聖女姫の結婚
ベルヴァイン王宮の大広間は、いつもの華やかな装飾や絢爛たる調度品はなく、戦火で失われたものの代わりに、質素な花飾りと控えめな祝宴が用意されていた。
それでも、そこには穏やかな幸福感が満ちていた。
クウォールとセリィは、互いの瞳を見つめ合いながら、簡素な指輪を交換した。
豪華なドレスも、煌びやかな王冠もなかった。
だが、それらは必要なかった。
お互いの心が、強く結ばれていることを知っていたからだ。
祝福の言葉は簡潔で温かく、王や王妃、臣下たちは深い感動と共に二人を見守った。
「これからは、共に国を支え、未来を築いていくのだ」
王の声が静かに響く。
しばらくして、ベルヴァインの復興は確かな足取りで進んでいた。
崩れた街並みには新たな建物が姿を現し、商人の声や子供たちの笑い声が広場に戻りつつあった。
クウォールとセリィはその報告を受ける度に、互いに目を合わせて微笑み合った。
ある日の夕暮れ、王宮の庭園で二人は並んで歩いていた。
セリィが腕を組みながら言う。
「ねえ、クウォール。なんでそんなに腕組むの?」
クウォールは照れくさそうに笑いながら答える。
「君が頼りないから、つい守りたくなってな」
セリィはふくれっ面で肩をすくめる。
「守りたくなる相手がそれかよ!」
軽い口論をしながらも、その声には柔らかな愛情が満ちていた。
そんな二人の姿は、王宮に集う人々にとっても、街の喧騒に疲れた市民にとっても、なによりも癒しとなっていた。
市場から宮廷まで、彼らのほほえましい痴話喧嘩の話題が伝わり、皆が微笑みを浮かべた。
愛と戦いを乗り越えた二人の物語は、これからもゆっくりと紡がれていくのだろう。