33 楽しい時間
バイトを終えて店を出ると、夕暮れの風がほんのり涼しくて気持ちよかった。
足早にマックへ向かうと、ガラス越しにひなが座っているのが見えた。テーブルに肘をつき、携帯をいじりながら、時折ふっと笑みを浮かべている。
「お待たせ。」
声をかけると、ひなはすぐに顔を上げてぱっと笑顔になった。
「あぁ、お疲れ様。待ってたよ。あれからどうだった?」
「うん、特にこれってことはなかったかな。暇だったから片付け手伝ってたんだ。そしたら店長が試作のアイスコーヒー飲ませてくれてさ。これがびっくりするくらい甘いんだけど、不思議と美味しかったんだよ。」
ひなは興味深そうに首を傾げてから、少しからかうように言う。
「ふふっ、やっぱりシュウは店長さんに可愛がられてるんだね。」
「そんなことないって。ただ、たまたま暇だっただけだよ。むしろ、ひなの方が可愛がられてるじゃん。」
「え、私? そんなことないよ。」と笑いながらも、ひなの表情にはどこか嬉しそうな色が浮かんでいる。
「でも、店長さんって優しいよね。」
「そうだな。今日も『もういいよ』って言って、少し早めに上がらせてくれたし。」
シュウがそう言うと、ひなは小さく頷いてから、ふと思いついたように顔を上げた。
「ねぇ、今度どこか一緒に出かけたときに、お土産でも買って店長さんに渡そうよ。」
「お、いいね。それは喜んでくれるかもな。じゃあ、そうしよう。」
ひなはその返事に満足そうににっこり笑った。
その笑顔を見て、シュウは「やっぱり待たせても会いに来てよかった」と心の中でそう思った。