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生限時間  作者: 緒環円
第1章 フライデイノベルス
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第4話 勘冴えて

「やっぱりね、つかさくんだ」


 展望所を見上げると、黒い髪の女性が手すりから身を乗り出して、こちらを見下ろしていた。固まっている僕を、からかうように笑っている。


「こっち、おいでよ」


 言われるがままというやつだ。僕は展望所への階段を上がっていく。一番恐れていた、先輩に僕だと認識されるということが起こってしまった。何をミスった?意味が分からない。


――いつからだ、いつからバレていたんだ?なぜ、先輩は僕だと分かったんだ?


 答えは出ないまま、展望所に着いてしまった。『生限時間ライフリミット』が示した通り、全身黒ずくめの女性は、巌佐いわさあやめ先輩だった。化粧なのか、眉毛やまつげも黒い。先輩は、恰好かっこうではなく表情が、学校での先輩とは異なっていた。


「驚くかなって声かけたんだけど、ちょっと驚きすぎじゃない?」


「あの、いつから、気づいてたんですか?それに、なんで僕だって……」


「……うーん、勘!」


 眼は、昼間と同じ色だった。青みがかった、灰色と紫の間のような、きれいな色だ。それと、不思議ないい匂いがする。


「私ね、アルビノだから、ほら、よく見られるでしょ?人の視線や気配にはね、敏感びんかんなの。だから、最初から、かな。つけてきてる人がいるのは分かってて、ここから広場にいるのを見て、詞くんだって分かった」


「あの距離でも見えるんですか?」


「ううん、だから、勘。学校で会った時と同じ、制服のまんまだったから分かったけど、私服だったら分かんなかったかもね」


「……すみませんでした!」


 生まれて初めて、土下座した。


「あはは、そうだよ、女の子つけ回すなんてサイテーだからね。要反省ようはんせい!!」


 先輩は、僕の前まで来てかがんだ。


「こっちも聞きたいことあるんだけど、いいかな?」


 はい、と土下座したまま返事をすると、先輩は僕の顔を両手で持ち上げ、自分の顔に近づけた。


――眼を、のぞき込まれる。


「ねえ、どうして、私って分かったの?分かってつけてきたんでしょ?」


 それは反射的に出た言葉だった。広くとらえれば、あながち嘘でもない。


「……勘です。駅前で見かけて、先輩だと思って、それを確かめようとして……」


「ふーん、そっちも勘かあ。……勘は偉大だね」


 先輩は僕の顔から手を離すと、立ち上がって手招きした。


「こっち、おいでよ」



 きたさらずタワーの展望所からは、北更津きたさらづ駅前とその周辺を一望いちぼうできる。夜に来たのは初めてだった。


「……きれいですね」


 思わず口にした。先輩の方を見ると、先輩は笑顔で僕を見ていた。


「そうなんだー。私はね、ほとんどなんにも見えない!」


 ――今日は心臓がよく止まる。


 失礼ついでに、もう聞いてしまおう。


「なんで、先輩はその格好をしているんですか?」


「お、聞くねえ。いいよ、答えたげる。」


 先輩は肩にかかる黒い髪に指を通した。


「金曜日の夜はね、この姿で過ごしてるの。メイクしてー、ウィッグしてー、ほら、爪も黒!」


 真っ白な指と対照的に、黒いネイルが輝いている。とても丁寧に塗られている。


「別人みたいでしょ。もし、普通に生まれてたら、こんな感じだったのかなって。けっこう可愛いでしょ?」


 何を言っても無責任になると思った。秀也に死なないと言うのとは、まるで違う。


「でもね、さっき、ちょっとだけ嬉しかった。この姿でも、私って気づく人いるんだーって」



 先輩は手すりから身を乗り出して、広場を見下ろした。黒く長い髪が、その表情をかくす。


「ねえ、ここから落ちたら死ねるかなあ」


「……え?」


「でも死ねなかったらやだよね、絶対痛いよー」


 急に何を言っているんだこの人は。声のトーンは変わらないが、顔は見えない。


「私、死ぬの。一年後に、自殺しようと思ってるんだ」




 先輩は――、長生きはしたくないみたいだ。

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