行く神
彼の父は偉大だった、そう皆はいう。神の血脈は受け継がれてきた。だから皆は彼についてきた。
過酷な探検だ。
数は力、守りは有利、それを捨てるのだ。
自然は神である。数も利も神の気まぐれには勝てない。対抗出来る事もあるが出来ない事もある。人間の都合等は考慮されはしない。
絶対に勝てない相手となった時の負けに備えるのだ。
彼が見つけた洞窟は3年の準備期間に、少数ずつ人を送り、自らの住む場所に女を受け入れられるよう準備をととのえる。これは現代でも受け継がれている伝統だ。
最初に探す時とは違う。移動は若者の足で真っすぐ進めば1日半、力のある若者なら死ぬ可能性は低い。
150人にまで増えた洞窟から8人をひきつれる。
向こうには最初に3人を送り、3人づつ新たに人を送る。現場での混乱を抑えるため、1人は常にいるようにする。過酷な役割のためその洞窟のNo.2の地位につく。
新たな3人が来るたびに残るものが3人となるように6人か何らかの理由で減っていればそれより少ない人数で相談するのだ。
今回の8人は男6人 女2人 女の足であり、移動には2日かかる。男6人としているのは先についたものが反乱を起こした際に数の有利を取れるようにである。
父はいった。
「お前達は選ばれた者達だ。お前達は兄弟であり、新たな神となるのだ。」
ほんの小さな、ニュアンスの違いだ。新たな神になるように言ったのは息子だけのつもりだった。しかし彼等は探検を超えた、真の絆をもったものだった。
彼等は皆、自分達は神になると信じたのだ。先にきている3人含め、11人の若者達。移動は適度に行われる。新たな洞窟が滅び苦労が無駄にならないため、しかし共倒れにもならない範囲で援助をされる。
援助は後々の支配の為という事は神の親子しか知らない。今回はそうならなかっただけの事だ。
旅立った神の後継者にその気はなかった。支配を受け入れる気でいた。父が主であり彼は従のはずだった。
他の神と呼ばれた7人は違った。探検は危険である。自分達が危険を冒したのだ。なぜ従である必要があるのか。彼は理由を説明すれば納得を得られず殺される事が分かった。
その事で争いが止められるのなら、彼は自らの遺伝子に込められた本能に逆らい死ぬ事を選んだだろう。
いや、神の遺伝子には役割のために死ぬ事が組み込まれているのかもしれない。
けれどこれは彼の死では止まらないのだ。
後の人々は優秀な弟に嫉妬した兄の反乱というかもしれない。しかしまだこの時代には歴史を残す文化は生まれていなかった。
神話として語りつがれる可能性はある。
神話では兄弟はいづれ争うのだ。争わなかった兄弟は神話にならないのだから。




