20 【特別な力)
「シュウくん、簡単に言えば……それは霊現象だったんじゃないかな。もしかすると、その友達は一時的に“何か”に憑依されてしまっていたのかもしれないね。けれどね、シュウくんがあの場所で心から謝罪をしたから、その想いが届いて、その霊は友達から離れていったのかもしれない。
偶然と言うにはあまりにも出来すぎている気がするのよ。だから、私はね……シュウくんには、そういう特別な力があるんじゃないかって思ってしまうの。普通の人にはできないことを、きっと無意識のうちにやってのけているんだろうなって」
その夜のお店は、不思議なことに一気に“幽霊談義”で盛り上がった。最初は笑い話のように聞こえていたのに、次第に空気が真剣さを帯びていく。
その中のひとり、常連の落ち着いた雰囲気の男性が、ふと真顔になって俺のほうをじっと見つめて言った。
「シュウくん……あそこには、もう近づいちゃいけないよ。あそこはね、地元の人なら誰も行かない場所なんだ」
その言葉に俺は思わず目を向けた。冗談や脅かしではない、どこかに重みのある響きだった。俺が真剣に耳を傾けると、その人は静かに続ける。
「あそこの近くで商売を始めても、どういうわけか長続きしない。店はすぐに潰れてしまうんだ。公園だってそうさ。誰も寄りつかない。地元の人間はみんな知っているから、自然と避けるようになってるんだよ」
そう言ってから、少し間を置き、低い声でこう結んだ。
「鎌倉はね、歴史の街でもあるし……古戦場だった場所も多い。だから、そういうものが眠っていてもおかしくないんだ」
その言葉は妙に現実味を帯びていて、俺の胸の奥にじんわりと冷たいものが広がった。
ただの噂話ではなく、代々語り継がれてきた“土地の記憶”のように感じられたからだ。
その夜は、結局お店を出たのが深夜三時をまわった頃だった。
楽しくて仕方がなかった、というのもある。だがそれ以上に、そこに集まった人たちから不思議な体験談や怖い話をたくさん聞くことができ、時間を忘れてしまっていたのだ。
帰り際、俺はママさんに声をかけた。
「ママさん、今度は彼女と一緒に来ます。必ず紹介しますね」
するとママさんは、にこっと笑って少しだけ目を細めた。
「シュウちゃん、必ずよ!待ってるからね」
その笑顔と声が、妙に胸に残った。名残惜しさを覚えながらも、俺はママさんと別れを告げ、お店のドアを押して外に出た。
途端に、夜の冷たい空気が頬を撫でる。
見上げれば街灯の明かりが細長い影を道に落とし、夜の静けさが一層濃く感じられる。腕時計を見ると、時計の針は深夜3時を回っていた。
「こんな時間かぁ……」
小さくつぶやき、俺はサークルの駐車場の方へと歩き出した。昼間とはまるで違う、鎌倉の深夜の表情を感じながら。