17 疑問
「ママ、シュウくんはきっと呼ばれたんだわ。このお店に」
そう言って、奥に座っていた女性は優しく微笑んだ。
その瞬間、常連さんたちが一斉に顔を見合わせ、まるで合図をしたかのように笑顔を浮かべる。
「これで真の常連だなぁ!」
「なぁ、ママ!」
にぎやかな声が飛び交い、店内がぱっと明るくなる。
ママさんは楽しそうに笑いながら、
「だから最初に言ったでしょ? 今日からシュウくんは常連さんなのよ」
と、まるで祝福するように言葉を添えた。
「確かに」
誰かがしみじみとつぶやくと、他の人たちもうなずきながらグラスを掲げる。
「シュウくん、これからよろしくな」
「いらっしゃい、仲間入りおめでとう!」
その声はひとつに重なり、温かな笑顔が店いっぱいに広がった。さっきまでの不思議で少し緊張した空気は跡形もなく消え、今はただ心から歓迎する、あたたかな居場所になっていた。
しばらくして、俺はふと、どうしても気になっていたことを思い出した。
それを確かめるために、さっき手を見てくれたあの女性に声をかけようと思った。
視線を向けると、ちょうど彼女と目が合った。
その瞬間、彼女は柔らかく微笑んで――
「シュウくん、私ね、由紀子っていうの。だから“由紀子”でいいからね」
と、親しげに言った。
「由紀子さん……ひとつ、聞いてもいいですか?」
「なぁに?」
「サークルの仲間のことなんです」
「うん」
そこで言葉を選びながら続けた。
「この前……ここの近くにある、お化け屋敷に……」
その瞬間だった。
店の空気が、ふっと張りつめるのがわかった。
ガヤガヤしていた声がぴたりと止まり、店にいた常連たちが一斉に俺のほうを見たのだ。
由紀子さんの表情も、さっきまでの優しい微笑みから一変し、どこか緊張した色が浮かんでいた。
そして低い声で――
「……シュウくん、まさか行ったの?」
「はい……。俺は乗り気じゃなかったんですけど、みんながすごく盛り上がっていて……仕方なく、付き合ったんです」
自分の声が、店内の静けさに吸い込まれていく。
背筋の奥に、ひやりとした感覚が走った。