第5話 狭いお風呂じゃ足を延ばせないでしょ
魔法を習得すると、感覚でその性質や使い方をおおよそ理解することができる。
〈小物収納〉という生活魔法を習得したときも同様だった。
「この魔法を使えば、小さな物を異空間に収納しておくことができるんです。なので重たいものを持ち運ばなくてよくなります。もちろんいつでも好きなときに取り出せますよ。こんなふうに」
バックパックを再び出してみる。
「マジか。生活魔法にそんな便利な魔法があったなんてよ」
「いや、〈小物収納〉なら聞いたことあるが……名前の通り、本当に小物しか収納しておけないショボいものだったはずだぜ……? このバックパック、どう考えても小物ってサイズじゃないんだが……」
驚くゲインさんとギルさん。
「ねぇ、それって、あとどれくらい入るのかしら?」
「限界まで試したことないですけど、まだまだ入るとは思います」
「え! それなら先に言ってよ! もっと化粧品を持ってこれたじゃない!」
なぜかメーテアさんに怒られてしまった。
「んなことより、ダンジョンで入手したアイテムや素材も保管しておけるのは大きいぜ! あまり多いと持ち帰れねぇから、いつも泣く泣く捨ててるやつもあるからな!」
「そうですね。入れられる限りは」
何にしてもこの魔法を習得していてよかった。
これで荷物運びという、サポート要員として最低限の役割もこなすことができる。
そうして僕たちはダンジョンへと足を踏み入れた。
『岩窟迷宮』と呼ばれているこのダンジョンは、その名の通り岩で作られた洞窟タイプのものだ。
内部はひんやりしていて、外に比べて気温が10度近くも低いらしい。
「上層の魔物は雑魚ばかりしかいねぇし、トラップもほとんどねぇ。すでに何度か踏破してルートも把握済みだからよ、ひたすらガンガン行くぜ。おい、シルア」
「……」
「今日はお前も荷物がねぇんだ。先頭を進め」
ゲインさんに命令され、シルアが無言で前に出る。
どうやら普段は戦闘だけじゃなくて、荷物持ちもやらされているらしい。
そうしてゲインさんの宣言通り、ハイペースで地下1階を進んでいった。
途中で何度か魔物に遭遇するも、ゴブリンやコボルトといった最弱レベルの魔物ばかりで、シルアが瞬殺していく。
彼女はかなり腕が立つみたいだ。
獣人特有の高い身体能力に加えて、剣の才能もあるのだろう、ゴブリン程度の魔物では複数が相手でもまったく歯牙にもかけない。
やがて地下2階へと続く階段を発見した。
「はっ、悪くねぇ速度だな。このまま行けるとこまで一気に行くぜ」
深い階層に進めば進むほど、洞窟の構造は広く複雑になり、魔物もより強力になっていった。
今は地下8階で、エルダーコボルトやハーピーといった中型の魔物とよく遭遇している。
それでも魔物の大半は、先頭を行くシルアが一人で撃破していた。
この階層の魔物が相手でも、一対一であれば苦戦することもない。
「はぁ……はぁ……」
とはいえ、さすがの彼女もここまで戦い続け、疲れてきたみたいだ。
僕は思わず声をかける。
「大丈夫?」
「……」
シルアは無言のまま首を縦に振った。
「はっ、心配要らねぇよ。そいつはこの程度で値を上げるほどヤワじゃねぇ。それに地下10階にはこのダンジョンで唯一の安全地帯があるからな。どのみち今日はそこで一泊するつもりだ」
どうやら地下10階まではこのまま行くつもりらしい。
ちなみに安全地帯というのは、魔物が出現しない特殊な一帯のことで、ダンジョンのオアシスなどとも呼ばれている。
見張りなどが不要になるため、冒険者の多くはこの安全地帯で休息を取るのだ。
さらに探索を進め、やがて僕たちはその地下10階の安全地帯に辿り着く。
まるで人工的に作り出したかのような直方体の空間で、床も壁も天井も平らに均されている。
すでに幾つかテントが張られていて、僕たち以外にもここで休息を取っているパーティがいるようだ。
「少し早いが、今日はここで夜を明かすぜ。つっても、ダンジョンの中だ。朝も昼もねぇんだけどよ」
ダンジョンの外はまだ夕方くらいだろうか。
一度ここで仮眠をとって、それから現在攻略中の地下13階に向かうらしい。
「お風呂に入りたいわ。準備してちょうだい。あなたが運んできたバックパックの中にバスタブがあるはずよ」
「分かりました!」
メーテアさんに命じられ、僕はバックパックに入っていたバスタブを取り出す。
革でできていて、普段は折りたたまれているけれど、広げれば簡易のバスタブになるという代物だった。
「おいおい、随分とデカいバスタブだな? ここにお湯を満たそうと思ったら、かなり時間がかかるんじゃないか?」
簡易のバスタブと言いつつ、頑張れば四人くらい同時に入れそうな大きさを見て、ギルさんが呆れたように言う。
「何言ってんのよ? 狭いお風呂じゃ足を延ばせないでしょ?」
「はいはい、そうですね、お姫様」
ギルさんが首をすくめる中、僕は〈水生成〉でバスタブに水を溜めていく。
ドドドドドドドドッ!!
「水が溜まりました」
「「「は?」」」
なぜかみんな唖然としているけれど、僕は続いて〈湯沸かし〉を使い、その水をお湯に変えていった。
ほかほかほかほかっ!!
「はい、お湯が沸きましたよ。ちょっと熱いかもしれないので気を付けてください。……あれ? どうされましたか?」
立ち昇る湯気を見ながらポカンとしていたゲインさんたちが、声をそろえて叫んだ。
「「「普通こんなに早く沸かないだろ!?」」」
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