第77話 このちょっと硬いのは
「〈重さ軽減〉っ!」
丸くなって転がってくる巨大アルマジロへ、生活魔法を発動する。
「さらにもう一度……〈重さ軽減〉っ!」
続いて自分自身とカーミラさんにも同じ魔法をかけた。
風船のように軽くなることができれば、激突してもダメージを軽減できるのではと思ったからだ。
その直後、ついに巨大アルマジロが最後尾を走っていたカーミラさんに追いついたかと思うと、さらには足を止めていた僕にも迫ってきて、
ぼおおおおおおおおおおんっ!!
「「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」」
巨大アルマジロとぶつかり、僕とカーミラさんはほぼ同時に弾き飛ばされていた。
「あ、でも、あんまり痛くないっ……」
〈重さ軽減〉の効果か、激突に伴う痛みはほとんどなかった。
その代わり猛スピードで宙を舞い、
「「……え」」
気づいたときには僕たちは横穴から巨大な竪穴へ投げ出されていた。
「ライルくんっ、カーミラ……っ!? くっ……」
慌てて鞭を伸ばして僕たちを絡めとろうとしたローザさんだったけれど、ギリギリ届かずに空を切る。
僕とカーミラさんはそのまま竪穴の底へと落下していった。
「うわああああああああっ!?」
「……オワタ」
なすすべなく落ちていく僕たちの前に、さらなる災難が襲いかかる。
「グルアアアアアアッ!」
「魔物!?」
ワイバーンの上位亜種リーパーテイルだ。
暗闇から大鎌の尻尾を振り回し躍りかかってきた凶悪な魔物に、僕は慌てて生活魔法を発動した。
「〈そよ風〉!」
「~~~~~~ッ!?」
猛烈な風が吹き荒れ、リーパーテイルの接近を拒む。
一方で〈重さ軽減〉によって体重が軽くなっている僕とカーミラさんも、その風に煽られて竪穴の中心へと飛んでいく。
「……さらば……」
「カーミラさん!?」
何とかリーパーテイルは撒くことができたものの、カーミラさんと距離が開き、僕たちは逸れてしまった。
そうこうしている間にも落下速度がぐんぐんと増し、さらなる深部へと落ちていく。
光も気温もますます失われていった。
このままだと魔境の底まで落ちてしまう。
「ど、どうしたら!? そうだ! 〈即帰宅〉を使えば……って、それじゃあカーミラさんを見殺しにしちゃう……っ! かと言って、このままだと穴の底に激突して死んじゃうし……」
強烈な警告を発する〈注意報〉。
まったく何も見えないけれど、どうやら穴底が近づいてきているらしい。
「い、〈痛み止め〉……っ!」
破れかぶれにその生活魔法を使った直後に、全身を大きな衝撃が襲った。
バキバキバキバキンッ!!
何かが壊れるような音が響き渡り、気づいたときには僕は何かに埋もれるような形で転がっていた。
「……あれ? もしかして、そこまで痛くない? というか、生きてる?」
〈重さ軽減〉のお陰か、直前に使った〈痛み止め〉のお陰か、すぐに起き上がれるくらいには何ともなかった。
何千メートルもの距離を落下してきたことを考えると、無傷と言ってもいいくらいかもしれない。
「にしても何だろう、このちょっと硬いのは?」
僕の周りを埋め尽くす謎の物体。
長細いものもあれば円盤状のものもあったりして、触ってみても正体が分からない。
「〈明かり〉! ……ダメだ、ぜんぜん見えない」
ギアの街の宿屋の店主が言っていたことを思い出す。
――松明を燃やしても、魔法で明かりをつけてみても、まったく何にも見えなかったみてぇなんだ。どうやら穴の底ではあらゆる光が一瞬で吸収されちまうらしくてよ。
「うーん、一か八か、全力の〈明かり〉!」
負けじともっと強烈な明かりをつけることにした。
本来なら何百メートル先も明るく照らしてしまうほどの強い光だ。
「……よし、ちょっとだけ見えるようになった!」
ほんの僅かではあるものの、範囲五メートルくらいまでは辛うじて視界を確保することができた。
そこでようやく、自分が埋もれていたものの正体を知ることになる。
「って、ほほほ、骨!?」
骨だった。
それも大量の。
僕がいるところだけじゃない。
延々と骨が積み重なっているのである。
骨の大きさは様々で、その大半は死んだ魔物のものだろう。
ただ、中には人間サイズの骨もあって、
「穴の底に落ちて死んだ冒険者のものかな……」
ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。
嫌な想像を振り払うようにぶんぶんと首を振って、僕は身体を起こした。
「それより早くカーミラさんを捜さないと……」
この穴の底まで落ちてきたはずだ。
彼女にも〈重さ軽減〉をかけていたし、きっと無事だと思う。
「〈失せ物探し〉!」
もちろん使うのはこの生活魔法だ。
すぐに進むべき方向が直感的に分かり、漆黒の闇に沈む骨の海を掻き分けながら進んでいった。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……。
「……それにしても何だろう、この低い音は? さっきからずっと聞こえてるけど……」
遠くから響いてくる不気味な重低音。
再びギアの宿屋の店主の言葉を思い出す。
――ただ……遠くから何か巨大な生き物の寝息のようなものが聞こえてきたらしい。寝息と言っても野獣の咆哮のようなものだったようだが……。
「もしかして、それがこの音……?」
〈注意報〉にも反応があった。
北北東の方向におよそ五百メートルの距離だ。
ただし種類は分からず、分かるのはそれが途轍もなく恐ろしい存在ということだけ。
やはり寝ているのか、その場からずっと動いていない。
「……は、早くカーミラさんを見つけてこの穴底から逃げよう」
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