にゼノンを愛しているのだと自分に言い聞かせた。
自分をスパイだと思うとバレた時の恐怖は半端ない。
記憶は全てデータ化され、後から確認する事はできる。
だから、ゼノンの愛人でいる事に徹しようと思った。
「無理して見なくていい」
ルークは私の肩を抱いて優しくそう言った。
「君が確認しなくても、バイオドローンの事は調べればいい」
いやでも、見なければ。
私には、他のメンバーのように、何か秀でた能力があるわけではない。
取り柄は、スパイだったこと。
司令官ゼノンの愛人だったこと。
それだけなのだ。
「もう大丈夫よ、他の記憶を見るわ」
私はルークの腕から身を起こし、背筋を伸ばした。
心配そうなルークの表情は、私を思っている事が見て取れる。
それが安心でもあり、なんだかくすぐったいような感じもした。
「ホロ1、リラ、脳内再生再開」
再び目を閉じる。
〈あぁ・・・ノヴァ・・・〉
ベッドの中でゼノンは私の体に覆いかぶさる。
今度は思っていた通り、行為の真っ最中だ。
これは見せられない。
〈カーディスを・・・どう思う・・・〉
〈大きくて怖いわ・・・〉
ゼノンはフッと笑い、私の耳元に唇をはわせながら囁くように話す。
〈私は怖くないのか・・・〉
〈あなたは・・・愛する人だもの・・・でも・・・〉
〈でも・・・?〉
私は両手でゼノンの顔を包むようにしながら、彼の唇に自分の唇をはわせる。
〈あなたと離れるのが・・・怖い・・・〉
ゼータの唇は硬く、あまり激しくキスされると痛い。
ゼノンはそれをわかっていて、私に優しくキスし、赤くザラザラした舌を私の舌にからませる。
〈ずっとこうしていて欲しいの・・・〉
よく言うわ。
この時の私は、ある意味ゼノンの洗脳状態だった。
実際神経リンクを張られていたし、そうならざるを得なかった。
〈ずっとこうしている・・・〉
ゼノンはそう言いながら体を起こし、私の左膝を押して大きく脚を開かせる。
太腿の内側にある、“Z”のタトゥーを見ながら腰の動きを速めた。
ゼノンはそうする事が一番興奮するようだった。
〈侵略はあの大男に任せて・・・〉
〈あぁ・・・ゼノン様・・・〉
私はゼノンの興奮ポイントを理解し、更に盛り上がるよう声を出す。
〈ん? 気持ちいいか? ノヴァ・・・〉
〈気持ち良くて、どうにかなりそう・・・〉
〈ノヴァ・・・おまえはカーディスの蚊に刺されぬよう気をつけなければ・・・〉
カーディスの、蚊?
〈あの大男に・・・意のままに操られ、こうされてしまうぞ・・・んん?やられてみたいか〉
〈何を・・・イヤです、ゼノン様でなければ・・・〉
〈あの大男は・・・蚊を操って敵を侵略するフリをして・・・おまえにこうするつもりでいるかもしれない・・・〉
この時は何を言っているのかわからなかったが、後から考えると、カーディスは蚊のような生物兵器を準備している事を示唆していたのだ。
そしてゼノンは、カーディスを優秀な右腕としながらも、その存在に怯えているような素振りもたまに見せた。
私はそこまでで目を開けた。
「ホロ1、停止」
メンバーが皆私を見つめていた。
「ゼノンは、“カーディスの蚊”に刺されると、意のままに操られると言ってたわ」
「カーディスの、蚊?」
カイがそう聞き返す。
「バイオドローンとは、“蚊”のような生物兵器という事か」
私はルークの言葉に頷いた。
「おそらくね。その“蚊”に神経リンクの媒介をさせるんだわ」
「そして、神経リンクを張った人間を、意のままに操る?」
グオがそう言い、室内に一瞬、沈黙が流れる。
そしてその沈黙をカイが破った。
「・・・クドウ・・・」
クドウ?
私はハッとした。
「いつもと様子が違う人物だわ・・・」
「ああ、あの、2日間姿を消してたハンドラー?」
ニコライがそう聞き返した。
「突然2日も休暇を取るようなヤツじゃないから何があったのかと思っていたところだ」
「そのハンドラーの上長に、様子を見ておいてもらう必要があるな」
ルークの言葉にカイは頷いた。
「同時に各部のトップに、普段と様子が違う者がいないか、確認をするよう通達を出す」
「ゼータに神経リンクを張られて操られている人物は、瞳孔が拡張してまるでゼータの目のようになるのよ・・・」
私は思い出すようにそう言った。
「私は、神経リンクを張られても、操られる事はなかった。“カーディスの蚊”に刺されたとしても、操られずに済む人もいるはず」
「各自、自分の周囲の人物にも注意を払おう」
カイの言葉に皆は頷いた。
今のところゼータの動きはないものと思っていた。
でもそれは違う。
水面下で、ゼータの侵略は確実に進んでいる。
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