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楽園〈エデン〉〜才能無しと言われた少年が失われた才能を継承する〜  作者: SS神威


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エピソード20 初めて

 興奮していた。

後に引けなくなっていた。

自分は大急ぎで奴隷市場の中に入る。


 小太りの奴隷商がセリに掛けるのが見えた。


(間に合ってくれ!)

 

 まだ大人より少し小さい体で人混みを押し退けスルスルと人の間を縫うように進む。


「さて、今日のメインディッシュ、ダークエルフの登場です」

 

 奴隷商がそう言うと、横に居た強面の男が檻に入ったダークエルフを舞台の袖から出した。

奴隷商は檻の鍵を開け見せびらかすように舞台の前に出す。


「おいおい、ダークエルフかよ」


「聞いてた話と違うぞ」


「まだ子供じゃないか!」


「ダークエルフでも何でも買うから俺に買わせろ」


「ちゃんと処女なんだろうな、違うなら帰るぞ」


「早くセリを始めろ」


 反応は様々だった。


「今回用意したのはダークエルフでございます、年齢は11歳、健康状態は良好、もちろん処女でございます」


 奴隷商が概要を説明する。


「やっぱりダークエルフか」


「期待させやがって」


「呪われてないだろうな」

 

「でも穢れた血だろ、純血だと思ったんだがな」

 

 否定的な意見が飛び交う。


「ち、買いたくないならどうぞ、帰ってください、私はお客様と話している、お客様以外は帰れ!」


 奴隷商は声を張り上げる。周りの期待感と商人のダークエルフの評価が乖離していた。


「1000万オンで買おう」


1人の老人が手を上げる。


「なら俺も」


「では、そいつらの2倍出そう」


「それなら3倍でどうだ」

 

 1人が手を挙げると次々に周りも手を挙げ、1分すると会場に居る半分以上は手を挙げ始めた。

 

「さぁさぁ盛り上がってきましたね〜さてこのエルフのセリも佳境を迎えます、ここからラストスパートです!」


 その時1人の影が動く。


「失せろ、邪魔だぁーーー!!」

 

 ラインは舞台に飛び出し奴隷商と相対する。


「な、何者だ、貴様、おいこいつを捉えろ」


 呆気に取られていた周りの屈強な男達が一斉にラインに飛びかかる。


「ロックダウン」


 ラインは一瞬にして巨大な岩石を作り男達に落とす。


「よけッ、うぅごぉ!うぐ…ぐふぁ」


 男達はまとめて岩石の魔法に当たり気絶する。


「おのれ貴様!」

 

 ラインは間髪入れず気絶した男の剣を取り小太りの奴隷商を斬りつける。

その時ラインの眼に蒼が灯った。


「おい、貴様待て、まって、金はやるかッ…」


 奴隷商はラインの形相に焦るがラインはまったく聞いていない。歴戦の猛者を彷彿とさせる斬れ味で奴隷商の腹を斬りつけ倒した。

ラインは奴隷商が血を流しているのを見て頭が沸騰する。


 初めて人を斬った感覚は鈍かった。気持ちが悪い。


(もう戻れない、ここまで来たら徹底的に!)


 ラインは奴隷市場に向けて魔法を放つ。

 

 火球、水球、ブラストバーン、ロックダウン


 覚えたのを全てぶっ放した。

今までの不満、怒り、苦しみが魔法として全部出た。

ラインは今までにない高揚感に包まれる。

 

 ラインの攻撃に奴隷市場は騒然とし、大混乱。

その混乱に乗じて他に売られていた奴隷が逃げ、また逃げた奴隷が反撃をする。


 反逆である。

奴隷たちも持てる全てを使った。

奴隷市場の会場は柱や壁が崩れ、椅子や物が宙を舞う。


 そんな中、ラインが話し掛けた。

異世界に来て女の子との初めてまともな会話。


「助けに来たよ」


ラインは優しくダークエルフに手を差し伸ばす。


「な、なんで私を?」


「君が助けてって言ったから助けに来た、もう大丈夫だから」

 

 ダークエルフの女の子は状況を飲み込めていない。


 もう助からないと思って絶望していた。

舞台に上がると怖い大人たちに足から頭のてっぺんまで舐めるように凝視される。

売られる事が確定し、運が悪ければ殺される運命なのは子供でも想像がついた。

しかし目の前には自分と同じ年齢の男の子が笑ってこっちを見ている。


「手を握って」

 

 ダークエルフの女の子は頷いてラインの手を握る。

ラインは女の子の手を優しく繋ぎ、女の子は離れない様に強く握り返す。


「頑張って着いてきて」


 ラインはそう言って手を引っ張り建物の裏口に向かって走りだした。

望んだ形ではない。

理想の形ではない。

思い描いた形ではない、でも…

初めてラインは女の子と手を繫いだ。

前世を含めて初めてだった。

その事をラインはまったく意識していない。

世界だけがその事実に気づいていた。

今のラインには余裕がなかった。


(助ける、絶対!)

ラインは決意を固めた。


 

 ラインと女の子は裏口を出てスラム街を走る。

ラインは余裕でも女の子の細い足がもつれる。


「走るの速かった?大丈夫?」


「はぁ、はぁ、うん、少し…」


 ラインは教会まで来ていた。

日は沈み辺りは暗くなっている。


 前だけずっと見て走ってきたので1回止まり状況を確認する。追ってはきていない。


(助けたのは良いけどこっからどうしよう?)


 ラインは無計画だった。

無計画だからこそ、その勢いでここまで来た。

後戻りは出来ない。


「名前何ていうの?」


「ダイナ、ただのダイナ」


 亜人や魔族は苗字を持たない者も多い、エルフもその一部なのだろう。


「自分はラインハルト・マーチ、よろしくねダイナ」

 

 ラインが名前を呼ぶとダイナはドキッとした顔をする。


(可愛い…)

 

 ダイナの紫の瞳に惹かれ数秒の間が空き、ラインが話を逸らす。


「あ、えっとラインハルトだと長いからラインって呼んで」


「うん、分かった、あと助けてくれてありがとう、もう助からないかと思ってたから」


 お礼を言われ達成感が広がる、しかし不安も同時に頭をよぎる。


(結構派手にやってしまったな、多分お母さんにめちゃ怒られる、やだなぁー)


心配してもしょうがないので次の行動に移す。


「お父さんとかお母さんはどこにいるの?」


 ダイナはラインの質問に対して重そうに口を開いた。


「お父さんは魔物に殺されちゃって、お母さんは新しいお父さんと一緒にどこ…か……う…ぐす」


 ダイナは話をするうちにメソメソと泣き出してしまった。


(しまった、これは地雷質問だったか、まずいぞ、どうやって慰めよう、てかそもそも変に慰めてキモいって言われない?この場合慰めるべき?ほっとくべき?)


 ラインは迷いに迷って、泣いているダイナを抱き締めた。初めて会った女の子に対してする行動ではない。


「あの好きなだけ泣けばいいよ…ずっと一緒にいるから」


(咄嗟に出た言葉が口説き文句みたいで恥ずかしい、でもしょうがないじゃないか!女の子を慰めるなんてそんなレアケース経験していないのにいきなり超難問が来たんですけど!これで合ってます、この慰め方であってます?)

 

 ラインは流石にやり過ぎたかと思い、離れようとするが逆にダイナが頭をラインの胸に押し付けさらに密着する。


(いやあのダイナさん!ちょっと近いです!色々当たってます、もうまずいんですけど、離れてくださ…いやもうちょっとだけ…)


 泣き止むまで20分くらい時間が掛かった。


「ライン、本当にありがとう」


 ダイナはスッキリとした顔をしていて、逆にラインは生気を抜かれた顔をしている。


「あ、うん、それは良かったよ…所でこの後どうするの?」


 ダイナは困った顔をした、行くあてが無いのだろう。


「それなら家に来る?」


「え、いいの?」


「うん、うちの家は結構お金持ちだから暫く泊まりなよ」

 

 多分お母さんは喜ぶと思う、今まで友達を家に呼んだことがないから。

なんならずっと家に居てもいいと思う。

可愛い女の子と一つ屋根の下、漫画になりそうなラブコメだ、悪くない。


 不純な思いを少し抱くラインは、ダイナと家に向かってゆっくり歩き出した。



 死神視点

 

 奴隷市場は世紀末の様で荒れに荒れていた。

舞台を見ると何処かで見たことあるガキが暴れている。


「一体何がどうなってる?」


 逃げ惑う人々を他所に死神は舞台に上がった。


「おい、待て!」


 ダークエルフと人間のガキが裏口に向かって走っていく。


「くそっ、逃げられたな」


 死神は荒れる舞台で一旦立ち止まり、状況を確認する。


「骨まで斬ってやがる、あのガキが殺ったのか…まだ息があるな」

 

 今回のターゲットとしていた奴隷商が血を流して倒れている。子供が成せる業か?

放っておいても死ぬだろうが念の為最後にトドメを刺す。


「相当まずい事になったな」

 

 今回の一件でガキが主犯格なのは多分割れるだろう。

ルーラ教会としてもこれを見逃すほど甘くは無い。絶対に鉄槌が下されるのは目に見える。


 計画としては俺が奴隷市場を襲い、奴隷商を殺してダークエルフを解放もしくはダークエルフも殺してとんずらするのが一番だった。


 エルフは貴重だ、ダークエルフとはいえ、こいつ1人が市場に流れればそれを求めて争いが起こる。 

争いが起これば戦闘奴隷の市場価値は増して、値が上がり、値が上がればさらに奴隷を増やそうとこの国、または奴隷商は動く。

終わりの無い地獄が続く。

 

 エルフが自分の身を守れるほど強くなければ殺すのが得策だった、なのに。


「くそ厄介な事になったな、あのガキはどこ行った?」


 早く対処しなければあのガキも死ぬだろう…

いやそれは別にいいか。

ガキ1人が死のうと関係ない話。

死神の俺がここまで捕まらず生きて来れたのは無駄な事に干渉して来なかったからだろ。


 冷静になれよ、自分の目的を見失うな。


「待てよ、あのガキって?もしや・・・」


 今日見たガキは一度誘拐から助けた子供に似てる。


 ずっと気になっていた。

あの時眼が一瞬蒼く光ったから、そして今も光った気がする。

俺と同じ眼をしているのか?

勘違いだと思いたくない、偶然だと思いたくない、また会ったのは運命かも知れない。

ずっと探していた、失われた才能の適合者。


「会いたい」


 そう思うと死神はガキを求めて街を駆け巡った。


 ライン視点


 胸騒ぎがする。

街が何かに怯えているように見え、額には変な汗が垂れて顔が強張る。


(何かが可笑しい、人通りがいつもより少ない気がする)


 悪い予感がした、自分のそれはよく当たる。


「顔色悪いけど大丈夫?私のせいで何処か怪我したの?」


「顔色悪いのは元からだから、問題ない筈だよ…」


 自分は上手く笑えているだろうか?

動悸が激しく呼吸が乱れ足取りが早くなる。


(大丈夫だ、何も問題ない、少しお母さんに怒られてそれでいつも通りご飯食べて寝る、何も心配することはない)



 悪い予感は当たった。最悪だった。

家はいつも帰ると明るくなっているはずなのに暗い。


 家の門にはローザかお母さんが待っていて帰る時間が遅いとよく怒られた。

お母さんに説教されていると大体お父さんが帰ってきて庇ってくれる。


 お母さんはお父さんに甘いのでラインはそのままご飯を食べる準備をする。

ご飯が出来るとお母さんに呼ばれ、ローザが居る時は隣に座る。

食事中はお母さんに今日の学校の話を聞かれるので嘘と本当を混ぜながら話をして、食べ終わったらお父さんと風呂で今日討伐された魔物の話をする。

そんな幸せな毎日がそこにあったはず。

なのに…


 ラインは恐る恐るドアを開けた。


「お母さん、ごめん遅くなっ…」


 家には10人以上の見知らない男が居た。

ラインの目に母が剣で斬り裂かれるのが見えた。

床にはお父さんとローザが血を流して転がっている。  


「ひぁ!キャーーー」


 ダイナは悲鳴を上げ失神して倒れる。


「嘘…なんで…」


 母を貫いた男が口を開く。


「嘘じゃねぇよ、ラインハルト君、君は調子に乗りすぎた、ルーラ教会に逆らったら殺さなきゃならないんだよ」


(意味が分からない、何故皆倒れてるの?なんでルーラ教会に襲われなきゃならないの、何故・・・殺す、自分の命に変えても絶対殺す!!)

 

 ラインは玄関にあったお父さんの剣を取り、全速力で男に向かう。


「くぅ、意外とやるなこいつ!」


 魔力が目に集まる、熱くて痛い。

ラインは何度も男に攻撃を叩き込むが剣で止められる。


「いい加減にしろ、クソガキがぁ!」


 そう言うと剣を持ってない腕で首を掴まれラインを投げ飛ばす。

ラインは後ろに飛ばされるがすぐ立ち上がり、猛獣の様にまた突進する。


(殺す殺す殺すころすころすコロスコロス)


「ヒカイト人の分際で調子に乗るんじゃねぇ!」

 

 ラインの攻撃は避けられ逆に男の剣がラインの肩を切り裂く。


「うぐぁうぁぁぁ!!」


 ラインは男の前で倒れ込み肩を押さえる。


「ガキ1人に手間どってるんじゃねぇよ」


「うるせぇ、分かってるよ、全くちょこまか動きやがって!じゃぁな、あの世でお母さんの胸でも吸ってな」


 男は大きく剣を振りかざした。


(死んだ、絶対死んだ、何が悪い?、ダイナを助けたから?自分が弱いから?ヒカイト人だから?せっかく転生したのに終わりがコレ?)


 自分の運命を悟った。

その時、血だらけのローザが後ろから男を真っ二つに斬り裂いた。


「前から思ってたけどラインは諦めが早い!」


 ラインは全身が震えた。

初めて武者震いという意味を理解した。

目の前には格上の相手、そこに現れるローザ、震える魂があった。


(戦え、戦え)身体がそう言って奮い立たせる。

ラインとローザは一瞬で他にいた三人を斬り伏せる。


「くそ、なんだこの女!死んだはずじゃねぇのかよ」


 他の男共が喚き叫ぶ。


「ローザ、生きてたッ!」


 ラインは気づいてしまった。最悪な状況だった。姉の様な存在だった。家族同然だった。いつも貴方の背中を見て頑張って来た。なのに…


 ローザは泣いていた。いつも気丈で勝ち気な彼女はもう居ない。


「ハルトさんライナさんすみません、もう…」


「え、ローザ?え?嘘だよね、嘘なんでしょ、そんなのあ…リ得ないよね」


「ライン、絶対諦めんなよ」


 ローザはラインの目の前で倒れた、腹には剣が刺さっており貫かれている。

ローザは腹を貫かれた状態で最後の力を振り絞りラインを助けたのだ。


「う、うぐぅ、うわぁわぁぁぁ、うああああ」


 ラインは泣き叫びながら残りの敵に斬りかかる。


「もうてめぇは終わりだ!」


 男はラインの急所を狙うが…一瞬だけ蒼く眩い光が邪魔をして狙いが少しズレる。

ラインは斬られた左胸を抑えながら倒れた。

相手からしたら冷静さを失ったラインは猛獣ではなく番犬と同等だった。


「ちっ、外しちまった、心臓を狙って楽にしてやろうと思ったんだがな」

 

 ラインの左胸が赤く染まる。


(イタイ、イタイ、イタイ、ツライ、クルシイ、タスケテ…なんで?)


 危機的状況でラインの不満が爆発する。


「ずっと、ずっとそうだ!ここまでずっと努力したのに、頑張ったのに、全然何も報われないじゃないか!全部、全部無駄だった!」

 

 ラインの心の叫びを聞いた男はゲラゲラと笑い始めた。


「おいおい、笑わせるなよ、ヒカイト人は努力した所で無駄なんだよ、努力したからと言って必ず報われると思うな、お前はヒカイト人としてこの世に生まれた時点で一生報われない」


 泣きじゃくるラインに敵はニタニタと嘲笑いながらトドメを刺そうと剣を振りかざした。


(もう殺してくれ、楽にしてくれ、ツライのはごめんだ、もう楽になりたい、死にたい…)


 ラインは力を抜き床に倒れたまま死を受け入れた。



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