41 遊ぶ
「お兄ちゃん、やっと遊べるね。僕、ちゃんと待ってたんだよ」
小さな声が夜の公園に響いた。
振り返った俺の視線の先で、男の子は屈託のない笑顔を浮かべていた。
「あぁ……そういえば、前に約束したな」
自分でも半分忘れかけていた言葉が、自然と口からこぼれる。
「ねぇ、何して遊ぶ?」
男の子は目を輝かせながら尋ねてくる。
「でも夜だぞ。お家の人が心配するんじゃないか?」
そう言いながらも、俺の声にはどこか現実感が薄かった。
すると男の子はすぐに笑顔で答える。
「大丈夫。お家すぐそこだし、お母さんにも言ってあるの。『お兄ちゃんと遊んでくる』って」
「……そうか。それなら少しだけな」
気づけば俺は頷いていた。
その瞬間、男の子の顔がパッと明るくなり、無邪気に喜ぶ姿を見ているうちに、俺まで胸が温かくなっていく。
気がつけば、走り回る彼の後を自然と追いかけていた。
不思議なことに、体が妙に軽く、いくら走っても全く疲れを感じない。
風を切る感覚すら心地よく、まるで現実ではない場所に迷い込んだかのようだった。
ブランコに乗って風を浴びたり、ジャングルジムをよじ登ったり。
ただの遊びなのに、胸の奥が満たされていくようで、夢中になっていた。
しばらくして、ふと息を整えながら口を開く。
「そろそろ帰ろうかな」
すると男の子は急に立ち止まり、こちらを振り返って言った。
「お兄ちゃん、ジュース飲んでって。お家すぐそこだから」
そう言うと、小さな手で俺の手をぎゅっと握り、迷いなく引っ張っていく。
「……じゃあ、少しだけな」
俺は苦笑しながら答え、男の子の後をついて歩き出した。
どこか不思議な安心感と、言いようのない違和感を抱えたまま――。