エンピソード5 転生
まだ微かに意識がある。
体が宙に浮いたような感じで不思議だ。
しかも誰かに抱かれているようで安心感もある。
ずっとこのままでいたい、もしこれが天国だとしたら最高だと思った。
だが最高な状態は長く続かなかった。
「お…お…オギャー、オギャー、オギャー」
赤ん坊の声が聞こえる。
うるさい。もうずっと眠いんだ、静かにしてくれ。もう自分は死ぬんだろ、ここが天国だとしたら楽にしてほしい。
そう思うと同時に意識が戻る。
眩い光があたり目を覚ます。
(どこ?)
嫌というほど見た白い天井は、そこにはなく病室のライトもない。
変わりにまぶしく光るロウソクがあり自分がまだ生きていることに驚いた。
しかも見慣れない人が笑顔でこちらを見ている。
(え、怖い、一体なんなの)
立て続けに起こる驚きで動揺する、逃げようと体を左右に動かすが全然言う事が聞かない。
(なにこれ、ヤバ)
手や足の感覚はあるが動く気配がない。
人形になった気分である。
「さっきまでずっと泣いていたのに今は静かね、疲れちゃった?ふふふ」
見慣れない女性が話掛けてくる。
(いや、まじで誰なの、あなた?)
若い女の人だからか悪い気はしない。
それこそ安心感さえ感じる。
黒く長い髪で目はキリっとしている。
一般的には顔が整っていて美人よりなのかもしれない。
「おめでとう御座います、奥様」
すぐ隣にいた、年配のおばさんが声をかける。
「ふふふ、貴方のおかげよ、ありがとうね」
優しい笑顔でそう話す。
ドドッッ…ドン、バァァン!!
大きな音を立てながらドアを開け、駆け足で、一人の男が寄ってくる。
「無事に生まれたって、ホ、ホントか?」
「えぇ、私もこの子も無事だからそんな慌てないでって、ふふ」
大慌てでやってきた男は、これまた黒髪の短髪、痩せてはいるがどこか筋肉質な所もある男性だった。
「こ、これが」
「そう、この子よ、可愛いわよね」
「旦那様、おめでとう御座います」
「あぁ、本当に、本当に可愛いな」
赤子が目に入りそうなくらい近づいて見つめる。
「ハルト、抱いてみる?」
「いいのか、ライナ」
「当たり前でしょ、あなたの子でもあるのよ、ふふ」
「旦那様、まだ首がすわってないので頭と首はしっかり支えて抱くようにしてください」
「あぁ、わ、わかってる、それぐらいは知ってる」
手を震えさせながら恐る恐る自分を抱こうとする。
(ちょ、ちょ、ちょっとその手つき怖いんですけど!!)
体が抱かれることに拒否反応を示し、女性にしがみつこうとするが、大人の男性に勝てる筈もなく引き離されてしまった。
男性は不慣れな手つきではあったが、もうどうする事も出来ないので自分は体を楽にする。
(何がなんだか分からないけど、もうなるようになるしかないな)
「この目はライナにそっくりだな」
「鼻のあたりなんかは、ハルトに瓜二つよ、ふふふ」
「旦那様、名前はどうなさいますか?」
「実は名前はもう決まっているんだ」
男性が自信ありげに喋る。
「この子の名前は、ラインハルト・マーチだ!」
幸せなこの空間の中で自分だけが何が起きているのか理解出来ず蚊帳の外にいた。
一ヶ月経って分かった事がある。
結論からすると、自分は異世界に転生してしまったらしい。
バカげた話であるが今の現状を考えた時、それしか説明がつかない。
最初は自分の頭がおかしくなったと考えた時もあったがそれだとなぜ今、知らない女性の母乳を飲んでいるのかが分からない。
だって自分は確かにあの時、死んだのだ。
今の現状を整理する。
母の名前は、ライナ・マーチ。
外見は黒く艶の良い髪に、少しキツメの目つきで細身といったところか。
今、自分は生きるために仕方なく母の母乳を飲んでいる。
(別にラッキーとかは全然考えてないよ、ホント、ホント)
まぁ前世だったら性的興奮を覚える状況かもしれないがこの体なのかピクリとも動く気配がない。
ちなみに体は男の子で生まれました。
もし男の証が無かったらどうしようかと考えていたが前世にあったモノの感覚はしっかり感じる。
もし女の子で生まれていたら、心は男で体は女という色々複雑なことになっていたし、正直何をモチベーションにこれから生きていけばいいか分からなくなっていたので本当に良かった。
(だって恋愛とか結婚とかしてみたいじゃん、恥ずかしい話をすると手すら繫いだことないし、前世は人生がこれからっていうタイミングで病気になったので現世は女の子と色々あれこれしたい!!まぁ当分先だろうけど)
「全然ラインって泣かないけど、大丈夫かしら、どう思うハルト?」
(ヤベ、やっぱり少しは泣いたほうが自然だったか?でもすげー恥ずかしいんだよなぁー、だって中身は17歳の高校生だし)
「そこまで気にすることでもないだろ、逆に手がかからなくて楽じゃないか」
「そうなんだけどね…」
母の心配を余所に楽観的な見方をするのは父のハルト・マーチ、この家の主人だ。
黒髪の短髪で少し筋肉質、背筋がピンとしていて前世の自分は猫背だったことを思い出す。
我が家をみた感じ、中世の西洋風で少し裕福な家庭に生まれ、お手伝いさんも一人いる。
部屋を見た感じ、文明はそこまで進んではいない。
夜は電気が無いのでロウソクの光が頼りだ。
まぁ夜になったら大体すぐ寝るんだけどね。
たまに父と母がスクラムを組んでいる時もあるが、気にしてしまうと気持ちだけが生殺しになってしまうので早く寝ようと目を瞑る。
なんだかんだで、1年が過ぎた。
そしてビッグニュース!なんとハイハイが出来るようになりました!!
それだけ?と思う人も居るだろうが、でも実際は全然違う。
前世も含めて今までは四六時中ベッド生活だったのが今はハイハイで動き回ることができて、ストレス発散になる。
初めてハイハイした時、母とお手伝いさんはハイタッチして大喜びしていたが父は見逃したので暫くの間落ち込んでいた。
その姿を見ると愛されていると感じ、現世の家族にも恵まれたと思う。
ハイハイ出来るようになると離乳食を開始。
(べ、別に、母の母乳が飲めなくなるのは寂しいとかは全然思ってないよ、ホント、ホント)
離乳食は、多分人参?とか、カボチャぽいのを食べた。
父と母の食事を見ると、主食はパンと野菜が多い。
たまに肉が出てくるが何の肉か分からない、鳥に見えるが鶏とかではなさそう。
前に母が食べてるのを物欲しそうに見てアピールしたが「まだ、駄目よ」と言われてしまった。
赤子の体は不便だと感じ早く野菜以外の物を食べたい。
特に肉!肉が恋しいんだあぁぁぁぁぁ。
総じて現世の方が質素だがあんまり食べ物に関しては前世と変わらない様に見えた。
生まれて4年が過ぎた。
当たり前といえば当たり前だが普通に歩けるようになり、言葉も喋れるようになった。
最初は不慣れなフリをしたが今はもう面倒くさくて辞めた、別に問題ないでしょう。
最近思ったのだがこの世界というかこの国?の言葉は殆ど分かるようになった。
生まれてすぐは聞き取れなかったが、今は何を喋ってるか聞き取れるし、会話も出来る。
この体は子供だからか物覚えが良く大体の事を出来るようになるのが早い。
まぁ中身が高校生なのも要因だろう。
そして、流石異世界転生。
この世界には魔法があります。
ヤッターーー!!
魔法を初めて見たのは、1歳半ぐらいの時。
自分は1人でハイハイから立って歩く練習をしていた。
その日、いつも閉じてる部屋のドアが丁度空いていたのでワクワクしながら潜入。
廊下を抜けた先から母とお手伝いさんの声が聞こえ気になって行ってみると、二人で料理をしていた。
その時、母の手から水が出ていた。さも当然の様に。
呪文などなく至って普通に水を出したので最初は目を疑った。
そして無意識に顔がニヤけてしまう。
正直感動した…アニメや漫画の世界が目の前にあった。魔法はフィクションだけのモノではなかった。
(やっぱり異世界はそうでなくちゃね!)
魔法…
言葉だけでもワクワクするし自分も早く使ってみたい、だって自分が思い描いていた夢のような世界がここにはあるのだ。
(立って歩けるようになったし言葉も大体覚えた。次はやっぱり魔法だ!)
自分は、母から魔法を教えてもらうことに決めた。




