第13話 覚悟はしてたけど
「見えてきたわ。あれが私の故郷……フェリオネアよ」
それは大草原の中心にあった。
アーゼルと比べるとかなり小規模な街だ。
それでも周囲は石造りの立派な防壁で守られていて、その様相は城塞都市に近い。
だけど、今は防壁のあちこちが崩れたり穴が空いたりしていて、どこからでも出入できる状態になってしまっていた。
奥に見える街並みも見るも無残で、とても復興が進んでいるようには思えない。
「……覚悟はしてたけど、酷い有様ね」
シルアが嘆息と共に呟く。
「ちょっと覗いてみよう」
僕たちは防壁に近づいていった。
なかなか分厚く作られていて、ここまで破壊されていることに驚きを禁じ得ない。
しかもよく見ると、何か大きな生き物によって齧り取られたような印象を受けた。
いや、防壁だけじゃない。
家屋の破壊され方も似たようなものである。
魔物災害だったって聞くけど……一体どんな凶悪な魔物に襲われたのだろうか。
「それが覚えてないのよ。まだ幼かったのもあるし、そもそも魔物に遭遇する前に逃げ出したから」
「そうなんだ。遭遇してたらトラウマになっていたかもね」
防壁を越え、僕たちは街の中にまで足を踏み入れてみる。
フェリオネアの住民は、その大半が獣人で、しかも猫系の獣人がほとんどだったそうだ。
言われてみれば、シルアは猫っぽいかもしれない。
そのせいか、まるで都市全体が巨大なアスレチックのようだった。
もちろんかなり破壊されてしまってはいるけれど、建物が三次元的に配置され、立体的な迷路のような構造をしているのだ。
橋やロープがあちこちに張り巡らされ、壁を抜けられるトンネルだったり、明らかに意図的に設置された障害物があったりしている。
各々の建物も、よく見ると壁に不必要な足場が付けられたりしていて、それ自体が一つのアスレチックのようだ。
「そうそう、確かにこういう街だったわね。懐かしいわ。私の家も階を行き来するための階段がなかったりして、壁を登ったりロープを伝ったりして移動しないといけないのよ」
ちょっと楽しそう。
「都市の真ん中には巨大な塔があったわ。跳んだり登ったりしながら、一番上まで登っていくの。都市全体が見渡せて、すごく良い眺めだったのを覚えてるわ。そういえば、途中に憩いの場とかもあったっけ。そう、要するにキャットタワーみたいな感じね」
猫は本当的に高いところが好きって聞くけど、どうやら猫の獣人も同じのようだ。
「たまに子供が落ちて大怪我してたけど」
「怪我するんだ……」
都市の中心の方を見てみたけど、その塔は見当たらなかった。
残念ながら倒壊してしまったのかもしれない。
「っ……そこの壁の陰に何かいるわ」
不意にシルアが足を止め、腰の剣に手をかけた。
魔物だろうか。
打ち捨てられたこの都市が、魔物の巣窟になっていてもおかしくない。
警戒する中、壁の向こうから姿を現したのは、
「っ……びっくりした。てっきり魔物に見つかっちまったかと思ったじゃねぇか」
黒い肌の青年だった。
よく見るとシルアと同じように、頭の上に獣耳が付いている。
「同胞のようね」
「うん」
向こうもまたシルアの獣耳に気づいたようで、
「もしかしてお前さん、復興隊の新入りか? にしても、何で人族の子供を連れてるんだ?」
「僕は子供じゃないです。成人してます」
きっぱりと否定しておく。
「復興隊? よく分からないけど、私はしばらくこの故郷を離れていて、復興が進められているって聞いたから様子を見に来ただけよ」
「おいおい、それでいきなり街中に入ってくるとか危ねぇだろ! 今ここにはオークどもが巣食って――」
「ブヒィッ!」
「――言ってる傍から!?」
青年の背後から現れたのは、豚の頭を有する人型の魔物、オークだった。
身長180~190センチほどの背丈があり、がっしりとした体格の魔物で、ゴブリンやコボルトなどとは比較にもならない強さを持つ。
一体だけではなかった。
全部で四体いて、しかも武器まで装備している。
「マジかよ!? 一体ならともかく、四体同時は無理だぞ!? 隙を見て逃げねぇと!」
悲鳴を上げながら、青年は腰に下げていた短剣を抜き放つ。
僕は叫んだ。
「横に跳んでください!」
「っ!?」
青年が即応して跳躍した直後、僕は〈そよ風〉を発動した。
突風が吹き荒れ、オークの集団を直撃する。
「「「ブヒイイイイイイツ!?」」」
オークの巨体が、四体まとめてあっさり吹き飛んでいった。
「今のうちに逃げましょう」
「お、おう……」
来た道を引き返し、僕たちは崩れた防壁から街の外へと出た。
後ろからオークが追いかけてきている気配はない。
安堵の息を吐きながら、青年が聞いてくる。
「……今の魔法、お前さんの仕業か?」
「はい、そうですけど」
「すげぇ威力だったな? オークどもをあんなに軽々と吹っ飛ばすなんてよ……。もしかして割と有名な緑魔法の使い手か?」
「いえ、あれは緑魔法じゃないですよ?」
「へ?」
「ただの生活魔法の〈そよ風〉です」
一瞬何を言われたのか分からない顔をしてから、青年は声を張り上げた。
「んなわけねぇだろ!?」
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





