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生限時間  作者: 緒環円
第1章 フライデイノベルス
3/11

第3話 確かめられる

 駅から離れるにつれて、集団は集団ではなくなっていく。国道沿いを1㎞ほど歩いた。巌佐いわさ先輩と思われる女性は、僕より100mほど前を歩いている。つけているわけじゃない。僕は駅から歩いて帰るとき、いつもここを通っている。


 大きな交差点をさらに進むと、左手に「犬田山けんだやま公園」が見えてくる。犬田山けんだやまは標高50mにも満たないけれど、一応山なのだろう。「北更津きたさらづ市郷土博物館 金のかね」や「旧安東家(あんどうけ)住宅」など、文化財っぽいものもあって、小学校の頃に遠足で来たことがある。


 黒いキャップを被った女性は、左に曲がった。犬田山の入口だ。僕の家はもう少しまっすぐ進んで右に曲がった先にある。さて、あと50m進むまでに決断しよう。


 声をかけてみる、これが一番シンプルだ。もし違っていたら、人違いでしたと一言言えばいい。しかし街中で見かけたからと言って、わざわざ声をかけるほどの間柄ではないから、巌佐先輩だったときが困る。僕はそういうことをするキャラじゃない。


 確かめたいことは一つ、この女性は巌佐先輩なのか。今まで十五年間、『生限時間ライフリミット』にイレギュラーなどなかった。それなのに今日、突然二人も異変に出会うか?見た目に関して、この二人は別人と言えるだろう。でも僕にだけは、この二人は同一人物に見える。それが正しいのか、知りたい。


 確かめる方法は、あとをつけて行って、どこかで前から顔を見るか、声を聴くか。行き先が犬田山なのはラッキーだ。この先の山頂には夜景の有名な「きたさらずタワー」がある。今は滅多めったに行く人なんていないけれど、気づかれたときの言い訳には十分だし、もし巌佐先輩だったとしたら、先輩の視力で僕と判別することは難しいはず。


 つまり、水城詞みずき つかさがあとをつけてきたなんてことは、すべてなかったことにできる。


 ……それに、住宅街に進んでいたら後をつけるなんてしない。そんなことをしたら、本当にストーカーだ。


 確かめたい理由は、そうだな、これはいま確かめられる謎だから、だ。


 僕は「北更津きたさらづ市郷土博物館 金のかね 入口(300m先)」と書かれた看板を左に曲がった。


 車用に舗装ほそうされた道を上っていく。


 小さな駐車場に着くと、女性は山頂広場への階段を上がっていった。この先は視界がひらけている。足音が聞こえなくなるまで待った。



 僕は足音を立てないように、ゆっくりと広場への階段を上がる。登りきる前に、広場の地面と目線をそろえて、様子をうかがってみた。


――誰もいない。


 山頂広場に人の気配はなかった。あの女性はどこに向かったのだろうか。ここからだと、「博物館」か「きたさらずタワー」か、向こう側の下山ルートか。


 僕は山頂広場に上がった。博物館はこの時間は締まっている。360度見渡して、『生限時間ライフリミット』は見えない。つまり、広場に人はいない。


――残るは「きたさらずタワー」か。


 きたさらずタワーは全長28mで、高さ10mあたりに船の形をした展望所がある。そこにいるのだろうか。展望所へ続く階段の目の前まで来たが、ここから見上げても展望所の様子を見ることはできない。


 せっかくここまで来たし、夜景を見てみようか。女性がいたら、気づかないふりして顔を見ればいいし、いなかったら夜景を見て帰ろう。


 視線を地面に戻した瞬間、展望所の方から足音がした。次に、知っている声。


「私に、何か用かな?」


 展望所のライトに照らされた女性の影が、僕を飲み込んだ。


「詞くん」



 ――僕の心臓が動いていたなら、教えてほしい。

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