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31 バイト終わりの約束


「シュウ、ちょっと」

ひなが少し真剣な顔で俺を呼んだ。仕方なく近づくと、ひなは小声で囁くように言ってきた。


「ねぇ……さっきのお客さん。なんで私たちが付き合ってるって分かったんだろう?」


唐突な言葉に思わず笑ってしまう。

「そんなの簡単だろ。ひなが偉そうで馴れ馴れしいからに決まってる」


「なっ……!」

ひなはムッとした顔で頬をふくらませ、ジロリと俺を睨みつけてきた。

「そんなことないもん! ひなは普通ですっ。……シュウがのんびりしてるから、そう見えるんだよぉ」


「俺が普通……なの?」

わざととぼけたように返すと、ひなはさらに目を細め、今度はぷいっと顔をそむけた。


「本当にシュウはひどいんだから。彼女に平気でそんなこと言えるなんて……最低」

唇をとがらせて拗ねたその様子は、どう見ても怒っているのに、俺には愛おしくて仕方なかった。心の中で“可愛いな”と思うから、ついからかいたくなってしまう。


「そんなことないよ。ひなは頑張り屋さんだし……そういうの、よくある“あるある”だろ?」

冗談めかして笑うと、ひなはますます眉をひそめた。


「もぉ、いいよぉ! 適当に言ってるの、分かるんだから!」

そう言い放つと、「い〜だ!」と子どもみたいに拗ねて、片付けへと足早に向かっていってしまった。


残された俺は苦笑いを浮かべながら、その小さな背中を目で追っていた。

“やっぱり、ひなはかわいいな”と胸の中でつぶやきながら…。



「はぁ〜、疲れたぁ」

ひなが伸びをしながら小さく息を吐いた。時計をちらりと見てから、俺のほうを振り返る。


「シュウ、もう時間だから私あがるね。……でも、シュウはあと二時間残ってるんだよね」


「うん、そうだね」

俺が答えると、ひなは少し考えてから、ぱっと顔を明るくした。


「じゃあさ、バイト終わるまでマックで待ってるね」


「えっ、わざわざ待っててくれるの?」

思わず聞き返すと、ひなはうれしそうに頷いて、にっこり笑った。


「うん、待ってる。だから、終わったらすぐに来てね」


その笑顔を見て、胸が温かくなる。

「わかったよ。終わったら、すぐ行くから」


「ほんと? 約束だよ」

ひなは少し照れくさそうに、それでも心からうれしそうな表情を浮かべて言った。


「うん、約束」

俺がそう答えると、ひなは満足げに笑い、軽く手を振って店のドアを開けた。


「じゃあね、シュウ。頑張って!」


「ありがとう。気をつけてな」


扉のベルが小さく鳴り、ひなの姿が外へ消えていった。残された俺は、彼女の笑顔を思い出しながら、自然と口元が緩んでいた

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