エピソード25 バーバラ対アレス
アレスが頷いて数秒。
経った数秒だった。
!!!
バーバラの目の前にはアレスが現れる。そこに瞬間移動したかの様に。バーバラは一気に警戒アラートが鳴り、臨戦態勢に入る。
(油断した!)
アレスの剣がバーバラの胸元に突き刺さろうとするが寸前の所で後ろにジャンプして避けようとする。しかしアレスも同時にジャンプして詰めより、大人顔負けの剣速で追撃する。目でギリギリ追えているアレスの剣を長年の経験値と勘だけで捌く。
(剣筋が見えねぇ、速すぎる!!)
速さ・・・それは無慈悲なほど才能がある者とない者で分けられる。見た目は互角に見えてもコンマ何秒のズレが次第に大きなズレとなって現れる。
経った10秒だけで何十回もの剣がかち合い、互いの剣が交差する。アレスの剣はバーバラの皮膚を少しずつ捉えた。
優勢だったのはアレスだった。
(こんなガキなのに、埒が明かねぇわ…)
バーバラは作戦を変えた。
バーバラはアレスと剣交えるなかで右側に攻撃を誘導する。右から来る攻撃を受け止めた時、バーバラはそのタイミングで動きを一瞬止めた。リヒト人にとってスピードは生命線であり、一瞬の間が命取りになる。
(来やがれ!!)
バーバラは分かりやすいくらいの隙を作り、罠を仕掛けた。アレスはそれに乗る。あえて隙を見せる事で、攻撃のタイミングを一点読みしてアレスの腕を掴むのが理想だった。しかし、速すぎる剣は左肩にクリーヒットして激痛が走る。真剣ではないので左腕が千切れる事はないが骨に確かなダメージが入る。
本来ならアレスの攻撃は有効打となり勝負が決まっているのだが、バーバラの高いプライドがそれを許さず左肩に入った剣を左腕でロックした。
ある意味攻撃を食らう事でアレスのスピードが一旦ゼロになった。まだ子供で尚且つリヒト人のパワーのなさが欠点として露呈する。そのタイミングでバーバラが右足を振り上げアレスの顔面を強打した。
アレスはバーバラの蹴りで場外まで弾き飛ばさた。アレスはびっくりするほど体重が軽く思いっきり吹き飛んだ。普通ならこれも場外に体が出たので、勝負はついた筈、しかしアレスはそのルールを知らない。
「まだだ…終わってない」
アレスはふらつく足で立ち上がり、勝負を続行しようとする。
白い肌に似合わないほどの赤い髪は生きている様に空中を舞い、目はギラギラと鬼の様な眼光を放つ。アレスの口から一滴の血が垂れた。ただ口の中が切れているだけの姿は、鬼神がヨダレを垂らしている様に見える。
「まさに鬼だね、お前、面白いよ」
バーバラはその姿にリスペクトする。
互いの距離が離れた。普通ならジリジリ距離を詰める場面・・・普通ではないアレスは右手で剣をバーバラに目掛けて投げる。
(な、何してんだ?)っとバーバラは思った。
剣を投げてバーバラに当たった所で大したダメージにはならない、せいぜい掠り傷程度。勝負に勝ちたければ剣を掴んだ状態で決定打となる攻撃を当てなければならない。その戦い方は定石から外れている、普通ではない。
アレスはジャンプして右手で投げた剣を左手で掴もうとする。自分が投げた剣に追いつくのは物理的に無理である。普通なら追いつかない、普通なら…
しかし普通ではないアレスは更に空中でスピードを加速させ剣を左手で掴んだ。剣を突きの様な形でバーバラの首を狙う。アレスの奇想天外な発想に速さが掛け算される。
「なんて奴だよ!!」
バーバラは驚きのあまり、身動きが取れない。
迫りくるアレスの剣で後ずさりする。だがバーバラの経験値と高いプライドがここで光る。
バーバラはその剣を歯で噛み、アレスの剣を喉仏ギリギリで止める。アレスの剣をバーバラの意地と経験で止める。
アレスは一瞬の戸惑いとバーバラの噛む力で剣が抜けずアレスの動きが止まった。バーバラはその隙を見逃さず、全速力の剣がアレスの頭を襲い攻撃を浴びせた。バーバラの歯が少し欠け、アレスが床に倒れた。
「真剣ならアタイの喉に突き刺さってたね、名前は?」
アレスの頭から血が流れ、腫れた頬を擦りながら答えた。
「アレス」
その姿を見ていたエリオットは不敵に笑う。
訓練場から2番隊事務室に帰る途中、ある人物に出会った。それは第二王位継承権を持っているレミリア・ライブ王女である。クライフ学校でエリオットと同期だった人物で王国内では才色兼備で有名だった。
「あら、エリオット、訓練場に来ていたなんて珍しいのね」
エリオットは全体訓練の時だけ顔を出して他は事務室に籠る事が多い。
「そっちこそなんでこんな所に?」
「エリオットだって分かってるでしょ、暇なのよ」
「一応王女様だからか、学生の時より大変そうだね」
「そうよ、変に第二王位継承権なんか持ってるから街を自由に出歩く事も出来ないのよ。今はただこうして城の周りとか訓練場を行ったり来たりしてるだけ、悪い?」
「いや悪いって言ってないけどな…」
レミリア王女は機嫌が悪かった。それを学生時代の付き合いでエリオットが感じ取る。
「それよりその子は誰?見掛けない子ね」
ピコーン!!
エリオットが閃いた。
「この子は私の子供でアレスって言うんだ、隠し子として育てて来たけど最近バレちゃって、ハハハハ」
「え、いや、ちが…」
アレスが何か言い掛けるが先ほどの頬の痛みで言葉が詰まる。
「まぁ、っていう冗談は置いとッッ!!」
エリオットがネタバラシをしようとしたタイミングでレミリア王女から平手打ちを食らった。
「い…いつか結婚してくれるって信じていたのに!隠し子が居たなんて信じられない!!もうエリオットなんか知らないわ!!」
激怒したレミリア王女は走り去っていった。涙を流していた様にも見える。エリオットは平手打ちを食らい地面にうつ伏せになっている。
「アレス、こんな情けない大人になったら駄目だぞ、ハハハハ」
エリオットはうつ伏せのまま語りかけた。
エリオットとレミリア王女は学生時代に付き合っていた。レミリア王女から猛アプローチを受けエリオットが応えた形だった。もちろん男女の関係も一度だけある。レミリア王女はエリオットの事を本当に好きだった。しかしエリオットには結婚する気は全くない。
「これで良いんだ…これで全て上手くいく」
エリオットは立ち上がり、服に着いた埃を手で払う。顔は笑っているがアレスの目には寂しげに映った。
エリオットに拾われてから2年経った。
アレスは12歳になり正式に二番隊の一員になった。二番隊に入隊したので奴隷ではなく、国民という扱いになる。
「アレス君、そこ計算間違ってるよ」
「え、どこ?」
「いやそこ、3にはならないから」
「もう無理、無理!!分かんない!」
アレスは朝から昼まで続く勉強に嫌気が差し、訓練場に逃げた。
「ちょっとどこ行くの!」
アレスはハイセンからもうダッシュで逃げる。一度逃げ出せば誰も追いつく事は出来ない。
「新人君は毎日毎日詰め込みすぎだって」
「いや新人じゃないです、これでもう5年目ですし…ってこのイジリいつまでやるんですか!」
「私が飽きるまでかな、ハハハハハハ」
ハイセンが深いため息をついた…
「でもよ、エリオットの言い分も一理あるぜ、いくらでも教えれば身につくもんじゃねぇ。俺があのぐらいの歳の時は遊ぶか喧嘩するかの2択だったんだ、あれでもアレスはよくやっている方だと思うぞ」
マテオはアレスを庇う。
「マテオの言う通り、ゆっくりで頼むよ、剣は大人レベルでも頭と心はまだ子供なんだからさ」
「飲み込みは早いから、もっと真面目にやれば伸びるんだけどなぁ〜」
ハイセンはあまり納得していなかった。
アレスの一日は午前にハイセンから勉強を教わり、午後はマテオやバーバラと共に訓練に励んだ。アレスとしては、剣を握る方が好きなので訓練は遊びの延長に近い。隊の者は年の離れた弟の様に扱った。
「今、丁度暇だし温泉でも行くか!」
マテオが提案して
「お、良いね、賛成」
エリオットが乗った。
「いやこの書類どうするですか!期限は明日ですよね?」
「新人君、後はよろしくね〜」
「えええぇー、ホント、自分勝手な人だな」
ハイセンは文句を言いながら山積みになった書類を片づける…
後々アレスの話とラインハルトの話をシンクロさせていきます。次はラインハルト目線で物語を進めます。評価、ブックマークして貰えると嬉しいです。




