第81話 その安直な罵倒で思い出しました
生活魔法〈防犯〉の警告音を受け、僕は〈即帰宅〉でアーゼルにある領主様から貰った屋敷に飛んだ。
ちなみにこの〈防犯〉は、侵入者の存在を僕に知らせてくれるだけでなく、侵入者の捕縛までしてくれるという優れモノ。
一度発動したら効果が切れてはしまうのだけれど、その場合はまた使用すればいいだけだ。
「あっ、リーゼさん」
屋敷の庭に見知った顔を発見する。
この街にいたときにお世話になった、リーゼさんのパーティだ。
「もしかして警告音はリーゼさんたちの……? でも、合鍵を渡しておいた彼女たちは、〈防犯〉に引っかからないはずだけど……」
この屋敷、せっかく領主様に貰ったのはいいけれど、当面はここで暮らすあてがない。
それでは領主様に申し訳ないなと思って、リーゼさんたちに宿屋代わりに使ってほしいと提案したのだ。
そもそもこの都市をグラトニーレギオンから守ることができたのは、リーゼさんたちの活躍があってこそ。
サポート要員の僕だけこんな立派な褒美を貰えるなんておかしいし、彼女たちにはこの屋敷を使う権利があって当然だからね。
……ということを彼女たちに主張したら、なぜか最初は全力で断られてしまったけど。
家というのは人が住まないと傷みやすいとかなんとか説得し、最終的には合鍵を受け取ってくれたのだった。
まぁ僕の場合、〈修繕〉を使えば一瞬で元通りになるんだけどね。
「あれ? でも知らない人もいる……?」
リーゼさんたちの傍に、見知らぬ男性の姿があった。
もしかしたら彼が侵入者かもしれない。
そんなふうに思って近づいていくと、
「久しぶりだな、ライル。生活魔法の才能しかない無能のお前など、てっきりとっくに野垂れ死んでいると思っていたぞ」
「え? なんか聞いたことある声のような……もしかして知り合い?」
だけど目の前の男性の顔を見ても、ぜんぜんピンとこなかった。
申し訳なく思いつつ訊いてみる。
「えっと、どちら様ですか?」
「いや、私は……」
「……さっきと声が違う?」
「おい、ここだ! ここ!」
「ん?」
怒鳴るような声が聞こえてきたのは下の方からだった。
そしてやはりどこかで聞いたことのある声だ。
「……網?」
地面に網が転がっていた。
いや、よくよく見てみると、中に誰かがいるようでもぞもぞと動いている。
ただ、網が絡まり過ぎていて顔まで判別できない。
「誰ですか?」
「オレだ! オレ! 忘れたのか!?」
「うーん、声は分かるんですけど……。でもなんとなく、僕の人生においてそんなに重要人物ではない気はします」
「ぶっ殺されたいのか!?」
「あ、その安直な罵倒で思い出しました。カルザー兄上ですね?」
僕の二つ年上の兄、カルザー=エグゼール。
エグゼール家では四兄弟の次男にあたる人物だ。
まぁ僕は勘当されたので、今は三人兄弟になってるけど。
「オレのこと馬鹿にしてんだろてめぇえええええええええっ!?」
網の中から轟くカルザー兄上の絶叫。
必死に外に出ようと藻掻いているものの、余計に絡まってどんどん身動きが取れなくなっていく。
「ってか、何なんだよ、この網は!?」
「捕縛用の網ですよ。兄上、無理やりこの家に押し入ろうとしましたね?」
「お前の仕業か!? ふざけんな、早くどうにかしろ!」
「いや勝手に侵入しようとするのが悪いと思います……」
この兄は昔からこんな調子だった。
僕のことを敵視しているのか、事あるごとに喧嘩腰に突っかかってくるのである。
実際、喧嘩になったことは何度もあった。
そのたびに僕があり余った魔力をぶつけ、泣かしていたけど。
「くそがっ! 〈エアカッター〉……っ!」
「っ!? みんな避けてください……っ!」
僕は叫びながらその場に身を伏せた。
次の瞬間、すぐ頭上を風の刃が通過していく。
兄上がいきなり放ったのは、風の刃で敵を切り裂くという、緑魔法の中ではかなり攻撃力の高い魔法だ。
しかも緑魔法を得意とする兄上のそれは、周囲に乱れ撃つような危険な代物である。
「こ、こんなところでいきなり攻撃魔法を……っ!?」
「……危なかったでござる」
幸いリーゼさんたちも、さすがの反射神経でそれを回避していた。
「兄上、危ないですよ。当たっていたらどうするんですか?」
「黙れ! お前がオレを馬鹿にしたのが悪い!」
網はズタズタに切り裂かれ、ようやく解放された兄上は声を荒らげる。
「いつもそうだ! お前は兄であるオレを見下し、蔑んできやがる!」
「別にそんなことはないですけど……」
「いいや、そんなことはある! 幼い頃から神童と呼ばれたお前は、ずっとオレのことを無能な人間だと思っていただろう!」
……なかなか酷い被害妄想だ。
「確かにオレは、エグゼール家の当主になれるような器ではないかもしれない! だがな、生活魔法の才能しかなかったお前が一番の無能だ!」
「えっと……わざわざそんなことを言いに来たんですか? すでに家を追い出されてるわけですし、別に改めて言われなくても……」
なぜ兄上がここにいるのか、その理由がまったく読めなくて困惑していると、
「いいえ、ライル君は決して無能なんかではありません!」
いきなりリーゼさんが叫んだ。
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