第75話 もう少し喜んでもいいと思うのだ
ついに僕たちは、目的にアダマンタイトが採掘できるという、地下六千メートルに辿り着いていた。
「ていうか、まだ丸一日しか経っていないのだ!? ここまで来るのに最低でも五日はかかるはずではなかったのだ!?」
「すごく順調ですね。さすがです」
「いや、こんなに早いのは全部あんたの力のお陰でしょ、どう考えても」
タティさんが呆れた様子で言うと、ローザさんも苦笑気味に頷いている。
僕は訊いた。
「ところでアダマンタイトって、こうした横穴で採掘できるらしいですけど、どうやって見つけるんですか?」
「アダマンタイトは地面や壁から顔を出しているものの、漆黒の鉱物のためこの暗闇では非常に見つけ辛いそうですの」
ただ、光を当てるとキラキラと輝くので、それで探せるらしい。
「じゃあ、ちょっとやってみますね。〈明かり〉」
一瞬だけ眩い光を放つ。
けれど残念ながらそれらしい反応は見られなかった。
「ここは目印のあるルート上ですわ。アダマンタイトなんて、間違いなく取り尽くされているはずですの」
「それはそうですね」
もう少しこのルートから逸れた場所に行く必要がありそうだ。
僕たちはアダマンタイトを探し、深部の横穴を歩き回った。
そうして一時間ほど経った頃、
「……ぜんぜん見つからないのだああああああっ!」
アルテアさんが頭を抱えて叫ぶ。
「当然ですわ。アダマンタイトは超がつくほどの希少鉱物。そう簡単に見つかるなら苦労はしませんの」
「ぐぬぬ……少年の便利な生活魔法で何とかならないのだ!?」
「いや、そんなこと言われても……」
アルテアさんの無茶ぶりに戸惑っていると、ふとあることを思いついた。
「待てよ……普通に〈失せ物探し〉が使えるんじゃ……?」
〈失せ物探し〉はその名の通り、失ったものを探し出せる魔法だ。
アダマンタイトは失ったわけじゃなくて、今から取得しようとしているものだけれど、多少は効力を発揮するかもしれない。
「〈失せ物探し〉!」
多めに魔力を投じて発動してみると、なんとなくある方向に惹かれる感覚があった。
「こっちです」
「えっ、本当に生活魔法で何とかしてしまいそうなのだ……?」
第六感的なそれを頼りに進むこと、数分。
複雑に入り組んだ穴の奥で、ついに僕たちは発見した。
「あの黒い輝き……間違いありませんわ! アダマンタイトですの!」
壁から僅かに突き出した、漆黒の鉱物。
明かりに照らされ、まるで満天の星のように輝いている。
「こ、こんなに綺麗なのだ……」
「宝石としての価値も高いと聞いてはいたけど、それも頷けるわね」
「……ひひひ……この鉱物を巡って……過去……血みどろの争いが……いくつも起きた……と聞いたことがある……」
その美しさに思わず見入ってしまう。
「でもがっつり壁に埋まってますね……? どうやって取り出すんですか?」
「そこはこの怪力無双の吾輩に任せるのだ!」
僕が疑問を呈すると、アルテアさんがいつの間にか自信満々に巨大なハンマーを抱えていた。
「でえええええええええええええええいっ!」
そして裂帛の気合と共に、そのハンマーをアダマンタイト目がけて叩きつける。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
「ちょっ、そんなことして大丈夫ですか!?」
こんな小さな身体だけれど、普段からあの大きな剣を軽々と振り回していることからも分かる通り、アルテアさんは相当なパワーの持ち主なのだ。
せっかく見つけたアダマンタイトが……と焦っていると、
「心配要りませんわ。本物のアダマンタイトであれば、この程度で壊れるはずがありませんの」
ローザさんが冷静に教えてくれた。
「見ての通りなのだ」
「た、確かに、周りの壁には亀裂が入ってるのに、アダマンタイトは綺麗なままですね……」
さらに何度かアルテアさんがハンマーを叩きつけると、周囲の壁がどんどん崩れて地面に瓦礫が転がっていく。
やがて壁に埋まっていたアダマンタイトが、ポロリと取れて地面に落ちた。
「ついにアダマンタイトが手に入ったのだあああああっ!」
アルテアさんが拾い上げ、興奮した様子で掲げてみせる。
けれどそれを見たローザさんとタティさんが、そろって言う。
「……小さいですわね」
「確かにそうね……」
アルテアさんの小さな手の上に乗ったアダマンタイトは、せいぜい直径十センチといったほどの大きさだった。
アダマンタイト製の武具一式をパーティ全員分そろえようと思ったら、ぜんぜん足りないだろう。
「そ、そうかもしれないけれど、もう少し喜んでもいいと思うのだ……一人だけテンション上げた吾輩がバカみたいなのだ……」
アルテアさんが恨めしそうに言うと、ローザさんは「わ、悪かったですの」と謝って、
「ただ、実際にこうしてアダマンタイトを入手できたのは大きな一歩ですの。ライルくんの力があれば、闇雲に探す必要もありませんし、時間さえかければ十分な量を集めることができるはずですわ」
「その通りなのだ! ぜひどんどん採掘していくのだ!」
やる気満々のアルテアさんだったけれど、ローザさんが首を左右に振りながら告げた。
「いいえ、ここでいったんギアの街まで引き返しますわ」
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