第1章 確変スタート
午前十時、開店チャイムが鳴った。
グランドタイガー町田店。
ムラサカはその音を、まるで教会の鐘みたいに神聖だと思っていた。
財布の中には一枚の一万円札。
電気代も家賃も払っていない。
だが彼にとって、それは“投資”だった。
今日こそ当たる。そう信じていた。
「今日こそ……引ける気がすんだよな」
牙狼の筐体に座り、右手でハンドルを握る。
銀色の玉が弾かれ、盤面を駆け上がっていく。
液晶の中、金色の狼が吠えた。
次の瞬間、光。
眩しさと轟音。
そして、世界が反転した。
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気づくと、風の音がした。
草原。
目の前に広がる青空。
「……は?」
ムラサカは立ち上がり、辺りを見渡す。
電柱も、コンビニも、パチ屋のネオンもない。
どこまでも、緑。
「おい……どこだここ……?」
背後から声がした。
「旅の方、どちらから?」と、村人らしき青年。
ムラサカはその肩をつかんだ。
「すまん! この辺に“グランドタイガー”ってパチンコ屋、ねぇか!?」
「……ぱ、ちんこや?」
「そうだ! 光って、鳴いて、金が吸い込まれる神の機械だよ!!」
青年は怯えたように後ずさる。
「な、なんて恐ろしい……!」
ムラサカの眉がピクリと動いた。
「……ねぇのか?」
「ね、ねぇです……」
——ブチッ。
「おいおいおいおい!! 文明退化してんじゃねぇかッ!!」
ムラサカの怒号が草原に響いた。
鳥が飛び立ち、青年は腰を抜かす。
「ふざけんな……俺の人生、パチンコしかねぇのに……」
地面に膝をつき、空を睨む。
「この世界、マジで通常時かよ……!!」
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そのとき、頭の中に声が響いた。
> 『汝、確変を望む者なり。』
ムラサカの目が見開かれる。
「……お?」
> 『ならば、この世界に“確変”を創り出せ。』
ムラサカはゆっくり立ち上がり、ニヤリと笑った。
「……なるほどな。わかったよ。俺がこの世界に、パチンコを作ってやる。」




