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彼女のひなは早番で、テキパキと注文をさばいていた。
忙しそうに動き回る姿を目で追いながら、俺はタイミングを見計らって声をかけた。
「ひな、今日どうしたの? なんか人多いね」
すると、ひなは振り向きもせず、トレイを抱えたまま笑顔で答えた。
「もう、いいから早く手伝って! 忙しいんだから、ボサッとしてないの!」
冗談めかして葉っぱをかけてくるその仕草に、思わず苦笑いした。
だが、次の瞬間、ひなはふと振り返り、少しだけ眉を寄せた。
「……それにしてもさ、一週間も休んで、予定が入ったの一言で何の連絡もなしって、ちょっとひどくない?」
声は抑えていたけれど、瞳の奥には拗ねたような怒りと寂しさが混じっていた。
仕事中だから大きな声で言わないけれど、その小さな不満が確かに伝わってきて、俺は胸の奥でちくりとした。
いきなりそう言われて、俺は思わず心の中でつぶやいた。
――年下のくせに、なんだよその言い方。
俺だって突然の出来事で動揺していたし、余裕なんてなかったんだ。事情も知らないくせに、そんな偉そうに責めることないだろ……。
胸の奥に小さな苛立ちがじわりと広がっていく。言い返したい気持ちもあった。
けれど、ひなの真剣な目と、忙しさに追われている店内の雰囲気がそれを許してはくれなかった。
次から次へと注文のベルが鳴り、カウンターにはお客さんが並び始める。
お皿を片づけ、飲み物を運び、声をかけられれば笑顔で応じる。そんなうちに頭の中は仕事でいっぱいになり、さっきまで抱えていた怒りやモヤモヤも、自然と押し流されていった。
ただ、心のどこかで「なんなんだよ…」という小さな棘だけが、まだ抜けずに残っていた。