8 容態
車に戻り、ゆっくりと運転席に腰を下ろした。キーを回すとエンジンが静かに唸りを上げ、車内に振動が広がる。その瞬間、不意に健三の言葉が脳裏によみがえった。
――「お化け屋敷に行ったから、アキラおかしくなったのかなぁ」
軽い冗談のように口にしていた言葉。だが今になって思うと、冗談では片づけられない気がした。もし本当にあの屋敷が原因だったとしたら……。そして、もし俺のさっきの謝罪が届いていたとしたら……。
「これでアキラの容態が少しでも良くなれば……」
そんな淡い期待が胸の奥でふくらんだ。もちろん、それで全てが解決するなんて都合のいい話だと分かっている。それでも――もしも、もしも本当に“許し”を得られたのなら。
ハンドルを握りながら、俺はぼんやりとそんなことを考えていた。祈るような気持ちでアクセルを踏み込み、アキラが入院している病院へと車を走らせた。
少し走ると、病院の建物が視界に入ってきた。
あの晩――仲間たちとここへ駆け込んできた時は、目的地までの道のりが途方もなく長く感じられた。けれど今、こうして冷静に運転してみると、思っていたよりずっと近い場所にあるのだと改めて気づかされる。
やはりあの夜は、誰もが動揺していて、冷静な判断力を失っていたのだろう。距離感さえも狂わせてしまうほどに。
そんなことを思い返しながら、俺はゆっくりとハンドルを切り、病院の駐車場へ車を停めた。
病院の自動ドアをくぐり、中へ足を踏み入れる。受付で手続きを済ませ、アキラの病室の場所を尋ねると「二階です」と告げられた。俺は礼を言い、そのまま階段へと向かう。
一段ずつ確かめるように登っていくと、不意に視界の先を横切る影があった。
白衣姿のナースが、顔をこわばらせながら廊下を駆け抜けていく。
その慌ただしい足音が、胸の奥に不穏なざわめきを呼び起こした。
――まさか、アキラに何かあったのか?
嫌な予感が脳裏をよぎった瞬間、気づけば俺は駆け足になっていた。
アキラの病室へと一気に距離を詰めていく。
そして、追いかけるように視界の端で、先ほどのナースが同じ病室のドアを押し開け、中へ飛び込んでいくのが見えた。
胸が強く締めつけられる。
アキラ……まさか、本当に――。