第9章 ムラサカ・リターン ―「打つ理由を思い出せ」―
灰色の空。
動かない風。
音のない世界。
人々は笑いもしない。泣きもしない。
当たりもハズレも、意味を失っていた。
その中で、少年がひとり、古い木箱を蹴っていた。
「こんなの、何の意味があるんだよ……」
その時。
箱の中から、ゆっくりと男の声が響いた。
「……打ち方、教えてやろうか。」
少年が振り向くと、
そこに立っていたのは、ボロボロのコートをまとった男。
顔には傷。
目の奥には、確変の火。
「アンタ……誰?」
「俺か? ただの打ち止め経験者だ。」
ムラサカはそう言って、台に玉を一つ置いた。
「確率ってのはな……“終わった”と思っても、次の回転が始まるんだ。」
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カチン——。
玉が転がり、跳ね、止まり。
……ピュイン!✨
「光った……!」
少年が目を見開く。
ムラサカは微笑んだ。
「そうだ。それでいい。
信じて弾くやつがいる限り、確率は死なねぇ。」
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その夜。
風が吹いた。
世界に久しぶりに“確率の揺らぎ”が戻る。
どこか遠くで、女の笑い声が聞こえた。
> 「フフ……やっぱりアナタ、生きてたデスヨ♡」
ムラサカは空を見上げる。
「アイリ……また打とうぜ。今度は、勝ち負け抜きでな。」
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空に大きな“7”が浮かび、
確率はゆっくりと、再び世界に流れ始めた。
ムラサカは少年に振り返り、静かに言った。
「――打て。
当たるかどうかじゃねぇ。
打つ理由を、思い出せ。」




