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44 不思議な夜


それからしばらくの間、俺たちはリビングで取りとめのない会話を続けていた。

どこから来たのか、大学ではどんなサークルに入っているのか、そして気がつけば、ひなのことまで話題に上っていた。二人は熱心に耳を傾け、ときおり笑顔を見せてくれる。そのやり取りが妙に居心地よくて、初めて会ったはずなのに、まるでずっと前からの知り合いの家に遊びに来ているような錯覚さえ覚えた。


時計を気にした瞬間、はっとする。気づけばもう一時間以上も経っていたのだ。

「もう遅いので、そろそろ帰りますね」

そう腰を浮かせると、奥さんがやわらかな声で言った。


「泊まっていっても構わないのよ?」


不意の申し出に、心が少し揺れる。けれど、流石に初めての訪問で泊まっていく勇気はなかった。

「いえ、帰ります。お気遣いありがとうございます。明日もバイトなので……」

そう頭を下げると、彼女は少し残念そうに微笑んだ。


「じゃあ、仕方ないわね」

すると、隣にいた男の子が元気よく声をあげる。

「お兄ちゃん、また遊びに来てね!」


その瞳は真っ直ぐで、無邪気で、それでいてなぜか抗えない力を持っているように感じた。

「うん、また来るよ」

自然にそう口にしていた。


すると奥さんも続ける。

「引っ越してきたばかりで、この子、まだお友達がいないんです。よかったら、また遊びに来てくださいね」


その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

「はい、また遊びに来ます」

気づけば、そう答える自分がいた。まるで見えない糸で引き寄せられるように、もう次に訪れる約束をしてしまっていた。


最後に挨拶をして玄関を出ると、外の空気はひんやりとしていた。

ふと見上げると、夜空がぼんやりと霞んでいる。星も月もかすんで輪郭を失い、まるで夢の続きのように現実味が薄れている。

(……不思議な夜だな)

そんな感覚を抱きながらも、心のどこかではすでにあの家の二人のことが頭から離れなくなっていた。

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