42 お屋敷
少し歩いただけで、目の前に大きなお屋敷が現れた。
門構えからして立派で、壁も真新しく、どこを見ても整えられている。まるで雑誌やドラマに出てくるような家だった。
「……ここに住んでるの?」
思わず口からこぼれる。
すると男の子は、当たり前のように小さな胸を張って言った。
「うん、ここぼくんちだよ」
「おっきなお家なんだね……」
言いながらも、内心は驚きでいっぱいだった。
(いや……冷静に考えれば、こんな小さい子に“この家は大きいね”なんて感覚、まだ分かるわけないか。俺、何聞いてんだろ……)
自分の発した言葉を振り返り、あまりに間抜けな質問だったことに気づいて、思わず苦笑しそうになった。
玄関をくぐった瞬間、その思いはさらに強くなる。
広い玄関ホールに、磨き上げられた床。きちんと揃えられた靴の数々。天井の高さも桁違いで、空気さえ違う気がした。
(うわ……どう見ても金持ちの家だ。俺、なんか緊張してきた……)
心臓がドキドキと打ち始め、手のひらにじんわり汗がにじむ。
「お兄ちゃん、こっちだよ」
男の子に呼ばれ、言われるまま廊下を進む。
その先に広がった光景に、思わず足が止まった。
「……すご」
声にならないほどの驚きが、思わず漏れ出る。
そこにあったのは、まるで別世界のようなリビングだった。
とにかく広い。見渡しても端が遠く感じるほどで、窓際から差し込む光が、きらきらと床に反射している。大きなシャンデリアが天井に輝き、壁には絵画まで飾られていた。完全にテレビや映画でしか見たことがないような空間だ。
「お兄ちゃん、ここに座っててね」
子どもに促され、恐る恐るソファに腰を下ろす。
その瞬間、身体がふわりと沈み込んだ。
(なにこれ……ソファなのに弾力がすごい……)
あまりの座り心地の良さに、思わず変な感動までしてしまう。だが、くつろぐ余裕などない。落ち着かない鼓動と緊張だけが、胸いっぱいに広がっていた。
そんな中、奥の方から軽やかな足音が近づいてくる。
姿を現したのは、上品な雰囲気をまとった女性だった。
きっとこの子のお母さんなのだろう。
「こんにちは」
そう言って丁寧に挨拶をしてきたその瞬間、シュウはさらに背筋を正し、より一層、身体をこわばらせるのだった。