第3章 グランド・タイガー神殿、開店
それから一か月。
村の広場には、奇妙な建物がそびえ立っていた。
木と石で作られた巨大な小屋。
入口の上にはムラサカ自ら彫り込んだ文字。
——《グランド・タイガー神殿》——
ムラサカは胸を張った。
「ついに、完成だ……!」
建設に必要な資材は、村人たちが進んで提供してくれた。
“玉を入れると当たる奇跡の箱”として噂が広まり、
彼はいつの間にか“神の使い”扱いされていた。
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開店の日。
神殿の前には、村人が長蛇の列を作っていた。
ムラサカは白い布を纏い、威厳ある声で宣言した。
「よく集まったな、村の民たちよ。
今日、この地に“確変”の火を灯す!」
どこから仕入れたのか分からないラッパを吹き鳴らし、木製の扉を開く。
中には並んだ十台の手打ちパチンコ台。
木製の盤面には、手彫りの牙狼が描かれていた。
「打ち方を教えよう。
玉を弾き、穴に入れば“当たり”。
それが神の意志だ。」
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最初の挑戦者は、村の若者リオだった。
震える手で玉を弾く。
玉は転がり、盤面を跳ね回る。
そして、コトン——と穴に吸い込まれた。
「……入った!」
次の瞬間、ムラサカが隠していた魔法石が光り輝いた。
部屋中に金色の光が満ちる。
「当たりだぁあああ!!」
村人たちは叫び、跪き、泣いた。
「ムラサカ様! 本当に神だ!」
「奇跡が起きた!」
ムラサカは腕を組み、満足げに頷いた。
「……これが、確率の美学ってやつだ。」
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夜、神殿の前で焚き火を囲む。
村人たちは皆、今日の「当たり」の話で持ちきりだった。
ムラサカは静かに呟く。
「人間ってのは、当たった瞬間の快感を忘れられねぇんだよ。
その一瞬のために、生きる。……俺もそうだった。」
焚き火の火が、彼の瞳に映る。
その奥で、狂気とも信念ともつかない光が揺らめいていた。
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こうして、“確変の神”ムラサカは誕生した。
村は繁栄し、人々は祈るように玉を弾いた。
だが、その“快感”は、やがて王国全体を巻き込む熱狂へと変わっていく——。




