38 不思議なお客さん
「やっぱり……つきあってるんだぁ〜」
女性が柔らかくそう言った瞬間、俺の心臓が大きく跳ねた。
思わず口から「はい」と返事が漏れてしまう。
否定する余地もないし、むしろ彼女の前ではすべて見透かされている気がした。
「やっぱりね。だって、お二人……とてもお似合いだもの」
女性はにこやかに笑みを浮かべながら続けた。
「仲良くね」
「はい……」
隣にいたひなも、頬を赤らめて小さく頷いた。その仕草がまた、照れくさくも愛おしい。
女性はそんなひなの様子を見て、ふと思い出したように声を潜めた。
「そうそう……もう店長さん、気づいてるんじゃないかしら。そろそろ白状したほうがいいわよ」
俺とひなが目を丸くすると、彼女はさらに穏やかな口調で続けた。
「だって、店長さん……気になって仕方がない、そんな顔していたもの」
その言葉に、俺もひなも思わず苦笑いを浮かべるしかなかった。
まるで心の奥まで読み取られているようで、少し居心地の悪さすら感じる。
「また行くからね。その時もよろしくね」
女性はそう言って軽く手を振り、夜の街へと歩き出した。
ただのさりげないやりとりのはずなのに、妙に胸に残る。
その背中を俺は無意識にずっと目で追っていた。
どこか不思議で、すべてを見透かすような……そんな雰囲気をまとった女性。
ふと隣を見れば、ひなも同じように真剣な眼差しでその背中を見送っていた。
言葉にはしなかったが、彼女もまた何かを感じ取っているのだろう。
二人して、しばらくの間その姿が見えなくなるまで目を離せなかった。