19 経緯
「ママさんに今日、最初にお話ししたと思うんですけど……サークル活動の帰りに、下見を兼ねて鎌倉に立ち寄ったんです。観光が目的というよりは、なんとなく土地の雰囲気を感じておきたくて」
俺はグラスを置き、記憶を辿るように言葉を繋いだ。
「そのとき、偶然ですよ、本当に偶然……ふらっと歩いていて見つけたんです。小さな公園を」
少し息をつぎ、周囲を見回す。
「その公園を見た瞬間、胸の奥がざわっとして……夢の中で何度も出てきた、あの懐かしい公園だって、すぐに分かりました」
一人の常連客がそこで「あぁ、あの公園だな」と口を挟み、もう事情を知っているかのようにうなずいた。俺は苦笑しながら続きを話す。
「……で、なんとなくですけど、その公園から足を向けて離れて歩いてみたんです。すると……信じられないことに、目の前に現れたんですよ。あの屋敷が」
声を少し落とし、俺は言葉を区切った。
「サークルの仲間と来たあのお化け屋敷が……まさか、こんな繁華街のすぐそばに建っているなんて。正直、足が止まりました。鳥肌が立つくらい、驚きました」
偶然にしては出来すぎている。導かれるようにして、またあの場所に戻ってきてしまった――そう語る俺に、店内は静まり返っていた。
頭の中に最初に浮かんだのは、やっぱりあの友達のことだったんです。
だから、屋敷の入口に立ったとき、自然と手を合わせてしまっていました。
「ごめんなさい…」って、心から謝るように。
それからすぐ、俺は友達が入院している病院へ向かったんです。
容態が気になって仕方がなかったから。
ところが――病室に入った瞬間、俺は目を疑いました。
朝までベッドに伏せて、意識が無かったはずの友達が、まるで何事もなかったみたいに元気に座っていたんです。
顔色も良くて、むしろ「おう、来たのか」なんて笑うくらいで。
俺以上に驚いていたのが看護師さんでした。
「ついさっきまで危険な状態で…」と本当に慌てていて、まるで目の前で奇跡が起きたかのように信じられない様子でした。
そして――。
容態が急に良くなった時間を聞いて、さらに驚いたんです。
それは、俺があの屋敷の前で手を合わせ、「ごめんなさい」と謝っていたのと、ほとんど同じ時刻だったんです。
それに、あの屋敷に行った記憶が消えていたみたいなんです。
俺は偶然だと思おうとしたけれど、心のどこかで寒気が走るような、不思議な感覚が残っていました。
由紀子さん……これって、どう思いますか?