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生限時間  作者: 緒環円
第1章 フライデイノベルス
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第2話 見えるから

 ――モリアンいるわ!

 ――おけ


 この時間帯、駅前の「モリアンクレープ」には北高生だけでなく、電車通学をしている高校生大学生たちが小さな列を作っている。その列から少し外れた、たった一つのテラス席を三人組が占領している。一人は僕に気づくと、両手を合わせて頭の上にあげた。


「よお、サボり」


わりい!完全に忘れてた!!」


 我がクラスのもう一人の保健委員、赤崎秀也あかさき しゅうやは、何度聞いたか分からない決まり文句を言い放つと、カバンを置いていた椅子を空けて、指で僕に示した。こいつは信じられないくらい長生きする。


「おいつかさ、ちなみにこいつわざとだぜ」


 草野来斗くさの らいとがそう言うと、金子泰樹かねこ たいきは大笑いを始めた。二人もクラスメイトだ。来斗はそこそこ、泰樹は来斗よりは長生きする。


「知ってるさ、しかも気づいても戻ってこなかっただろ」


「そらそうよ!お前逆だったら戻んのかよ」


「戻るわけないだろう」


 秀也はほらな、といった表情で来斗に目を向けた。来斗はそれを無視して続けた。


「秀也が逃げたっつーことは、巌佐いわさあやめと二人っきりだったん?」


「いや、長谷川先生もいたし、元々先生の手伝いだったから」


「あー、『天使』ね!『天使』!」


「お前の分は巌佐先輩がやってくれたんだよ。来週残り半分の集計あるから、そん時謝っとけよ」


「うおーマジ天使じゃん!まかせろ!」


 笑い続けていた泰樹も、笑いながら聞いてきた。


「でもなんかちょっとくらい喋ったっしょ、なんかないの?」


 なんかってなんだよ、と返しつつも、彼らの期待してる内容は、想像がついている。


「まあ、可愛かったよ。すごく。あと、不思議ないい匂いした」


「「「へ~~」」」


 男子高校生の関心ごとなんて、そんなもんだ。それに、内面の方はこいつらに話せるほど知らない。少し、いたずらっぽく笑うんだとは思ったかな。教えないけどね。


「じゃあそろそろロビン行くか!」



 モリアンクレープから三十秒ほど歩くだけで、「珈琲ロビン」という喫茶店に着く。二〇時半まで営業していて、放課後に部活のない金曜日はここで夜ご飯を食べる、というようにしたいらしい。今回は二回目だ。


「俺さ、昔腎臓病(じんぞうびょう)でちょこちょこ入院しててさ。ほら、まだアホだったから、もうすぐ死ぬんじゃないかって思ってたわけよ。ガチでな」


 始まったか。これは秀也の鉄板トークの一つで、僕には、少し恥ずかしい話でもある。


「学校では俺、死ぬかもみたいなこと言いまくっててさ。そんとき詞とおんなじクラスだったんだけど、こいつさ、やけにはっきりと『死なない』って言ってくれて、なんか救われたんだよ。他のみんなも大丈夫とか言ってくれてたんだけど、詞のはすげー記憶に残ってる」


「じゃあ詞はこのアホを救っちまったおおアホってことか」


 来斗の一言に泰樹と秀也は大笑いを始めた。僕はデザートのプリンに夢中なふりをしている。来斗が続けた。


「こんな元気なやつが入院経験あるなんて信じらんねえな。今はもう完治してんのか?」


 この話を聞いたやつは、みんな同じことを言う。幸いにも――


「おう、完全復活どころか、もうお前らより体(つえ)えかんな」


 飯食いながら立つんじゃねえ、と来斗にツッコまれた秀也は、今度はあおるようにポーズをとり始めた。


「舐めんなよ?お前ら全員の葬式に出てやっかんな、覚悟しとけ!」


「そう言って一番最初に死んだりして」


 そう言った泰樹を秀也は鼻で笑い、僕に目を向けた。


「詞、俺死ぬと思うか?」


 クリームに乗ったサクランボに視線を落としたまま、何度と繰り返したセリフを口にする。


「死なないよ」


 秀也はほらな、といった表情で泰樹に目を向けた。泰樹には大ウケだったようだ。



 僕は財布を出さなかった。秀也から次に出る言葉を知っているからだ。


「ま、今日はワタクシが出しておきますよ、委員会ブッチはこれでチャラな!」


 ナポリタンとプリンで、1500円ほどおごってもらった。巌佐先輩とも話せたし、今日の労働は5000円分くらい得したかな。


 来斗と泰樹は電車、秀也は自転車通学のため、ここで解散となった。すでに二〇時を回っているが、金曜夜の駅前は、人でにぎわっている。昔は人込みが苦手だった。


 『生限時間ライフリミット』は、視界に入るだけで、勝手に理解してしまう。たくさんの人がいると、それだけで脳が疲れてしまうような感覚があった。昔は、ということは、今は違うということ。体とともに脳も成熟したのか、環境に順応するように進化したのかもしれない。簡単に言えば、慣れたということだ。


――だからこそ、違いに気づく。


 巌佐先輩?


 信号待ちの集団の中に、違和感を見つけた。『生限時間ライフリミット』の向きが他とは違う、鏡文字の、それも残り時間が一年ほどの人間がいる。前の方にいるようで姿は見えないが、巌佐先輩に違いない。


 進みだした集団の先頭は一人の女性だった。黒いキャップを被り、オーバーサイズ系の黒い長袖と、黒い短パン、じゃなくて、ショートパンツ?と言った方がいいんだっけ?そういうやつと、黒いスニーカー。それと……、


長く、黒い髪――。

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