緊急事態発生
玉座の間から自室へ戻ったセリィは、ドアが閉まった瞬間、足から力が抜けるようにベッドへ腰を落とした。
さっき聞いた言葉が、頭の中で何度も何度も反響する。
「……どうして……どうして隠してたの、カイル……」
震える声が部屋にこぼれた。
問い詰めるような視線を向けられたカイルは、そこに立ったまま目を伏せる。
「……すまない」
その一言以外に返せる言葉がない。
「私、ずっと……信じてたのに。私だけ何も知らされず……」
責める言葉は涙で途切れ、喉が熱くなる。
カイルはその全てを黙って受け止め、ただ謝罪を繰り返すしかなかった。
やがて、セリィの荒い呼吸も少しずつ落ち着きを取り戻していく。
長い沈黙のあと、彼女は深く息を吸い、かすかな声で告げた。
「……でも、もう責めない。だって……あなたがどれだけ危ない立場にいるか、今なら分かるから」
その言葉と共に、彼女は立ち上がり、そっとカイルに歩み寄った。
そして両手で彼の手を包み込む。
「お願い……これからも、ずっとそばにいて。あなたが無事でいてくれるなら、それでいい」
その眼差しは、戦傷兵士を慰めたときと同じ、相手を思いやる温かさに満ちていた。
カイルの胸に、言葉では形容できない感情が広がっていく。
「……ああ、約束する」
そう応える声も、どこか震えていた。
互いの想いが静かに重なり、新たな絆が結ばれようとしたその瞬間――
ドアが勢いよく叩かれた。
「失礼します! 緊急の報せです!」
駆け込んできた兵士の息は荒い。
次の一言が、部屋の空気を一変させた。
「ベルヴァイン軍が国境を突破! 王都へ向けて進軍中とのこと!」
血の気が引くのを感じながら、セリィとカイルは顔を見合わせた。
先ほどまでの穏やかな空気は跡形もなく消え去り、部屋には一瞬で緊迫感が満ちる。
遠くで響く鐘の音が、迫りくる戦火の予兆を告げていた。