エピソード4 救い
緑一色だった桜の木は枯れ、季節は秋になっていった。
(女の子と手ぐらいは繋ぎたかったな)
最近は変愛小説の読み過ぎで感傷的になる。
自分はセンチメンタルになっていた。
小説で読んだ本には、病で寝たきりの少女とたまたま病院に来ていた少年がひょんな事から出会い恋愛に発展していく。
自分にも小説の様な出会いが欲しい。
しかし現実は残酷で出会いも無ければ、恋愛をするほどの体力もない。回復する見込みもない。
夢を描き、思いを馳せるが、ベッドで横になるだけの毎日に心が枯れ、落ち葉の様に落ちた。
自分に運命の人は居ない。
劇的な出会いもなければ甘く胸が張り裂ける恋は訪れない。
それが今日分かった。
担当医師が病室にやって来た…
ある人は絶望に聞こえ、ある人には安らぎに聞こえた。
母は現実に失望し、床に項垂れる。
父は天井を仰ぎ、失意に陥った。
自分は…自分にだけは救いの言葉だった。
頑張った。
毎日の吐き気、嘔吐、痛み、痺れ、疲労全てを受け入れ、悔み、恨み、妬み、怒り、焦り、悲しみ、孤独、恐怖、もう楽になりたい!
もう自分を否定したくない、もう自分の事を嫌いになりたくない!
もういいんだ、もう…頑張らなくて…
その時見えた。
何が?
今、存在する言葉では説明出来ない、何か…
あえて言葉にするなら楽園?
楽園がそこにあった。
まぶしい光に包まれた世界にポツンと真ん中に桜の木が見える。
自分は桜の花弁を拾おうとして手を伸ばす。
でも拾う寸前で消えた。
先生が去り、父の声が聞こえ現実に引き戻される。
(父さんって大分歳とったな)
久しぶりに見た父の顔は皺が増え、白髪になっていた。
遅れてやって来る父の言葉が胸に刺さる。
「お父さんはお前が最後まで病気に立ち向った事を誇りに思う、強い一人の男として、私の可愛い息子として生まれて来てくれてありがとう」
父の声が反復して離れようとしない。
父の愛情が頭からつま先まで染み渡り体が震える。
神に人生最後の願いを頼んだ。
「父さん、やっぱり弟の試合行きたいな…最後に見て帰りたい、死んだとしても必ず家に帰ってくるからさ…父さん頼むよ」
「う、うん…ん…そうだな、分かった、見に行こう…必ず家族全員で見に行こう」
「お兄ちゃん…絶対、絶対、点取るから、僕絶対点取るから!だ…かァら帰って来てよ!!」
弟が目に涙を貯める。
「みィに…見に行きましょう、来週試合あるから…」
母が泣きながら訴える。
家族の言葉が、感情が波の様に押し寄せて肌を濡らした。
病気になってから初めて泣いた。
出なかった、決して見せる事が出来なかった、我慢してた感情が家族の前で爆発した。
号泣だった、歯止めが効かなかった。
その日、自分は四ヶ月振りに熟睡した。
父視点
焦る、焦る、足がガクガクして走れない。
手は痺れ、口が渇き、声が出ない、目の奥が熱い!嘘だ!こんな終わり方だけは納得出来ない!
もう笑わないのか?もう泣かないのか?もう息子とは会えないのか?
息子の最後はこんな形で…そんなの絶対あり得ないだろ!
せめて来週、来週の試合だけでも息子に…
「先生!余命は半年だって言ったじゃないですか!!」
「分かってます!!最善を尽くすので今は離れて下さい」
手術室に運ばれる姿が息子の最後だった。
病で倒れてから悲壮感で溢れる息子の顔は最後だけ穏やかに見えた。
それだけが唯一の救いだった。
主人公視点
眠い、寝たい。
すごい暖かくて気持ちいい。
手から伝わる地面の感触、耳に届く風の音、顔に丁度良く当たる太陽。
寝ていると何かが、鼻に落ちた。
目を開け鼻に落ちた花弁を手に取ると、そこには桜の木があった。
自分は桜の下で寝ていたらしい。
ここは、楽園?
あぁ〜眠い、眠いな、なんでこんなに眠いのだろう?
大切な約束をしたはず、何かを願ったはず。
起きようとする気持ちと睡魔が反比例して自分はまた目を瞑った。
長くなりました、次は転生します。
やっと(笑)




