レオナルトからの手紙
午前の光が差し込む謁見室。
銀の盆に載せられた一通の封書が、国王の前に運ばれてきた。
封蝋には、見覚えのある紋章――ベルヴァイン王家の紋が刻まれている。
「……レオナルト王子からだ」
国王が低く呟き、封を切る。
読み進めるうちに、王の表情は微妙に硬くなった。
手紙の内容は簡潔だった――再びセシリア姫と会いたい、というものだ。
王妃はすぐに視線をセシリアに向ける。
「セシリア……どうするの?」
セシリアは一瞬だけ微笑を作ったが、胸の奥で何かがざわめいていた。
(嫌な人、というわけじゃない。けれど、あのときの尊大な態度……)
そして、脳裏をよぎるのは、最近の出来事――カイルへの襲撃、両親の曖昧な返事、そして「隠している何か」。
もしレオナルトがその一端を握っているのなら……。
「お受けします」
凛とした声で言うと、謁見室の空気がわずかに動いた。
「ですが、お気持ちは……」と王が言いかけたとき、
入口付近で控えていたカイルが一歩前に出た。
「姫、あの男に会う必要なんて――」
「あるわ」
セリィの瞳が真っ直ぐにカイルを射抜いた。
「知りたいの。……あなたや両親が、なぜ何も言わないのか」
カイルの表情が一瞬だけ揺らいだ。
しかし次の瞬間には、いつもの飄々とした笑みを浮かべている。
「……俺が止めても聞かないんですね」
「ええ。止めても無駄」
王と王妃は目を合わせ、小さくため息をついた。
こうして、数日後にレオナルト王子との再会が決まった。
カイルはその場を去るとき、背を向けたまま拳を固く握った。
(……あいつと会えば、セリィは危険に巻き込まれる)
けれど、その危険の正体を、まだ彼女には告げられなかった。