第4章 確率は王をも支配する
ムラサカが“グランド・タイガー神殿”を建ててから、半年。
村は一変していた。
畑は放置され、子どもまでもが木玉を磨いていた。
老人は朝から神殿に並び、祈るように玉を弾く。
「ムラサカ様、今日こそ確変を……!」
「昨日はハマりでしたが、きっと今日は当たります!」
ムラサカは玉箱(木箱)を積み上げながら、満足げに微笑んだ。
「いいねぇ……みんな、ちゃんと“沼”ってきてる。」
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そんなある日、王都から一台の馬車がやって来た。
王国の使者だという。
「ムラサカ殿。陛下が、あなたの“確率の奇跡”をお試しになりたいと。」
ムラサカはニヤリと笑った。
「ついに、王様も打ちたくなったか。」
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王都アドラク。
白い城壁の中、金色の王座。
ムラサカは王の前に立っていた。
王は厳しい目をしていたが、その手は興味で震えていた。
「これが……“確変”とやらか?」
「ええ。陛下。これは神の御業じゃありません。確率の理です。」
ムラサカは自作の豪華版パチンコ台を披露した。
魔力で光る盤面。回転するシンボル。
観衆が息を呑む。
ムラサカは説明した。
「陛下、玉を打ってください。当たるかどうかは神でも分かりません。
ですが、打たなきゃ絶対に当たらない。」
王は玉を弾いた。
転がる玉。跳ねる釘。
——静寂。
次の瞬間、盤面が金色に輝いた。
「……!?」
王の顔が一気に明るくなった。
「当たった……! 本当に、当たったのか!?」
群衆がどよめき、神官たちは震えた。
ムラサカは微笑んだ。
「それが、“確変”です。人は誰でも、当たる瞬間を信じて生きてるんです。」
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王はその場で宣言した。
「この男を、王国娯楽顧問に任ずる!」
歓声が上がった。
ムラサカは深く頭を下げる。
その目は、輝いていた。
「……これでいい。確変の輪が、世界を包む。」
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こうしてムラサカは王都に自らの神殿を建設した。
“確率の理”は国家の娯楽、そして信仰となった。
街には光があふれ、人々は笑顔で玉を弾く。
だが、ムラサカは気づいていなかった。
その笑顔の裏で、金も時間も、人の心までもが吸い込まれていくことを——。




