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49 ざわつき


「ひなちゃん、彼の名前は?」


突然の質問に、ひなは思わず手を止めた。

目の前の美歌は、まるで何かを確かめるように、

穏やかな笑みを浮かべながらもその瞳の奥は鋭く光っている。


一瞬、どう答えていいのか分からなかった。

けれど、気づいたときにはもう言葉が口をついていた。


「……シュウです」


あれ、なんで私、今すぐ答えちゃったんだろう。

普段なら“なんでそんなこと聞くんですか?”って

軽く笑って返すはずなのに——

なぜかこの人の前では、それができなかった。


ひなの心の中に、

“この人には嘘がつけない”という不思議な確信のようなものが芽生えていた。


美歌はゆっくりと頷きながら、

まるで何かを見透かしたように微笑んだ。


「ひなちゃん、きっと——これから毎日、コーヒーを飲みに来ると思うの。

よろしくね」


いきなりの言葉に、ひなは少し目を丸くした。


(え……? 毎日? 誰が?それとも——この人が?)


意味が掴めず、

ほんの一瞬、胸の奥がざわついた

けれど、美歌の柔らかな笑顔に圧されるように、

とりあえず笑顔で返した。


「は、はい……いつでも大歓迎です、美歌さん」


すると美歌は、まるで“その返事を待っていた”かのように

穏やかに目を細め、優しく言葉を重ねた。


「ひなちゃん——」


「はい?」


「これから、よろしくね」


その声は、不思議と耳の奥に残るような響きだった。

まるで“普通の挨拶”ではない、

何かもっと深い意味が込められているような——そんな感覚。


ひなは一瞬だけ言葉を失ったが、

すぐに微笑みを返した。


「……はい、こちらこそ、よろしくお願いします」


そう言って軽く会釈をし、

少し息を整えてからその場を離れた。


離れた時

まるで“何かが始まってしまった”ような、

胸の奥のざわめきが、静かに波のように広がっていった——。

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