第82話 片付けておく必要がありそうだ
「詳しい事情は分かりかねますが、あなたがライル君のお兄さんであることは理解しました」
リーゼさんは怒りを孕んだ様子で頷きつつ、カルザー兄上を睨みつけた。
「そのうえで断言しますが、ライル君は無能などではありません。むしろ彼ほど有能な人は未だかつて見たことがないほどです」
……いや、どう考えてもそれは言い過ぎだと思う。
兄上は鼻を鳴らして、嘲笑うように言う。
「生活魔法使いのコイツが有能? はっ、見たところ冒険者のようだが、とんだ底辺冒険者のようだな」
「一応これでもCランク冒険者ですが、まだまだ実力も実績も不足していることは認めましょう。けれど、ライル君は違います。彼は今、私の姉が率いるBランク冒険者のパーティに参加し、魔境の探索に挑戦中なのです。きっとそこでも多大な活躍をしているに違いありません」
「……魔境の探索に挑戦中???」
怪訝そうな顔で復唱する兄上。
うん、意味不明な言葉だよね、僕は今ここにいるわけだし……。
「きっと将来は英雄と呼ばれるような人物になると、私は確信しています」
英雄!? 僕が!?
僕が目指しているのはあくまで世界一のサポート要員で、自分が英雄になろうなんてこれっぽっちも思っていない。
「先ほどライル君が家から追い出されたなどという言葉を聞きましたが……本当に愚かな間違いを犯しましたね。いずれ確実に後悔することになるでしょう」
リーゼさんの怒涛の主張に、嬉しいよりも恥ずかしさが勝り、全身がムズムズする。
一方の兄上はというと、いきなり大声で笑い出した。
「はっ、ははははははっ、ははははははっ! 生活魔法の才能しかないコイツが、将来の英雄!? はははははははっ! はは――」
とそこで、唐突に笑い声が収まったかと思うと、
「――ならばなおさら、今この場で片付けておく必要がありそうだな」
「え?」
「〈エアバレット〉」
兄上が放った風の弾丸が、真っすぐ僕の心臓目がけて飛んできた。
「危ない、ライル君……っ!」
リーゼさんが咄嗟に伸ばした手が、風の弾丸の直撃を受ける。
お陰で軌道が逸れ、弾丸は僕の肩の上を通過していった。
「リーゼさんっ!?」
「ちっ、邪魔をしやがって。余計な真似をするとお前たちも一緒に始末するぞ?」
そう吐き捨てながら、新たな魔法を発動しようとする兄上。
慌てて叫んだのは、兄上の配下らしい男だった。
「カルザー様っ!? ご、ご当主様はライル様を連れ戻すようにと命じられたはずですが……っ!?」
「冒険者としての活動中、不慮の事故で死んだことにしておけばいい」
「なっ……」
父上が僕を連れ戻そうとしてる?
目的はぜんぜん分からないけど、どうやらそれで兄上が僕のところに来たらしい。
「させぬでござる!」
兄上に躍りかかっていったのはユズリハさんだ。
一瞬で距離を詰め、東方特有の剣である刀を振るう。
バチバチバチッ!
「っ!? 弾かれたでござる!?」
けれどユズリハさんの刀は、兄上に届くことはなかった。
恐らく防御系の緑魔法、〈エアシールド〉をあらかじめ自分にかけていたのだろう。
「がはははっ! そんな魔法もあるとは、なかなか厄介であるの!」
「笑っている場合か、ゴルドン。明らかにやつは並みの魔法使いではない。今の魔法、いつ発動したか分からなかった。それにどの魔法も発動までの時間がかなり短い」
そう言い合いつつ、ゴルドンさんとピンファさんは武器を手にして完全に交戦する構えだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! 兄上の狙いは僕だけです! 皆さんが戦う必要はないですよ! 〈痛み止め〉」
リーゼさんの傷を〈痛み止め〉で治療しながら僕は訴える。
「いいえ、パーティメンバーに迎え入れることはできませんでしたが、ライル君は短い期間ながら一緒に冒険もした私たちの大切な仲間です。見過ごすわけにはいきません」
「リーゼさん……でも……」
僕が言い終わる前に、兄上が大声で割り込んできた。
「おい、今のは何だ!? その女の傷が一瞬で治らなかったか!? 白魔法の才能などないお前に、なぜそんな真似ができる!?」
「生活魔法の〈痛み止め〉ですけど?」
「生活魔法だと!?」
兄上が驚いている隙に、リーゼさんたちが動いていた。
「どっせええええええいっ!」
「……ふん、無駄だ」
ゴルドンさんが怒声と共に飛びかかると、兄上の身体を守る風の盾に戦斧をぶつけてみせる。
当然ながら先ほどのユズリハさんの剣のように弾かれそうになったものの、武器の重量とその怪力で強引に押し込んだ。
「なにっ……?」
「さすがの怪力だ。これで風が弱まった」
ピンファさんが頷きつつ短剣を投擲。
ゴルドンさんのお陰で薄まった風の隙間を縫い、短剣は兄上の腕を僅かに掠めていった。
「……外したか」
「ちぃっ……邪魔をするなと言っているだろう!? 〈トルネードストーム〉!」
同時に四つもの竜巻が出現し、それが一瞬でリーゼさんたちを巻き込んだ。
「~~~~っ!?」
「ぎゃああああっ!?」
「ぬおおおおっ!?」
「くっ……」
四人そろって天高く巻き上げられていく。
「リーゼさん!?」
「はっ、よそ見している場合じゃないぞ? 次はお前だ、今度こそ死ね。〈エアバレット〉!」
迫りくる風の弾丸。
僕は咄嗟に魔力を広げて盾のようにする。
バンッ!
それが風の弾丸を防いでくれた。
「馬鹿な!? 何をした!?」
「魔力を盾のように展開して防ぎました」
初めてやってみたけど上手くいってよかった。
魔力弾、魔力刃に続く純粋魔力の応用だけど、名付けて魔力盾といったところかな。
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