表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/48

46 やばい……


バイト先に着いた途端、ひながまっすぐ俺の方へ駆け寄ってきた。

「シュウ、どうしたの? 具合悪いんじゃない?」

心配そうに顔を覗き込まれて、思わず足を止める。


「え? いやいや、別になんでもないよ。どうして? 俺、至って普通だって」

なるべく明るく返したつもりだったが、自分でも声がわずかに掠れているのがわかった。


ひなはじっと俺の顔を見つめ、首を横に振った。

「だって……顔色がめちゃくちゃ悪いよ。それに目もくぼんでる。昨日から……あれから、何かあったんじゃない?」


その言葉に一瞬、心臓がドキリとした。

「な、何もないよ。まっすぐ帰って、早めに寝ただけ。多分、寝過ぎたのかもな」

笑いながら肩をすくめてみせたが、その笑顔がどこか引きつっていること気づいた。


ひなの眼差しは真剣そのものだったので、自分でも少し不安になってきた。


気をそらすようにバックルームへ入って、ふと鏡を覗き込む。

「……えっ」

思わず声が漏れた。映った自分の顔は青白く、確かに頬がこけて目の下には影が落ちていた。普段の自分とはまるで別人のような、不健康そのものの顔色。これじゃ、ひなが驚くのも当然だ。


「……やばいな、これ」

小さく呟きながらも、薬は飲んだし大丈夫だと自分に言い聞かせる。けれど心の奥では、理由のわからない体のだるさと、自分でも気づかなかった異変に、じわりと不安が広がっていくのを止められなかった。


お店に戻ってから、なんとなく身体が重い気がして、ひなに向かってぽつりと漏らした。

「やっぱり、風邪かなぁ……」


そう言った瞬間、ひなの視線が鋭く俺に突き刺さった。

彼女はしばらく黙ったまま、じぃっと俺を観察するように見つめてくる。

その真剣な眼差しに、少しだけ居心地の悪さを覚える。


「……絶対、木曜日までには治してよね」

ひなはきっぱりと言い放った。

「風邪で行けなくなったら、ほんとにやだからね」


声の調子には明らかな苛立ちが混じっていて、心配してくれているのは分かるのに、それ以上に怒りの方が勝っているように聞こえる。

俺が咳き込むのを見て、彼女はさらに追い打ちをかけるように言葉を重ねてきた。


「シュウ、ちゃんとご飯食べてる? だから体力ないんだよぉ。

ほんと、しっかりしてよね!」


ひなの声は少し震えていて、それが余計に強く胸に響いた。

怒っているのか、心配しているのか。いや、きっとその両方なんだろう。

だけど、俺にとっては「やっぱり心配よりも先に怒られたか」という感想しか浮かばなかった。

思った通りの展開に、苦笑いがこぼれてしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ