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生限時間  作者: 緒環円
第2章 Octopus's Garden
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第8話 クロウタドリ

 満腹な状態でコンビニに行けば、食べ物たちはそれほど魅力的には見えないということを思い知った。冷凍のたこ焼きを二袋、お茶を二本、買ったものはそれだけだ。思えばコンビニの電子レンジは初めて使った。


 犬田山けんだやま山頂広場に着くと、ギターの音色が聞こえてきた。展望所への階段を上がって行くと、女性の歌声も聞こえてきた。日本語じゃない。多分、英語だ。


「あ、先輩こんばんは。……たこ焼き、買ってきましたよ」


 先輩は僕に気づいて演奏を止めた。


「お、つかさくん、ありがとー」


 黒いアコースティックギターだ。あんまり詳しくはないけれど、置いてあるハードケースを見るに、とても高そうだ。


「ギター弾けるんですね、それに、歌も」


 正直言って、先輩の歌はかなりうまかった。惚れかけた。


「まあね、四歳くらいからやってるから。ピアノも弾けるよ」


 先輩の「変装」も夏バージョンになっている。黒いキャップは同じだが、ウィッグは少し短めで、肩にかからないくらいのボブというのかな、そのくらいの長さだ。上も長袖から半袖のシャツに変わっている。靴もサンダルだ。金属製ではなさそうなブレスレットもしている。色はもちろん、黒。


「さー食べよ食べよ。いくらした?」


 先輩はそう言うと、ギターのケースからウェットティッシュを取り出して、僕にも一枚くれた。コンビニでおしぼりをもらっていたけど、これはまあ、食べ終わって口を拭くとかで使えばいいか。


「あ、いいですよ。高くなかったですし、何回もお菓子もらってますから」


「そお?じゃあ、お言葉に甘えて」


 たこ焼きは食べるのにちょうどいい温度になっていた。ふにゃふにゃというか、まあ悪く言えばベチャベチャ系のたこ焼き。僕は好きだ。


「おいひー」


 先輩は顔が小さいから、たこ焼きも多少大粒に見える。僕は本日二回目のたこ焼きだが、ハズレの心配がなく、夜景も相まってまた違ったおいしさを感じる。


「詞くんのところはヘンなたこ焼きでしょー。面白そうだね」


「先輩のクラスは何やるんですか?」


「なんかボウリング?みたいなの作るんだってー。ほら、二階の中央廊下に坂みたいなやつあったでしょ?あれうちのクラスの」


 あー、そういえば置いてあったな。アレか。U字(ユーじ)に上って下ってくるようなコースが作られていた気がする。


「去年はメイドカフェで接客したんだよー?いろんな人に写真撮ってって言われて……。もう文化祭はり!」


 文化祭にはあまりいい思い出はないようだ。僕は姉が高三のときに行ったことがある。そのときは姉のクラスの劇のビデオを撮って、すぐ帰った。お祭りは嫌いではないけれど、正直苦手だ。今年はどうしたものか――。


「そういえば、さっき英語で歌ってましたよね。先輩、発音良くないですか?」


「んー、私耳がいいんだ。あとね、小さい頃海外のアニメずーーっと見てたの。英語で。だからまあ、聞けるし話せる」


 ドヤ、と言いながら目を細めた笑みでこっちを見てきた。すごいな。僕は学校の勉強ならわけないが、洋楽を聴いてもほとんど意味までは分からない。


 食べ終わったあやめ先輩は、再びギターを手に取った。さっきは後ろ姿だったけど、正面から見るとよく映える。とても似合っている。


 食後だからか分からないが、今度は演奏のみだった。ほとんど弦を押さえるところを確認しない。視力のこともあるだろうけど、どちらかというと熟練度の表れであることがその演奏から分かる。……アコースティックギターっていいな。


 急に演奏を止めて、これまた急に聞いてきた。


「ねえ、土日のどっちか空いてる?エタナモール行こうよ」


「え?ああまあ、大丈夫ですよ、分かりました」


 オッケー決まりねー、と言うと先輩は演奏を再開した。僕は北高では珍しい帰宅部所属なので、日程的に問題あるはずがない。エタナモールは近くのショッピングモールだ。駅からバスですぐ着く。目的は分からないけど、返事ははいだ。


 先輩は歌も歌い始めた。また洋楽みたいで、歌詞はよく分からなかった。


――なんの歌だろう……オクトパス……?なんて言ってる?

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