第11話 こっちにも選ぶ権利がありますので
「ボスを倒しただと? はっ、つまんねぇ嘘吐くんじゃねぇよ。お前らだけで、んな真似できるわけねぇだろ」
ゲインさんは呆れたように吐き捨てた。
まったく信じていない様子だ。
「どうやったか知らねぇが、上手く逃げてこれたようだな」
「よかったわ。あたしの荷物が戻ってきてくれて」
「つーか、誰だ、その女は……?」
別人のようになったシルアに気づいて、ギルさんが目を丸くする。
「シルアですよ。色々あってこんな感じになりました」
「いや何があったらこんなに見違えるんだよっ!?」
「つか、こんなに美人だったのかよ……」
「ちょっと、ゲイン? まさか、こんな獣女が良いっていうの?」
まじまじとシルアを見るゲインさんを、メーテアさんが不愉快そうに問い詰めた。
「あ、いや、もちろん、お前の方が良い女に決まってる」
「……当然よ。むしろこんなのと比較されるだけで心外だわ」
「な、何にしても、無事に合流できてよかったぜ! だがな、ライル! お前のさっきの行動はマジで最悪だったぞ!? 確かに冒険者は命懸けの仕事だがよ、自分の命を軽んじるようなやつは冒険者失格だ! あんな真似、もう二度とするんじゃねぇぞ! いや、お前には期待してるから言ってんだぜ!? どうでもいいやつだったら、こんなこと言わずにとっととお払い箱にしてるからな!」
そう訴えてくるゲインさんだったけれど、僕はきっぱりと告げた。
「いえ、僕はもう、パーティを抜けさせていただこうと思ってますので」
「……あ? てめぇ、どういう意味だ?」
「どういう意味も何も、そのままの意味ですよ。正直、皆さんのことは、もうサポートしたいと思えなくなりました。なので今回の冒険で、いえ、できればこの場でパーティを抜けさせてもらえればと思います」
ゲインさんの眦が吊り上がった。
「て、てめぇっ、本気で言ってんのか!? こっちはさっきの失態を踏まえてなお、てめぇをメンバーとして認めてやろうって言ってんだぞ!?」
「はい、もちろん本気です。ゲインさんたち側に選ぶ権利があるように、こっちにも選ぶ権利がありますので」
試用期間だったのは僕だけではないのだ。
「残念ながら皆さんは、僕が認めるレベルにないなと」
「~~~~っ! 生活魔法使いの分際でっ、なに偉そうな口利いてやがんだよ!? ぶち殺すぞ!?」
激高した様子のゲインさん。
さらにメーテアさんとギルさんも、
「ねぇ、こいつマジでムカつくんだけど? 本当にヤっちゃえば? 便利で使えるやつかと思ったけど、こんな不快なやつ要らないし、顔も見たくないわ」
「くはははっ、お前さん、完全にやっちまったなァ? こんなダンジョンの中で喧嘩売るとか、殺してくださいと言ってるようなもんだぜぇ? だってよ、冒険者ギルドには、魔物に食い殺されたって報告しておきゃいいだけだからなァ?」
殺気を隠そうとしない三人が、無造作にこちらへ近づいてきた。
完全に油断している彼らへ、僕は生活魔法を発動する。
「〈そよ風〉」
「「「~~~~~~っ!?」」」
突風が吹き荒れた。
三人そろって吹き飛ばされ、後方の壁に思い切り叩きつけられる。
「がっ……な、何を、しやがったっ……?」
「生活魔法の〈そよ風〉を発動しただけです」
「〈そよ風〉だと!? 今のはどう見ても緑魔法の威力だろうがっ!?」
戦士だけあって頑丈なゲインさんが、顔を歪めながらも起き上がった。
一方、ギルさんとメーテアさんは、まだ地面に転がって呻き声を発している。
「ねぇ、あとは私に任せてもらってもいいかしら?」
「シルア?」
「まどろっこしいことはやめようと思って。こいつらの顔なんて何度も見たくないもの。今ここで叩きのめして、それで復讐は終わりにしたいのよ」
「構わないよ」
僕はすんなりとシルアに譲った。
彼女の方が、よっぽどこの三人に腹を据えかねているだろうからね。
「おいおい、てめぇまでオレに反抗する気か? まさか、隷属魔法のこと忘れたんじゃねぇだろうな? そっちのガキをぶちのめせ! これは〝命令〟だ!」
ゲインさんがシルアに〝命令〟を下す。
直後、地面を蹴ったシルアが、一足飛びにゲインさんとの距離を詰めた。
「……は?」
「見ての通り、もう自由の身なのよ」
シルアはまったく容赦することなく、剣の柄で下からゲインさんの顎をかち上げる。
「が……」
白目を剥いてゲインさんは大の字に倒れ込んだ。
人体の急所の一つである顎に不意打ちを喰らったら、さすがに頑丈なゲインさんも意識が飛んでしまうみたいだ。
気絶したゲインさんの下腹部を、シルアは何度か蹴りつける。
い、痛そう……。
「ど、どういうこと!? 何でゲインの〝命令〟に背くことができるのよ!?」
「うるさい」
「……ぶべっ!?」
シルアは続いてメーテアさんに近づくと、その頭を思い切り踏みつける。
硬い地面にメーテアさんの顔面が激突し、鼻血が垂れた。
「こ、このっ……獣女っ……こんなことして、タダで済むと思ってんのっ!?」
「ずっと思ってたんだけど……あなた、めちゃくちゃ臭いわよ?」
「なっ?」
「それも下半身の方がね。私は獣人で、嗅覚が良いから分かるんだけど、普通のニオイじゃないわ。これはきっと性病のニオイよ」
「~~っ!?」
「心当たりがあるみたいね」
「ななな、何の話かしら!? 意味不明なこと言わないでちょうだい! だいたい獣臭いあんたなんかに言われたくないわ!」
「信じないならそれでいいけど、早く治療した方が良いわ? というか、ヒーラーなら本来は性病くらい治せるはずなのにね。もしかしたら簡単には治療できない、かなり厄介なやつかもしれないわ」
「~~~~っ! 獣女がああああっ!」
怒りと屈辱で顔を歪めながら、シルアの足を掴んで無理やり引きずり倒そうとしたメーテアさんだったけれど、その前にシルアが剣で髪の毛をばっさり斬り落とした。
「あ、あ、あ、あたしの髪がああああああああああああああっ!?」
絶叫するメーテアさんはあまりにショックだったのか、そのまま気絶してしまった。
シルアは最後にギルさんの方へと向かう。
「あ、謝るっ! あのときのことは謝るっ……いや、それ以外でも、ずっとゲインたちと一緒にお前さんを蔑ろにしていたことっ……本当に申し訳なかった! ど、どうか、許してくれっ、この通りっ!」
顔を引き攣らせ、まくし立てるように謝罪の言葉を口にしながら後ずさるギルさん。
「いいわ、許してあげる」
「ほ、本当かっ!?」
「ただし存在が気持ち悪いから一発全力でぶん殴るわ」
「ぜんぜん許してくれてねえええええええっ!? ぶごぼおおおおおおっ!?」
シルアの膝蹴りがギルさんの腹を直撃した。
「な、殴るって……言った、のに……がくっ」
ギルさんは気を失う。
そろって意識を喪失した三人を見下ろしながら、シルアは吐き捨てるように言った。
「本当はこのままトドメを刺してやりたいけど、やめておいてやるわ。あなたたちのような汚らしいやつらの血なんかで手を染めたくないもの」
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





