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episode10 : 星脈の継承者



星脈の継承者



【オメガ軍

 カイ・キリュウ大尉の移動中】



リラ・ミタライが惑星Zeroniaから帰還して、3週間が経とうとしていた。

今のところまだゼータは目立った動きを見せていない。


チームAZFはアリゲーター・デバイスを装着し、通常任務とAIロボットを使った戦闘訓練を行う傍らで、数日に一度集まる程度になっている。


アリゲーター・デバイスは急ピッチで増産されており、準備が出来次第、血液検査をパスした第一戦闘部の人員が装着を進めている。


今のところ血液検査で拒絶反応を示したのは、リラとルークの2人だけだ。


「キリュウ大尉!」


3日ぶりにAZFの対策室に向かう途中、第三戦闘部の二等兵に声をかけられた。


「どうした」


二等兵は振り返った俺に敬礼する。


「第三戦闘部二等兵のカサキであります!」


俺は敬礼を返した。


第三戦闘部は、軍用犬の部隊だ。


「実は、クドウ一等兵が昨日から行方不明になってまして・・・」


「なんだって?」


俺は眉をひそめた。


「それはどういう事だ」


「はっ、昨日定刻に出勤せず、宿舎の部屋へ様子を見に行くと姿がありませんで・・・実家やその他の思い当たる友人知人も当たったのですが、行方がわかりません」


「まさか・・・何か事件にでも巻き込まれたんじゃ・・・」


「その可能性もあるので、警察に届けを出したところです。キリュウ大尉、何かご存知ありませんか?」


俺はため息をついた。

クドウとは、リアムを通しての付き合いがあるだけで、プライベートな事は何も知らない。


「いや、わからない」


「そうですか・・・」


二等兵カサキは肩を落とした。


「リアムは頭がいいから、クドウ一等兵以外の言う事は聞きません。昨日は良かったんですが、今朝は食事にも見向きもせず・・・」


そうか・・・


「今ちょっとリアムのところに行こう」


「え・・・っ、いいんですか?」


「リアムにゴハンを食べさせるぐらいの時間ならある」


「助かります!」


俺はホロセルのメッセージでニコライに状況を送り、少し遅れると伝えた。


それにしても、クドウのヤツ、いったいどうしたんだ。

ヤツは真面目な性格だから、無断欠勤などは考えられない。

事件事故に巻き込まれた可能性は高い気がする。


軍用犬センターのドッグランで、ふてくされる時専用の場所にリアムは伏せていた。

あそこに伏せているという事は、そういう事だ。


俺が来た事に気がつくとすっくと立ち上がる。

クドウがいなくなり寂しかったのか、キュゥンと鳴き声を上げた。


「リアム、腹減ってないのか、ん?」


しゃがんでしばらく撫でてやると落ち着きを取り戻してきたように見えた。


「さ、ゴハンだ、行くぞ」


犬舎に連れて行き、用意されたリアム専用のフードボウルの前まで行くと、ためらわずに食べ始めた。


「良かった・・・」


その姿を見たカサキ二等兵は安堵の声を漏らした。


「夕方の食事は何時だ」


「17時です」


17時か・・・

その時間は外部との会合だから来れない。


「もしその時、どうしても食べない時は、第一戦闘部のリラ・ミタライ中尉にリンクコムで連絡してくれ」


「リラ・・・ミタライ中尉、ですか」


「リアムが一発でなついた奇跡の女性だ」


二等兵カサキは驚いた。


「そんな人いるんですか!犬の扱いが仕事の自分達にも見向きもしないリアムが・・・」


「彼女には事情を説明しておく」


「了解しました!」


俺はリアムが食べ終わるのを見届けて対策室へ向かった。

クドウが何事もなく戻ればいいが・・・




【AZF対策室】



「クドウ一等兵が行方不明ですって?」


対策室に出勤すると、ニコライから事情を聞いていたリラが心配そうに俺にそう話しかけた。


「ああ、らしい」


「リアム、ゴハン食べた?」


「食べた。ああその事なんだが、もしリアムが夕食を食べなかったら、君に行って欲しいんだが、いいか、17時だ」


「もちろん!」


「すまない、俺は今日その時間、民間の団体と会合だ」


俺は言いながら自分の指定の席についた。


「始めよう。まずニコライ、アリゲーター・デバイスの装着状況を」


「滞りなく進んでいます。今のところ、新たに拒絶反応を示す者もいません」


リラはともかく、ルークの父親はいったい、何者なのか。


ジアン・パクからの報告書によると、


“染色体11番の末端付近に未知の遺伝配列が認められた”


とある。


“詳細はより精密な分析が必要”


とされており、ヤツがいったいなぜそんな遺伝子を持つのかは謎のままだ。


「グオ、外来宇宙船ポートの状況は?」


「惑星Zeronia経由の渡航者は、別室で検疫と渡航目的のヒアリングを行っています。混雑はしており、文句を言うヤツもいるようですが、今のところ大きな混乱にはなっていません」


「特に問題のある人物や団体は?」


「ありません」


何事も無さすぎて、まるで嵐の前の静けさのようで不気味だ。


「ルーク」


ルークは俺に呼ばれて顔を上げる。


「機関システム部の方はどうだ」


「アリゲーター・デバイスを応用して、新型の宇宙艦“タナー”に搭載する計画を進めている。また同じ理論でシステムをハッキングされないよう、対策をしているところだ」


ルークは医師だが、量子工学の知識もあり、メカに強い。

アヤシイところはあるヤツなのだが、人当たりも良く仕事はできる。


未知の遺伝子を持つという事が発覚し、ルークの在籍を問題視する声も一部ではあるが・・・

今のところ、俺の監視下に置くという条件で契約を遂行している。


「ミタライ」


「はい」


「ホロプログラムはクリアできたのか」


彼女は、は?という顔をする。


「中級コースには進めましたが・・・」


「クリアできるよう努力しろ。その後は戦闘ロボットの扱いもマスターしなければならない」


「・・・了解」


何か納得できないような顔をしているが、彼女はとりあえず、“ゼノンの元愛人”というところに一番の価値があり、まずはその身を守る事を最優先にしてもらわなければならない。

護身は何より大事な事だ。


「グオに合気道の相手もしてもらえ」


「は・・・はい、わかりました」


リラはそう答え、グオの顔を見た。


「今夜特訓」


グオはそう返した。


それぞれの報告が終わると、今日のAZFの会議は早々に終了した。


メンバーが部屋を後にする中、ルークがリラを呼び止める。


「リラ」


「なに?」


「これを付けてて」


ルークは、シルバーの細いチェーンのようなブレスレットを出した。


「ゼータの神経リンクに対して位相ノイズを出す金属だ。オレたちは装置が付けられないから、念の為その代わり。これなら拒絶反応は起きない。手を出して」


ルークに言われ、リラは左手首を出す。


「キレイね、アクセサリーみたい」


リラはそう言いながら、左手首に付けられたブレスレットを窓の光にかざして見る。


「君に似合うように作った」


ルークのその言葉に、部屋のドアからのぞいて見ていたグオが、いつもの調子で突っ込む。


「っかー!どうしておまえはすぐそういうセリフが口をついて出てくるんだよ!」


「語彙力の差だ」


「なーにが語彙力だよ!ヤラシーだけだ!」


見た目は、ルークとお揃いのブレスレットのように見える。


2人の言い合いを見るリラは少し恥ずかしそうで、でも嬉しそうにしていた。





【惑星Zeronia

 アルファ司令部 ゼノンの私室】



「ゼノン様、報告に上がりました」


大執行官カーディスは、いつものように黒いマントを翻して私の前にひざまづく。


「遅いぞ!作戦はどうなっている!」


「はっ、申し訳ありません!」


おそらく逃げたノヴァの情報を元にオメガは検疫を強化しており、バイオドローンの持ち込みには想像以上に手間取った。


だが昨日、オメガ軍に持ち込まれたとの報告を受け、その後の神経リンクの構築状況がまだわかっていなかった。


「早速、強いリンクの反応を示す者が数名出ております」


「数名だと?たった数名?」


「ダリー族の報告によると、オメガ側は我々の神経リンクを無効にする装置を開発し、多くの者が装着したとの事で・・・」


私は舌打ちした。

グズグズしている間に対策を取られたのだ。

だからオメガは侮れないのだ。


「強い神経リンクの反応があったうちの1人の男は、対ゼータ対策チームのリーダーと友好関係があるらしく、今はこの男がどこまで操れるかテスト段階です」


その時、部屋のドアにノックがあった。


「カーディス様、ダリー族より続報が・・・」


カーディスの部下だ。


「なんだ」


カーディスは部下の方へ近寄り、話を聞く。


小声ではあるが、それが何かただならぬ報告を受けているように見えた。


「よし、NPリンクを繋げ」


「はっ」


カーディスは緊迫した様子で部下にそう指示すると私の前に戻って来た。


「ゼノン様、神経リンクが構築された人間に軍医の女がおり、我々のリンクの呼びかけに応じ、驚くべき情報を流して来ました」


「驚くべき?」


私が聞き返すとカーディスは勝ち誇ったように笑った。


「シータの遺伝子を持つ男の存在です」


「なんだと・・・?」


シータの力の痕跡とは、シータの生き残りだったという事か・・・!


「まず、その男の遺伝情報をご覧ください」


ホログラムでその情報が表示される。


「オメガの染色体11番末端・・・通常なら存在しない領域に追加の遺伝子コードが挿入されています」


青白く光る、オメガの遺伝子配列。

その一画に、点滅している部分があった。

その部分が拡大され、文字が表示される。


「“Stellar Phase Control Locus”ま、まさか・・・」


私は驚愕した。


「さようでございます、ゼノン様・・・星脈位相制御領域、つまり、シータの王族だけが持つ特異遺伝子です」


シータの王族が、生き残っている・・・?


「そんなバカな・・・!」


シータの王アルセリオンの妻や娘、血族の全滅は確認されているはず。

その最後に、アルセリオンは自ら惑星Eliosを消滅させたのだ。


カーディスは手のひらを上に向け、NPリンクで発せられるホログラムを投影した。


「この男です」


現れる男の姿。


“ルーク・ウォン(28)元オメガ軍医師”


その顔を見て私は震えた。


「アルセリオン・・・」


カーディスは、そう呟く私に頷いた。


「目が、王アルセリオンに似ています」


まさかそんなはずは・・・


アルセリオンは、アル=ラーグスの命により、我が妻の父が司令官だった時代、死に追いやった。

28年前の事だ・・・


「この男の詳しい身辺の調査を」


「はっ」


「それから・・・」


「ノヴァ様でございますか」


カーディスは私が言わんとしている事を先に言う。


「侵入しているダリー族とリンクを張った軍人に調査をさせていますが、“アリア・カトウはZeroniaでのスパイ任務中に行方不明になった”とされているようです」


そんなはずはない・・・

ノヴァは生きている。

生きて、軍に戻っているはずだ。


「シータの遺伝子の男の情報を上げて来た医師に、ノヴァの生体データを送りスキャンをかけさせろ」


「はっ」


その時、いつものように部屋のデイベッドでくつろいでいたエリュシアが口を出す。


「シータの力の痕跡の正体がわかったんだから、ノヴァの事なんてどうでもいいんじゃ?」


私はエリュシアには何も答えず、カーディスに言った。


「もう良い、下がれ。何かあればすぐに報告を」


「はっ、引き続きオメガ主要自治区にバイオドローンの解放を進めてまいります」


なんにしろ、状況は大きく前進した。


アル=ラーグスは、ノヴァを追えば自ずとシータの力は姿を現すとおっしゃった。

ノヴァは、シータの力に呼び寄せられた、と。


ならばその逆もあり得るはず。


シータの遺伝子を持つ男を追えば、自ずとノヴァは現れる。





本日も、お読みいただき、ありがとうございます。


星脈とは、

宇宙に存在する天体・生命・意識が相互作用することで生じる情報とエネルギーの循環経路。


人間の神経系が電気信号と化学反応によって

身体全体を制御しているように、

星脈は宇宙規模で同様の役割を果たしている。


という設定です。


シータの王には、

この星脈を「視覚・感覚」として捉えることができる極めて稀な存在であり、ルークはその血を受け継いでいます。


星脈がもたらす力の全容については、

物語の進行とともに少しずつ明らかにしていこうと思います。


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