エピソード28 魔物狩り
山から見るライブプレスト王国の王都は、山を南側だとすると一番北側に大きい城があり、南側に下がるにつれて城下町が広がる。
元々住んでいたクリスパレスは高い壁で囲まれているが王都は、湖に囲われていた。ライン達は冒険者ギルドに行くために山を降りる。行きは下りだった為、時間はあまり掛からなかった。
下に繋がる獣道を降りると人気の無い街の通路に繋がった。
「わぁぁ…上から見るのと実際見るのだと全然違うね」
ダイナが感嘆の声をあげた。
「それ!クリスパレスと雰囲気が全く違う」
王都の街並みは古典的な家が立ち並ぶ。殆どの家が平屋の木造で出来ており、日本の時代劇に出てきそうな街だった。しかも所々、道に水が湧いており湯気も立っていた。
王都と言われるだけあって、肩と肩がぶつかるぐらい人は多い。クーを連れた商人や冒険者も居て街に活気があった。
「ベルナルが城の近くに冒険者ギルドがあるって言っていたから行こう」
「うん!」
人通りが多いので離れない様に手を繋ぐ。初めて来た街なので景色を見ながらゆっくり歩いた。
「ねぇねぇアレなんて書いてるの?」
ダイナに呼ばれた。親の影響や奴隷になっていた事もあってダイナはまだ文字が読めない。
(後で教えてあげないとな)
ラインは思う。
「えーとどれどれ、ボルクオンセン…温泉!!」
「温泉って何?」
「温泉はね皆で大きいお風呂に入ることだよ」
「何で皆で入るの?」
不思議な顔して聞かれる。
(いや何で?って言われても答えに困るな、文化としか言いようがない気がする)
「まぁ、今の家のお風呂って狭いしボロいじゃん、それが大きいお風呂になって気持ち良いって感じかな」
ラインは適当に答えた。前世でも殆ど行った事がないので分からない。
「へぇー面白そうだね、私も入ってみたいな!」
「え、」
(これは空耳かな?、まさか嘘でしょ、自分と一緒に入ってくれるの?!確かに最近いい感じかな?なんて思ってたけどまさかそんなに進んじゃいます?もう止まらないよ自分は!!もう色んなダイナを見ちゃうけど良いんだね、もう自分達大人の階段駆け足で登るんだね!!)
「ダイナ、入ろう、ぜひ今から入ろう!!」
「今なの、依頼終わってからの方が汗とか流せるよ?」
「絶対に今!!」
「ふふ、ラインがそこまで言うなら分かった」
ラインの男の子が暴走し、冷静さを失う。周りがよく見えていない。ダイナはラインの圧押され、ボルク温泉に入る事になった。
「子供二人で1600オンね」
(た、足りない…ここで足りない運命なのか?)
昨日1日分だけベルナルから持たされたご飯代は1500オン、日本円で1500円に相当するがあと100オン足りない。
「お金足りないね、戻ろっか、また明日にしよ」
ダイナはすぐに諦めた、しかし…
「稼ぐ…」
ラインは下を向きながら呟いた。
「え、何?何?ラインどうしたの?」
「絶対にお金稼いでダイナと入るんだぁーーー」
魂の叫びが受付で響き渡った。端から見たら恐怖である、キモすぎて。
「あの〜後ろにもお客様が並んでますのでお金をお持ちでないなら譲ってもらえますか?」
受付の人に注意される。しかしラインは全く聞いていない。
「今から魔物刈って来ます、ダイナ行こう!」
ラインは自分の奇行を気にする事なく冒険者ギルドへ向かった。
「着いた、ここが勝負の場所…」
ラインの顔は険しい、歴戦の猛者の様な佇まいでいる。
「ラインさっきから変だよ、大丈夫?」
ダイナは、ラインが比較的冷静な所しか見てないので今日の奇行で若干引いていた。
「え、どこが?」
ラインは気づいていない。無敵の人になっている。
ライン達は冒険者ギルドに入った。冒険者ギルドはクリスパレスとほぼ同じ造りになっていた。
ギルドはどこも同じ様に出来ているのだろう。ラインには目新しいモノは何もない。しかしダイナからしたら、全てが初めて見るモノなので全部面白く惹きつけられる。
奴隷として見る世界は真っ暗で怖かったが今はラインによって解放され、同じ景色でも違う印象を持った。
「ラインから聞いてたけど冒険者ギルドってこんな感じ何だね…ってラインどこ?」
ダイナの視界から消える。代わりにやって来る不安が過去を幻想されて急いで辺りを見渡す。
「うーん、分からん、こっちか?いやでもこっちの方が報酬多いしな…」
「もう、こんな所に居たんだ!置いて行かないでよ!ねぇ、聞いてる?」
「う〜ん、名前だけ見ても分からんな」
ダイナは置いて行かれた事で少し不機嫌になる。しかし不満をぶつけようにも文字が読めないのでラインを頼るしかない。
「それで依頼ってどんな感じなの?」
「ん〜・・・」
(正直何も分からん、そもそも魔物の名前言われてもピンと来ないし、難易度はランクで分かるけど、例えばGランクの魔物ってどれくらい強いんだ?)
ラインは掲示板に貼られている沢山の依頼書を見ることで冷静さを取り戻した。それと同じくして頭を悩ませる。
(今出てるのだと掃除とか薬草採集とか簡単そうな依頼はないからなー、しかもこれから二人分のご飯代も稼がないといけないし…)
「とりあえず受付の人に聞くか」
悩んでも仕方ないので分からないのは受付嬢に聞く事にした。
その時、ラインはこの世の神秘を見た。
目の前に二つの大きな果実を携えた女性を。ラインの目に映し出される豊満な果実は画角に収まりきらない。
(で…デカい、それも今までで一番デカい…Gより上が存在するのか?)
ゴクッ
唾を飲み込み唾液を下に流す。衝撃のあまりラインは石化したように固まる。既視感ある光景がそこにあった。初めて冒険者ギルドに行った時も同じ反応をしていた。デジャブである。
「あの、僕大丈夫かな?」
受付嬢は苦笑いで対応する。失礼な客には慣れているのだろう。
「・・・」
ラインは受付嬢の冷ややかな反応と声は届かず全神経を目に集中させる。体は勝手に戦闘モードに入りラインの眼が蒼く光った。
(あ、揺れた!今、ユサッって揺れた!!もしかして話す度に揺れるのか?そうだとすれば…あ、ちょっと待て今お楽しみの所だから青の世界発動しないで、もっと揺れる所見たい!ここで青くなるのはだめぇーーー)
「ライン!!いい加減にして!!」
「うへぇ?」
「初めての人は何の魔物狩れば良いのか、聞くんじゃないの!!」
ダイナが涙目で怒鳴る。ラインは事の重大性にやっと気づいた。
(流石に今のはモラルが欠けていたな、自分の駄目な所だ)
ラインは反応が露骨過ぎた事に反省する。
「すみません、自分達初めて魔物狩りたいんですけどオススメってあります?」
ラインは出来るだけ受付嬢の顔だけを見て話す。顔から下に視線を移らない様にした。
「Gランクだと王都から近くの村にフェルドキャットという魔物が居るの、農家の人が畑を荒されて困ってるから駆除してきて欲しいけど受けても貰えるかしら?」
ラインは言われた通り、フェルドキャットの依頼を受け手続きを済ませた。
ダイナは手続きが終わるのを見ると、頬をパンパンに膨らせたまま冒険者ギルドを出た。
(これ、めちゃ怒ってるわ、どうすれば…)
ラインは同年代の女の子を怒らせた経験はない。
前世は彼女が出来る前に死んでしまったし、現世ではそもそも学校でボッチだったので女の子の友達すら居なかった。
ラインは怒らせてしまった時の対処方法が分からない。なら取る選択は一つである。
「ダイナごめん、今日なんか自分変だった気がする、もうこんな事しないから嫌いにならないで!!」
ラインは全力で謝る。
「ラインってさ…あんな感じの人が好きなの?」
低く、震えた声だった。
「いや全然タイプじゃないよ、全然好きでもないし、なんならダ…」
「だったら許してあげる、だからあんまり女の人見ないでね」
ダイナは穏やかな表情で言った。安心している様にも見える。
「分かった、もう二度と女の人見ない」
ラインは守れない約束をした。
「それに私は今小さいけど多分これから大きくなる筈だからその時は…少しだけ見ても…」
(それって大きくなったらいつでも見ても良いって事?!)
意味を深く聞きたいと思ったが聞けない。これ以上聴くと怒らせる気がするので、ギリギリの理性で制御する。それから二人には少しの沈黙が流れた。
クーの馬車にて…
ラインはウキウキだった。理由は聞かなくても分かる。
完全に気が緩み締まりのない顔になっている。ずっとニヤニヤしていたら村に着いていた。クーに乗って来たことさえ忘れている。
ライブプレストの王都周辺ではクーの荷馬車が交通の便として働いている。どこに行っても1回200オンで良心的な値段をしており、これは今の王様がやり始めた事業らしい。
この情報は、一緒に乗り合わせた冒険者から聞いた。
「へぇ~君達は大人の力を借りずにこの仕事するなんて偉いね」
30代中盤くらいの男の人が話す。
「本当に子供達だけで大丈夫なの?」
ローザより少しだけ大きい女性が心配してくれる。今のラインはあまり興味はない。さっき素晴らしいのを見たからである。
「無理そうだったらすぐ逃げるので大丈夫ですよ、妹の事もありますし」
「本当は妹じゃないのに…」
ダイナはボソッと呟く。妹と言われ不服そうな顔をしていた。
(兄弟設定は便利だと思ったけど気に入らないのか、女の子って難しいな)
「自分たちはここで降ります、貴重な話ありがとうございました」
「また会ったらよろしくな、頑張れよ」
「ランク上げたら一緒に依頼受けましょうね」
気の良い冒険者はクーに乗って次の街に向かった。一度くらいはパティーを組んでみたいと思った。
「妹ってなんかイヤ」
「分かったよ、兄弟の設定辞めるから機嫌直して欲しいな…」
ダイナは機嫌が悪いと顔を膨らませるのですぐ分かった。機嫌が悪いダイナを宥めながら一緒に依頼人に詳しい話を聞くことにした。
具体的な概要は、夜に現れるフェルドキャットが畑を荒らすので駆除して欲しいという内容だった。
また泥沼や火球などの畑を荒らすような魔法はしないで欲しいと頼まれた。
ライン達は泥沼でフェルドキャットを足止めさせて駆除するつもりだったが、現れる場所が畑なのを忘れていた。考えて見れば当然なので最初に話を聞いて正解である。
ライン達はフェルドキャットが現れる夜まで待つことにする。
深夜…
「ねぇ起きて、ねぇってば!もう夜だよ」
「うぅ~何?」
「キャットなんちゃらを倒すじゃないの?」
「は!そうだ」
ラインは夜が来るまで畑で待機していたが、暖かい日差しがラインを包み込み寝てしまった。
「ダイナ、ナイス」
「もぉー私だけだと倒せないからお願いね」
女の子のお願いでラインはやる気を出す。しかもヒカイト人の目は夜だとより生きる。
(今日の目はいつもより頼りになるな、おっと何か来た!)
「シーー」
ラインは口の前で指を立てて(静かに)のポーズをする。それを見たダイナは頷いた。
(3、4、5匹来たな)
キャットというので猫だと思ったが見た所普通の犬よりデカく黒い体に爪は鋭く尖っていた。
(思ったより大きい、油断してると怪我しそうだ)
まずラインが最初に飛び出して剣を振った。同時に青の世界に入り、2匹のフェルドキャっトの頭を捉える。しかしその他3匹のフェルドキャットは逃げようとはせずにラインに襲いかかった。
それを見たダイナは後方で、尖らせた岩石をフェルドキャットに連続で飛ばして頭を貫通する。
「よし、やったね!」
「ダイナ、後ろ!」
ダイナが喜んだのも束の間、後ろに回り込んでいたフェルドキャットが三匹襲いかかる。
ダイナは水球で二匹弾き飛ばすが1匹は外してしまい鋭い爪が襲う。一発目はギリギリで避けるが、体勢を崩してしまい、地面に倒れる。それを見たフェルドキャットは爪で頭を引っ掻こうとする。
「キャ!嫌!待って…」
ダイナはフェルドキャットの攻撃を怖がり、顔を手で覆い隠す。
それは魔物からしたら降参ポーズであり無防備と変わらない。初めての実戦と暗闇に包まれた中での戦闘でダイナの動きはいつもより鈍く弱腰になってしまった。
「ダイナに手を出すな!!」
ラインはフェルドキャットの攻撃を左腕でカバーしてダイナへの攻撃を防いだ。しかしその攻撃でラインの左腕に鋭い爪が深く突き刺さった。
「今、チャンス!お願い!」
ダイナは慌ててラインの腕にしがみつくフェルドキャットに岩石を飛ばし、頭を貫いた。
それを確認したラインは水球により先ほど後ろに弾かれていたフェルドキャットに向かって剣を振るってトドメを刺す。
一難去ってまた一難。
「ごめんない!大丈夫…じゃないよね、私がトロいばっかりに」
「反省は後、完全に囲まれた!」
「え!」
(10匹、いや20匹以上居る、これは長くなるな)
「背中と背中くっつけて!」
ダイナは言われた通りにラインと背中合わせになる。互いの背中を合わせ360度どこから攻撃が飛んできても問題無い様に対応する。
ダイナの心臓の鼓動が聞こえた。動悸が早くなるのを感じ自分がここで引っ張らなければという気持ちが増す。
四面楚歌に見えるがラインは冷静だった。
(あの時よりは絶対に楽な筈だ、問題無い、ダイナとなら乗り越えれる!)
ルーラ教会との戦いがフラッシュバックするが、それをかき消す様にベルナルの厳しい修行を思い出した。
(あの時と違うのは自分は更に成長し、横にはダイヤがいる、絶対に勝てる!)
「ダイナ、絶対に何があっても振り返らないで」
「で、でも…」
「信じてるから…」
一瞬振り返ったラインの顔は月に照らされ蒼く光り輝き、格好良く映る。危機的状況だからこそ励ます、ぎこちない笑顔だった。
それからは己との体力勝負だった。目の前に襲ってくるフェルドキャットをひたすら斬り続け、魔力も全て出し切った。朝日が昇るまで戦い続けた。
「い、生きてる?」
ダイナは疲れ果てており畑のど真ん中で仰向けになっている。
「お疲れ、ダイナがここまで倒してくれなかったら危なかったよ」
ラインが手を差し伸ばす。
「キャ!血が出てるよ!」
ダイナが急いで起き上がり傷を確認する。足や手首には無数の切り傷があり、特に左腕は皮が剥けて肉が見えている。
「ごめんなさい、私が油断したから…」
「ダイナには泣かないで欲しいな、笑顔になって欲しくて今日一日頑張ったからさ」
ラインが不器用なりに慰めようとする。ダイナはラインの左腕を触り回復魔法をしようしたが反応はない。
「気持ちだけで大丈夫だよ」
「エルフなのに回復魔法すら出来なくてごめんね…やっぱりダークエルフだからなのかな」
ダイナが落ち込む中で、ラインは青の世界の感覚を完全に掴んだ喜びと初めて依頼を成し遂げた達成感で興奮していた。ダイナが無事なのも気分が良い。
人を守れるくらい強くなりたいという一心でベルナルの修行を耐え抜いた成果が目の前にあった。
「あのお願いがあるんだけど…抱きついていい?」
「・・い、いいよ」
少しの沈黙から了承に変わりラインが思いっきり抱き着く。
「ダイナが無事で良かった…」
素直に出た言葉だった。最近は、ダイナを守る事が使命だと感じていた。
(フワッした甘い匂い、これで全部報われる…)
泥だらけなのに紫の髪から良い匂いがする。左腕から血が流れるが痛みはなく、細い背中に手を回すことで安堵し、まだ小さい胸からは心臓の音が聞こえて心地良かった。
朝日が昇りライン達は依頼人に報告する。その後、別にナニをしたわけではない、少し抱き着いただけ…しかし下半身はしばらく主張が激しかった。
依頼人は沢山のフェルドキャットを駆除して貰った事に大喜びして、死体から出る鋭い爪を取り除いてもらった。
冒険者ギルドに持っていくといい値段になるらしい。終いには朝ご飯もご馳走になった、やったね!




