29 誤解
店内は満席で、あちこちから食器の音や話し声が響いていた。けれど、一通り注文の品が行き渡り、客席もひと息ついたように落ち着きを見せはじめた。俺もようやく胸をなで下ろしたその時、横からすっとひなが近づいてきた。
「なんで連絡くれなかったの?」
小さく膨れっ面をして、少し拗ねた声でそう言う。
俺は苦笑いを浮かべて肩をすくめた。
「仕方ないじゃん。俺だって動揺してたんだから」
「なにそれ、動揺ってなに?」
ひなが眉をひそめる。
「そんなことで彼女を一週間も放っておくなんて……もう、信じらんない」
呆れと怒りが入り混じったような言い方に、胸の奥がちくりと痛んだ。
俺は一瞬ためらったが、深呼吸をして言葉を吐き出す。
「……だって、同じ歳のいとこの葬式だったんだよ。急すぎて、何も考えられなくなってさ。どうしても気持ちの整理がつかなかったんだ」
その瞬間、ひなの表情が一変した。
「……え?」と目を丸くし、驚きに言葉を失っている。
やがて、しゅんと肩を落とし、小さな声で「ごめん……知らなくて」とつぶやいた。
その声には、本気で反省している気持ちが滲んでいた。
その姿を見て、俺も思わずため息をついた。
(あぁ、そうか……俺、ひなには何も伝えてなかったんだ)
「ごめん。伝えてなかったんだっけ。店長にはちゃんと話したし……それで、ひなにも伝えた気になってたんだ」
言葉にすると、胸の奥にあった引っかかりが少しだけほどけた気がした。
ひなはしばらく黙って俺を見つめていたが、その瞳にはもう責める色はなかった。