明かされた真実
玉座の間。
赤い絨毯の先、王と王妃が並んで座し、その前にセリィとカイルがひざまずいていた。
長旅と緊迫した逃走劇の疲れが全身を重くするが、無事を報告する儀礼は欠かせない。
「……ご無事で何よりだ」
王の低く安堵した声が響く。
形式通りの返答をして一礼した後、セリィはしばし沈黙した。
本来ならばここで“セシリア姫”の仮面を被り、微笑みを見せて終わるはずだった。
しかし、胸の奥の疑問と苛立ちはそれを許さなかった。
「――で、これはどういうことなんです?」
王と王妃、そしてカイルが一斉に視線を向ける。
その口調は聖女姫のそれではなく、素の“セリィ”そのものだった。
「私、もうセシリアじゃありません。今日はセリィとして聞きます。……どうしてレオナルトの企みを事前に知っていたような反応をするんですか? カイルも、何を隠してるの?」
声がわずかに震え、視線がカイルを射抜く。
逃げ場はないと悟ったのか、カイルは長く息を吐いた。
「……俺の正体は、ベルヴァインの第一王子、クウォールだ」
空気が重く沈む。セリィの頭が真っ白になった。
カイル――いや、クウォールは続ける。
「今回の偽の婚約は、人質交換を狙った罠だ。レオナルトは宰相に擁立されただけの王子で、基盤は脆い。俺を殺すことで、自分の地位を固めようとしたんだ」
王が静かに言葉を継いだ。
「クウォール殿は、かつて我が国を訪れた折に、ベルヴァインで宮廷クーデターが起き、帰る身を失った。我らは暗殺を恐れ、道化師として身を隠すことを提案したのだ」
それだけでも衝撃だったが、王の口から最後に落とされた言葉はさらに重かった。
「……そして、セシリア。そなたとクウォール殿は、幼き日に許嫁として縁を結ばれておった」
耳の奥で、何かが砕けたような音がした。
セリィは言葉を失い、立っているのか倒れそうになっているのかも分からない。
頭の中では、幼い日の記憶、今までのカイルとのやりとり、今回の騒動――すべてがぐちゃぐちゃに混ざり合って渦を巻く。
「……っ、そんな……」
吐き出した声はかすれていた。
目の前にいるのは、ずっと信じてきた“道化師”ではない。
しかも、自分の未来は知らぬ間に決められていた。
胸の鼓動が速まり、呼吸がうまくできない。
玉座の間の光景が遠くかすみ、王や王妃の声も、カイルの声も、水の中から聞こえるようにぼやけていく。
――パニックの渦に飲まれたセリィの瞳は、必死に何かを掴もうとして彷徨っていた。