23 【いとこの死】
車を駐車場に停め、家に戻ったのは夜の十時を少し過ぎた頃だった。
シャワーでも浴びようかと思いながら、まずは冷蔵庫を開けて晩ご飯を何にしようかと睨めっこをしていた。
その、ごく普通の時間――。
突然、リビングに電話の着信音が響いた。
「ひなかな?」と一瞬思い、胸が軽く高鳴ったが、画面に表示された名前を見て拍子抜けした。母親からだった。
受話器を耳に当てた瞬間、母親の声がいつもと違う張り詰めた響きを帯びているのがわかった。
「……裕二が亡くなったの」
いとこの名前を耳にした瞬間、思考が一瞬止まった。
まるで聞き間違いでもしたかのように、「え……?」と声にならない声が漏れる。
亡くなった?裕二が?
あの元気だったはずのいとこが――。
頭の中で現実と理解が結びつかず、半信半疑のまま固まってしまった。
ただ受話器の向こうから母親の沈んだ声が流れ続けているのを、夢の中の出来事のようにぼんやりと聞いていた。
母親の言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
裕二が――亡くなった?
そんなはずはない。この前、会った時普通に生きていたはずの人間が、どうして急に……。
母親は「突然死だったの」と続けたが、耳には届いていても意味がまるで頭に入ってこなかった。
理解しようとするたびに、胸の奥で何かが拒絶する。
考えたくない、受け入れられない。
ただ混乱だけが渦を巻いて、まともに言葉を返すことすらできなかった。
その夜のことは、正直あまり覚えていない。
気がつけば数日が過ぎ、まるで夢遊病者のようにぼんやりした時間の中を漂っていた。
そして――一週間後。
現実は容赦なく突きつけられた。
黒い礼服に身を包み、線香の香りが漂う中で、俺は裕二の葬儀に立ち尽くしていた。
そこでようやく、彼がもうこの世にいないという事実が、冷たい現実として心に重く沈み込んできた。