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楽園〈エデン〉〜才能無しと言われた少年が失われた才能を継承する〜  作者: SS神威


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エピソード30 魔法の速度

 無駄に寄り道をしたのですっかり日が暮れていた。

昼は食堂やレストランだった店が夜になると居酒屋や酒場に入れ替わった。

ライン達はボルク温泉から近くの酒場で夕食を食べる事に決めた。 


 中に入ると、冒険者の人たちが多く、大半がお酒を飲んでいる。居酒屋の様な雰囲気だった。

ちなみにラインはまだ飲める年齢ではない。

人混みの中で二つカウンター席を見つけて座る。


「メニュー色々あるね、何が美味しいかな?」

 

 ダイナの長い耳がピクピク上下している。多分お店でご飯を食べるのが初めてなのだろう。


「どれが美味いかな、ルックバードの照り焼きうまそッッ!」


「そこをどいて貰えるかしらねぇ〜」


 自分が座ってる席に顔の細長い人が立っている。エメラルド色の髪に額には大きい傷がある。男なのか女なのか分からない格好をしている。中性的な見た目だ。


「自分達が先に座ってますよね?他を当たって下さい」


「貴方じゃないのね、隣に座ってる穢れた血を追い出さなきゃ呪われたりしたら不味くなるのね、前呑んだ時も美味しくなかったからねぇ」


イラッ


「いい加減して下さい、穢れた血ってなんですか?そっちが店を出ればいいじゃないですか!」


「貴方は穢れた血を知らないのねぇ、直々に教えてあげてもいいけどねぇ」


 顔の細長い客は拳を鳴らす。身長は高く体格差は誰が見ても一目瞭然。

ラインは失礼な客と睨み合いになった。互いに引く気はない。


「私全然平気だよ、隣にもお店あるからそっちに行こうよ…」


 ダイナは心配してラインの袖を引っ張る。しかし漢として譲れないモノがあった。鼻が密着するほど顔を近づけて威嚇する。


 酒場が異様な雰囲気が包み込まれて、皆がライン達を注目していた。

腸煮えくり返ったラインは自然と青の世界が発動する。


(紅く光る場所が無い、多分相手は自分より圧倒的格上、ベルナルと同じで一瞬でも隙を見せたら一撃で仕留められる、でもここで引いたらダイナに対して示しがつかないだろ?)


 決して賢い判断ではない。しかし絶対負ける勝負も時として受けなければならならい。



「済まないがウチの店は金さえあれば誰にでも飯を提供するのをモットーにしてるんだ。気に食わないのなら他の店に行ってくれるか?」


 ただならぬ雰囲気に店主が口を出す。この店はヒカイト人などの人種問わず同じ代金で同じ料理を提供していた。


 飯を食う時ぐらいは人種関係なく食いたい。腹をすかせてる時ぐらいは過去、未来関係なく食べたい。

脛に傷がある者ばかりが集まる酒場だった。


「ここはアタシが間違ってたみたいねぇ、他を当たるのねぇ〜」


 そう言うと顔の細い長い客は店を去って行った。時が経ち異様な雰囲気は元に戻る。しかし皆が同じ話題で盛り上がっていた。


「今のケイシーダーマじゃねぇか」


「バカを言え、王都に来たってのか?」


「いやでも今の髪色的に似てねぇか、張り紙と瓜二つだぞ」


「ワイはクリスパレスで捕まったって聞いたぞ」


「おっさん、それ前に流行ったガセネタだぜ」


「ルーラ教会が捕まえたって聞いたぞ?」


「あのルーラ教会が?好き放題やってた死神すら一度も捕まえてないのに何言ってるんだかな」


「もしかしたらルーラ教会が死神とかケーシーダーマを雇ってる可能性だってあるよな?」



ガヤガヤガヤガヤ…


「背中の汗びっしょりだね、私の為に怒ってくれてごめんね」


「それより穢れた血ってどういう意味?」


「そ、それは・・・あまり詳しく聞かないで、言いたくない」


 そう言うダイナは悲しげであり少し怒っていた。当たり前である。美味しい夕食の時に完全に水を差された。



 気を取り直してメニューを選ぶ。

メニューは前世とあまり変わりはない。素材が豚や鳥から魔物に変わるだけで作る物は大体同じだ。


 揚げる、煮込む、焼くの3択になる。

ラインは目に付いた料理を適当に頼んだ。


「アントラホーンの塩焼き、2つお願いします」


 ラインはアントラホーンが何の魔物なのかは知らない。名前の響きが良かったので勘で選ぶ。

味は食べてみてのお楽しみである。


「おっと、デカいな…」

  

「そうだね、これ本当に食べきれるかな?」


 自分の顔より大きい肉が出てきた。

出来たてなのでジュージューと言っておりまだ熱そうである。


「別に残しても問題ないでしょ!」


 そう思い口にする。


(意外と塩っぱいな)


 肉は少し硬いが塩と胡椒の味はしっかりしていて美味しい。 

噛み続けると肉汁が出て甘みが増し脂は舌でとろける。ローストビーフの様な味だった。


 量は多かったが久しぶりの肉なので残さず食べた。いつもは少食なダイナもよく食べる。


(ふぅー苦しい、もう何も食べれないわ、値段もリーズナブルだしまた来ても良いかも!)


 ラインはそう思っていると隣から別の噂話が聞こえてきた。


「お前知ってるか?ルーラ教会が怪しい動きをしてるって?」


「なぁ〜に、怪しいのはいつもだろ」


「いや、今回は相当ヤバいらしいぞ」


「何が?そんなに?」


「ルーラ教会が国中の戦闘奴隷と武器を買占めたらしい、これは何かどデカい事が起き始めるかもな」


「確か後2、3年で100年の縛りが解けるんだっけか、それは怖いな、まぁ最悪ライブプレストが巻き込まれなきゃそれで良いけど…」


「違いねぇや、巻き込まれるのだけは勘弁だね」


 ラインは隣に居たオヤジ共の噂を聞いた。


(アイツら本当にろくな事しないな、武器と人をかき集め出したなんて今から戦争をするみたいじゃないか!そもそも100年間も戦争してない世の中なのに真反対の動きしやがって、ん?まてよ…)


「ねぇ、ライン、ラインってば!!」


 ダイナの声で深い思考から帰って来る。


「ど、どうしたの?」


「また女の人を見てるじゃん!何がそんなに気になるの!?」


「いや、隣に居た男の人の話を聞いてただけで、見てないよ、ほら」


 ラインが隣を指を指すとさっき居た男の人はいない。

変わりにナイスバディのお姉さんが座っていた。


(な、なんでこういう時に限って居ないの!え、アイツらどこ行った!?ってもう会計してるじゃん!!)


「ラインの嘘つき…」


 そう呟くと顔をまた膨らませる。二つ続けてマイナスなイベントが重なった。ダイナは超絶不機嫌になって夜が過ぎた。



 えーと…機嫌が治るのに2日かかりました。

あの日からずっと機嫌が悪く口を聞いてくれない。

謝っても知らんぷりされるし、どうすれば仲直り出来るか悩んでいたら2日経っていました。


 そして今日になり、「ねぇ、冒険者ギルドに行かない?」と誘われたので行きます。

機嫌も治ったので一安心です。多分時間が全て解決してくれました。



 ライン達は冒険者ギルドに着いた。


「今日は別な魔物いきたいなぁー」


「せっかくならFランクの魔物倒したいよね」


 前回依頼を達成した事でGからFにランクアップしていた。

ダイナの要望によりFランクの依頼書に目を通す。


「ルックバードが面白そうかな」


「ルックバードって何?」


「中くらいの鳥の魔物で鶏みたいに焼いたら美味しんだよなぁ〜、久しぶりに食べたい」


 ダイナは鶏を知らないが美味しいというので、興味が湧く。


 ちなみにラインは、調理されたルックバードしか知らず、野生で見たことはない。食材という認識である。


 ラインは、受付嬢の顔も胸も見ない様に下を向いて手続きをした。

その姿を見てダイナはニコニコしている。

周りからは変な目で見られ、ラインには苦痛だった。


 ルックバードは街の外なら世界中どこにでも生息している。

今日は遠出せずに王都から少し離れた森でルックバードを探した。


(へぇ〜ここにも居るんだ)


 森に入ると金色の狐を見掛けた。毛の艶が黄金に輝き放つ。

見た目は狐だがサイズは大きく、尻尾もかなり長い。


「見て!みて!あれ何?」


「あれが多分ライトフォクスだよ、依頼書にも載ってるからギルドに戻ったら照らし合わせてみなよ」


「ふ〜ん、ライトフォクスなんだね…」


 と言ってダイナは目を輝かせながら魔法を放とうとする。


「ちょっと待ったー!駄目だよ、今は撃たないで!」


 ラインが止めて、ダイナはなんで?みたいな顔する。


「ライトフォクスは基本群れで居るらしいし、Dランクだから手強いよ。今は諦めて、ランクをしっかり上げてから狩りに来よう」


「はーーい」


 長い返事だった、ラインの言い分は分かるので指示に従う。

ラインは意外と慎重派なので無駄な戦闘はしない。

今は自分の強さをランクを通して見極める作業をしていた。それは冒険者にとって大事な作業である。


「木の上見て、多分彼処に居るのがルックバードだよ」


 そこに居たのはカラスより一回り大きい緑色の鳥だった。


「絵で見たモノより可愛いね」


 ダイナはそう言っているがラインには全く可愛いとは思えない。

何故なら目が後ろにも付いているからである。


(調理後しか見てなかったけどキモくね、目が3つあるって何?ダイナってあんなのが本当に可愛いの?)


「撃っていい、もう撃っていいよね」


「火球は使わないでね、焦げちゃうから」


 ラインが許可したので小さい岩石で鳥の頭を狙う。

しかしルックバードは魔法に気づいて飛んで逃げて行った。


「あ…」


「今のはしょうがないよ、飛ぶのが速すぎるし次は別の魔法を試そう」


「分かった、やってみる!」


 ダイナはやる気に満ち溢れている一方で、ラインは傍観者になる。はっきり言って今のラインに出来る事は無い。


(これ苦手分野だわ、自分は魔法も中途半端だし、スピードは無いから剣で襲っても捕まえられない。ベルナルレベルになると仕留めるかも知れないけど…)


 ラインはルックバードを見つけ次第、ダイナに場所を教えて覚えている魔法を試す。


 しかし、泥沼や岩柱などの地面の状態を変化させる魔法は発動するまでほんの少しのラグがあり、木の上に逃げられる。


 次に水球や岩石を飛ばしても目が3方向にあるため不意をつけず仕留める事が出来ない。

最終手段でラインと息を合わせて同時に魔法を放っても器用に全て避けられてしまった。


 「ダイナ、魔力間に合いそう?」


 相当な数を打ったので本当なら尽きているはずだが、


「まだ全然有り余ってるよ、次はどうしよっか?」


 ラインの心配を余所にダイナの魔力量は底を見せない。流石エルフである。


(ルックバードって思った以上に速いな、確かにリヒト人が居ないと厳しいって受付嬢に忠告されただけあるわ…)


「うーん…」


 ラインは今日ほぼ何もしていないのでせめて頭だけでも働かせる。

このまま何も思い付かなければただの役立たずになってしまう。


(本当だったらリヒト人が二人と魔法を撃てる人が一人居れば楽勝らしいけど居ないしな…魔法自体のスピードを速くするしかない気がする)


「ダイナって超高速の魔法とか撃てるの?」


「速くするイメージがまだ浮かばないから魔法単体のスピードを上げるのは厳しいかも」


「もし、一度でも見せれたら同じ様にマネ出来る?」


「それなら私も出来るよ、魔法見たら大体分かるもん」

 

 頼もしい言葉を貰えたのでラインはより魔法単体のスピードを速くする方法を考えた。


(魔法で詰まったら前世で考えよう、もし岩石を野球の球で考えるとすると大事なのは回転数だ!より多く回転すれば速くなるし、実際は速くはならなくても回転数が多ければ初速と終速の差が変わらないので、結果的に体感スピードは速くなるはず…)


 野球でよく言われるストレートのノビは初速と終速の差で決まる。回転数が多いとノビがあって初速と終速の差が小さく、相手バッターは打ちづらいとされている。

仮に同じ140キロのストレートでも伸びがあるか、無いかで体感速度が全く違う。


 ラインは前世の知識とテレビで放送していたプロ野球のピッチャーをイメージして右手で岩石を回転し始めた。


(回転と言えばドリルでしょ!)


 最初はゆっくりと着実に回転させる。

新しい魔法なので、自分のイメージと目の前で起こる現象を一から擦り合わせて理想に近付けさせる。


 ギュルン、ギュルン、ギュルンッ、ギュルルルル!!!


 手から現れる岩石は音を立てながら回転させてその場で留まる。気を抜いたら暴発しそうだった。

ラインは5秒ほどフル回転させた岩石を木に飛ばした。


「ドリルライボルト!!」


 ラインが飛ばした岩石は高校球児並みの速さで木に当たり、貫通させた


「すご~い、カッコいいね!」


(え、ホント!!)


「その魔法、カッコいいよ!」


(な〜んだ、そっちかよ…)


「今の真似出来る?」


「見たら何となく分かった!私もやる!!」


 という事で、試し撃ちも無しにぶっつけ本番で

ルックバードを狩るらしい。


(普通は練習してからやるんだけどな、これが天才か…)


 ダイナは自信満々の顔でルックバードに魔法を放つ。そこに迷いはない。

ラインとは違い、1秒で溜めた岩石は銃声の様な音と共にピストルの様な速さでルックバードの頭を掠めた。


「外しちゃった…」


 一瞬の嘆きとほぼ同時にコンマ何秒で2発目が発射された。


「はいぃ!?何それ!!」


「今度は上手くいったね、ライン!」


(今度は上手くいったね、じゃねぇのよ!!全く意味が分かんない!?)


 ラインの頭は、今起こった衝撃映像を処理しきれていない。

 

「えっ待って待って、え?今の何?」


 ダイナの2発目はしっかり頭を貫いた。

しかしラインの反応が想定と違うのでダイナは頭に?マークを浮かべる。


「どうしたの、ラインの魔法と違った?何処か変だったかな?」


「だって!だって!一発目を外したのは分かるけどなんであんなに2発目が速いの?」


 ラインは魔法自体のスピードにも驚いたがそれ以上に連射スピードが異次元レベルで速いのが驚きだった。


 普通なら魔法を放った後は2秒から3秒近くのラグが発生するが今のダイナはライフル銃の様な速さの魔法速度と連射速度を両立させている。


「なんかねぇ〜外しちゃった!って思ったら勝手に撃ってたかな、よく分かんない!」


「あ、そっか、そうだね、いきなり聞かれても分かんないよね…そうだよね…」


 ラインは才能の差を痛感した。

ラインはどう頑張っても高校生が投げた野球ボールぐらいの速さと魔法を放った後は少しのラグが発生するがダイナはラグを一切感じさせず、加えて銃の様な弾丸速度の魔法技術を手に入れた。


 そこからはダイナの独壇場となる。

最終的に8羽も仕留めて冒険者ギルドに持って行った。


 それから1週間以上、ダイナはルックバード狩りが楽しいと言って通い詰め、Eランクになるまで狩った。


 ちなみに自分は1週間何もしていない。ダイナが稼いだお金で温泉に入り、ご飯を食べる。完全にヒモだった。

 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価が欲しいです。次はエリオット側の話を投稿します。

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