表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生限時間  作者: 緒環円
第1章 フライデイノベルス
6/11

第6話 二人の関係

「コンコンコーン、失礼しまーす、俺でーす。うお、コーヒーの匂いすげえ!」


 ふざけすぎだろこいつ。秀也しゅうやに続いて僕も保健室に入る。


「おー今日は赤崎もいるな」


「来ちゃいましたねえ。いやー今週は忘れるのを忘れちまいました」


 アホか、とつぶやいて長谷川先生は新しいコーヒーの準備を始めた。いま秀也が言ったように、保健室はまだ、コーヒーの香りを残しているというのに。



 今日は金曜日。先週に引き続き、保健委員として歯科アンケートの集計作業だ。このあとは、秀也たちとご飯に行って、そのあとは――


「あ、巌佐いわささん!」


 ベッドに腰かけていたあやめ先輩に、秀也は声をかけた。シーツよりも真っ白な、ショートカットの髪が揺れる。


「先週は大変申し訳ありませんでした!てっきり親友の水城みずきくんが全部やってくれるかと思ってたんです!!」


「ううん、いいよ。暇だったからね」


 学校にいるときのあやめ先輩だ。僕も軽く会釈えしゃくをする。何度か連絡は取り合っているものの、会うのは一週間ぶりだ。あの夜とは雰囲気が全く異なるけれど、眼は同じだ。


 「ばつ」の内容は、結構けっこうフワッとしていた。先輩の提示したものは、二つ。


 一つ、私の命令は絶対。返事ははい。


 二つ、私の生きる理由を探すこと。がんばりたまえ。


 これに加えて、毎週金曜日の夜は「きたさらずタワー」に来るようにも言われた。雨天中止だそうで。


 見つける、ではなく探す、と言ったのは先輩の優しさかな。それとも、諦めか。まあ要するに、自殺をめろということだ。


 ある意味(たよ)られているわけだし、断るつもりもなかったが、従うしか道はなかったとも言える。僕が得た先輩の秘密は、金曜の夜に変装して街を歩くことと、一年後に自殺を計画していること。先輩が持っている秘密は、僕の尾行行為。うん、バレて困るのは、僕の方だ。


 長谷川先生が新しいコーヒーをれ終えたところで、集計作業が始まった。先輩はベッドで……、眠っているのかな。カーテンはいているが、布団を頭までかぶっていている。


 この一週間、僕なりに考えた。先輩の死にたい理由は、察するに病気に由来するこの世界の生きづらさだろう。これを全てなくすのは、難しい。僕には不可能だ。そうなるとやはり、生きる理由を見つけなければ。しかしこれも、普通に考えれば難しい。


――なら、作ればいい。


 そう、僕自身が、先輩の生きる理由になればいい。僕は先輩に、一年間自分のために生きろと言われた。だが違う、逆転の発想さ!先輩には僕のために生きてもらう。


 理屈付けは完了した。本当は分かっている。こんな言い訳をこねなくても、困っている人に助けを求められたから、と、それだけでいいことを。でも僕という生き物は、こうやってしか生きられない。


「よっしゃあ!26R終わりー!」


「うい~ないす~」


 長谷川先生は猫舌みたいだ。マグカップに口を付けては、飲まずに机に戻す。先生は地味にとんでもないスピードで集計をしている。毎年やってるだろうから、流石に慣れているのか。


 机の上に置いておいた僕の携帯に、メッセージが届いた。音もバイブレーションも切っているから、画面が点いたことで気づく。授業中に隠れて使うこともあるから、いつもこの設定だ。


――さっき香奈かなちゃんにカステラもらった!今日の夜たべよ!


 あやめ先輩からだ。ベッドの方を見るが、布団を被ったまま。この香奈ちゃんとは長谷川先生のことだ。一瞬混乱するからやめてほしい。すぐに二件続く。


――私ミルクティーね あったらホット

――(クマのスタンプ)


 ご注文(うけたまわ)りました。今日はロビンでのデザートはやめておこう。この季節にまだホットの飲み物売ってるところなんてあるかな。手早く返信する。


――了解です。



 僕はそういう経験がないから分からないけれど、これは主従関係のたぐいというより

……付き合ってるみたいじゃないか?


 まあいずれにせよ、僕に拒否権はない。返事ははいだ。

第1章 フライデイノベルス 完 です。


第2章 Octopus's Garden は今月末の投稿を目標にしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ