表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/51

40 始まり


その夜、家に戻った俺は、なんだかいつもより身体が重く感じていた。

急いでシャワーを浴びて、散らかった部屋を軽く片付けて、明日の準備もそこそこに済ませる。雑用をこなすだけで、もう気力をだいぶ使い切った気がして、時計を見るとまだ早い時間だったけど、もうベッドに横になりたくなった。


布団に潜り込むと、ふぅっと息が漏れる。

「やっぱり、今日はバイトが忙しかったせいかな……」

全身がじんわりとだるくて、力を抜くとそのまま布団に沈み込んでしまうようだった。


それでも、不思議と気持ちは重くない。

むしろ頭の中には、ひなとのやり取りが次々と思い出されていた。

すぐ拗ねて頬を膨らませたり、ちょっとしたことで怒ったり……でも結局は笑顔になってくれる。あの素直さと、可愛らしさが、どうしようもなく愛おしい。


「ほんと……怒りんぼなのに、可愛いんだよなぁ、ひなって」

そうつぶやいた瞬間、自然と口元が緩む。


楽しかった会話や、店を出るときに見せたひなの笑顔を思い浮かべながら、心地よい余韻に包まれる。だるさよりも、あたたかい想いのほうが胸に広がっていく。


そのまままぶたが重くなり、気がつけば俺は静かに眠りへと落ちていった。


ぼんやりと意識が浮かび上がり、ゆっくりとまぶたを開ける。

すると目の前に広がっていたのは、見覚えのある公園だった。


「あれ……? どうしてここに……」


頭がぼんやりしていて、思考がうまくまとまらない。

さっきまで家にいたはずなのに、気がつけばベンチに腰掛けている。


「今日って……鎌倉に来てたんだっけ?」

そう思った瞬間、自分でもわからない違和感が胸に広がる。記憶がところどころ霞んでいて、鎌倉に来たのかどうかすら定かじゃない。


「なんで……俺、こんな公園にいるんだ?」

小さく呟いた声は、夜の空気に溶けていくばかりで返事は返ってこない。


ふいに、背中に軽く衝撃を感じた。

トン、と小さな手で叩かれたような感触。思わず振り返ると、そこには――あのときの、見覚えのある小さな男の子が立っていた。


無邪気な笑顔を浮かべ、ただじっとこちらを見つめている。

その姿はどこか現実感が薄く、けれど確かにそこに存在している。


俺は息をのんだ。

「……なんで、君がここに……?」


気づけば、公園の景色が少しずつ揺らめいているように見えて、まるで夢と現実の境界が混ざり合っていくようだった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ