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楽園〈エデン〉〜才能無しと言われた少年が失われた才能を継承する〜  作者: SS神威


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エピソード19 出会い

 スラム街独特の腐敗臭がする。

周りは物乞いをしている人が居て気分は良くない。

街には黄色のバッチをつけた人が多い。

前はバッチを見ても何も思わなかったが、自分と同じヒカイト人だと分かると嫌な気分になる。

ラインにはバッチが悪の象徴に見えた。



 前より早いペースで奴隷市場に着いた。

走ったからだ。

体力も前より大分ついたとは思う。

自分も体つきが大人に近づき、力も速さも上がっている。

しかしそれはあくまでヒカイト人基準。

剣士育成科に通っている人たちは更に強い。

努力では差を埋められないほどに。


 少年期剣士大会で戦ったバイベルやアーテリーは今の自分よりさらに高みに登っていた。

それを見るとむしゃくしゃする。

自分もヒカイト人ではなくマハト人やリヒト人だったらなと…



 奴隷市場の建物に入る。

中は暗く映画館の様な内装、値札のついた奴隷、それを見る富裕層の客。

前来た時と何一つ変わらない。


 自分は周りを警戒しながら助けてくれた男を探す。

奴隷市場の中をウロウロしていると、気になる話が聞こえてきた。


「おい、最近至る所の街で奴隷商殺しが頻発しているの知ってるか?」


「知ってるも何も、出たらしいぜ、アレ」


「アレって何が?もしかして巷で話題の快楽殺人鬼、ケイシーダーマーか?」


「違うぜ、殺人鬼よりもっと残虐な殺し屋、死神さ」


「死神って無差別に人を殺す化け物だろ、何でまた?」


「最近の噂だと死神は無差別に人を殺す訳じゃなくて奴隷商に関わった奴を殺してるんだとよ」


「そりゃあ怖いね、まったく」


「あぁそうさ、拉致して来た奴、売った奴、買った奴までもが殺され奴隷を解放してるらしい」


「買った人も殺されるのか?」


「あぁ、だから最近奴隷市場の売り上げが下がってるんだとよ、その煽りを受けて奴隷の値段も跳ね上がっているし踏んだり蹴ったりだな」


「まじかよ、昨日駄目にしたから新しい女を買おうと思っていたのに、辞めようかな」


「怖いなら今は我慢した方が良いな、またじきに安全に今より安く買えるようになる」


「というと?なんでだ?」


「この国は奴隷制度賛成派だぜ、ルーラ教会が黙ってねぇよ、近々親衛隊が死神を突き止めて殺すらしいからそれまでの辛抱だな」


「ふ、なるほどな」


 胸糞悪い話である。


(ルーラ教会が関わっているのか)


 薄々気づいていたがこの国は奴隷制度を推し進めている。

この建物が街に堂々と立っているのが何よりの証拠だ。腹ただしい、壊したいくらいだ。


 しかし今は男を探すのが目的である。

ラインは30分くらい探し回った。男は居なかった。


「はぁ、しょうがない、帰ろ」


そう思い建物から出ようとする、その時。


「えーお客様、お客様、本日はご来店ありがとう御座います」


 身なりの整った小太りの男が舞台に上がる。手入れのされてない顎髭が如何にも奴隷商って感じだ。


(いきなり何だ?)


ラインは男が立っている舞台に目線を移す。


「なんと今回!前々から言っていました、エルフの搬入が決まりました!」


 おぉぉぉぉ

周りが一気にざわめき驚いた後客から声が上がる。


「いつ、搬入だ」


「綺麗なんだろうな」


「男か?女か?」


「金ならいくらでも払うぞ」


「今すぐわしによこせ」


「いやそれは俺のだ」


「何を言っている!そいつは私が買うぞ」


ガヤガヤガヤガヤガヤガヤッ


「お客様静かに、静かにして、あの……うるせぇぞ黙れ、てめぇら!!」


 小太りの奴隷商が激昂し声を荒げた。奴隷商の激昂により過熱していた奴隷市場は静まり返る。


「えーエルフは来週搬入予定になっております。いつもはコチラ側から値段を決めていますが今回はセリを行おうと思います、気になる方は来週ご来店してください」

 

 奴隷商は、さっきとはうって変わり穏やかな声で話をする。


「なんだよ、セリかよ」


「これでわしのものだな」


「ふん、上物を期待するか」


「男だったら容赦しねぇぜ、あの奴隷商」


 客の反応は様々だった。


(まじでこの国は腐ってる)


 ラインは、どす黒い感情を抱きながら奴隷市場から出た。

丁度その時、ダチョウを可愛いくした魔物が荷馬車のような形で奴隷市場に着いた。 


「おっと、あれは…」


(確かあの魔物の名前は、クーだっけ)


 偶に街で見掛けるがこの世界では乗り物の役割をしている。


(初めて間近で見たけど顔に愛嬌があって可愛いな、クリクリした円らな瞳が特に可愛い)


 クーを見て少し癒されたが荷馬車の中を見てげんなりする。

荷馬車の中には多くの奴隷が乗っていた。

男女半々で皆痩せ細っている。

奴隷の中には自分より小さい子供もいた。


 ラインは一瞬にして頭に血が昇り、荷馬車を壊そうとしたが、とっさに思い留まる。


(自分は関係ない、関係ない、見て見ぬふりをしろ、冷静になれ、ヒカイト人の自分が頑張った所で限界があるだろ)


「ふぅー」

 

 ラインは腐った国への思いを無理やり抑えつけてやり過す。


(自分が強かったらどうしていただろう、自分が死神だったら彼らを殺しているだろうか?)


 手錠を付けた奴隷達が市場に入るのを見送るとラインは無力さを感じ家に帰った。何が正義でどちらが悪なのか分からなくなった。



 1週間経った。 

いつも通り、つまらない学校に行く。

もう学ぶ事もほぼ無いのに。

この世界の勉学のレベルは低い。

よく考えたら前世の世界が異常に高いだけかも知れない。


 火をつけるにしても魔法で事足りる。

しかし前世では道具を必要とした。

前世は問題があった場合科学で解決するが現世では魔法を使って解決する。

それがこの世界で科学が発展せず、勉学のレベルが低い原因かも知れない。


(まじでダルい、帰りたい)


 数学の時間が一番ダルくて辛い。

前世でも習い、ククルおばさんにも習ったので数学が一番学ぶ事がなかった。


(寝たいけど、バレたら先生に怒られるんだよなぁ)


 ラインは寝そうになる体を起こし姿勢を正す。


(ヤバ、これ寝るわ、さっきから先生がお経を唱えている様に聞こえる、まじで無理だ、違う事考えよ)


スー

 

 隣で甘くスマートな香りが鼻に入った。


(わぁ〜甘くて良い匂い)


 無意識に隣を見る。

そこには入学して最初に話掛けた女の子が居た。久しぶりにちゃんと見たが更に可愛くなっている。最近席替えした事を思い出した。

ラインは欲望にかられ女の子の胸を見る。 


(もうローザ先生より何倍も大きいじゃん!ヤバ)

 

 下半身がウズウズする。

ラインは11歳を過ぎてだんだんそういう感情が本格的に芽生えてきた。

これもある意味成長である。


 ラインがずっと見つめていると相手の女の子が視線に気づく。


「キモッ、こっち見ないで」


ガーン

頭に凄い勢いでタライが落とされた。


(確かに今のはキモいかも知れないよ、でもキモいってちょっと直接的じゃないかな?いくらなんでも酷くない?だってしょうがないじゃん、気になったんだもん!!目に入れたくなくても目に入るよ、だって今の自分は少しの膨らみでもとても大きく見えるし、いつもはローザ先生の貧相な胸しか見てないから少しでも大きい林檎を見ると興奮するっていうか、アレやっぱり自分ってキモいのか?)


 女の子が軽蔑の眼差しでラインを見て、即座に離れた。完全にキモがられて距離を置かれる。


グサッ


 その行動にまた傷つき、槍で喉を貫かれた気がした。


(自分がもし仮にマハト人だったら違うのだろうか?もし仮にリヒト人だったら友達になれていたのだろうか?)


 ラインは自分を見つめ直す。


(いや、違うな、単純に今の行動はキモかった)


 ラインは自分の現状を理解し、反省した。


(胸見てごめんよ…)



 爆ぜろ。

全て爆破したい、この学校もろとも…

ラインは先ほど猛反省した筈だが放課後には既に忘れていた。


(学校は勉強に励む場所でしょ、なのにこの学校の生徒は恋愛に熱中している人が多すぎ!!

高学年は学校でキスなんかもしてるし、恥ずかしくないのかね、ホント。

えっなんで知ってるかって?

いやそれはたまたま目に入っただけで、べ、ベッ別に人気の無い武道館の治療室を覗いたり、空き教室を見て回ったりとか、してないからね、断じて本当にたまたまだよ)


 心の中でキモい行動を正当化する。

この国では一応自由恋愛らしい。

放課後に盛んに行われる高学年のチョメチョメを見ると後輩も当然の様に真似をする。


 最近は自分のクラスにも変愛ブームがやって来て授業中もバレないようにイチャイチャしているカップルが多い。


 帰りは手なんか繋いでるしさ、はぁ。

自分は前世も合わせて25年以上女の子と手を繫いだことはない。

確か前世では30歳まで童貞だと賢者になれるという都市伝説があったよね?


(なれるならなってみたいね、ははははぁ…)



 そして今日、自分は見てしまった…

クラスで一番可愛く自分にキモいと言った女の子とバイベルが手を繋いで帰っている所を。

それだけでは済まず校門でキスまでしていた。


(AまでしたらCはもうすぐじゃないか!)


 初恋ではない、ただちょっと気になっていただけ。

顔が好みだっただけ、可愛いなって思っただけだもん!でも…

ただ悔しい、バイベルに強さで負け男として完敗した。

 

 自分は決して不細工ではない気がする。

イケメンかと言われるとそこまで自信は無いが両親の良いところを貰っていると思う。


(でもよりによってバイベルはないでしょ!だって全然格好良くないじゃん!やっぱり強さか!女の子は結局強い男に惹かれるのか!じゃ自分はもう…)


 萎えた。

足取り重く家に向かう。


(顔結構タイプだったのになぁ…)


「ぐす…う…アレ、可笑しいな何で?晴れ雨かな」



 教会の別れ道、東に行くと家がある。

ラインはまだ重い足を引きずりながら家に向かっていた。


「ん、あれは確か」

 

 クーが荷馬車としてラインの前に通り掛かる。

ラインは今から売られる奴隷の姿を見たくなくて顔を下げた。


「た、たすっ、助けて」


 細々で掠れれているが確かに女の子の声が聞こえた。


「え!」


 ラインは思わず顔を上げて荷馬車を見る。

荷馬車は街中なので人と同じ速度で歩いていた。


「助けて、お、お願い!」


 目と目が合ってしまう、一瞬にして女の子の姿が脳に焼き付く。

ラインと同じくらいの女の子は、茶褐色の肌をしており、長く綺麗な紫の髪と尖った耳をしていた。

紫の瞳とラインの蒼い瞳が激しくぶつかる。


 ラインは完全に目と目が合ってしまった事で石化した様に固まる。

ラインは石化したまま荷馬車はスラム街に消えた。


「あ、あう、あっ、クソ、な…なんでよりによって自分なんだよ」


(知らない、何も知らない、自分じゃない、多分…他の誰かだ、自分に言ったわけじゃない、必ずそうだ!)


 ラインは現実に目を背け逃げる様に家に走った。


「はぁ、う、うわぁ、はぁ、はぁ」


 体力は増えたはずなのに息が切れる。

苦しい、息を上手く吸えない、何故?


(自分は弱いから、ヒカイト人だから、役に立たないから、無理だ、頼む自分を頼らないで!もう頑張れない、もう立てないよ!負けたあの時から剣を握るのが怖いんだ!頑張っても頑張っても壁が高くて登れなくて周りが突き落としてくる、苦しい、辛い、負けるのはもう懲り懲りだ!)


「もう…戦えないよ!」


 目を瞑って走った。

瞼の裏には前世の時病気で苦しいんだ自分が、努力しても報われない今の自分が鮮明に蘇ってくる。


 その時最後の記憶が、前世の記憶が自分を呼び起こす。


「お父さんはお前が最後まで病気に立ち向った事を誇りに思う、強い1人の男として、私の可愛い息子として生まれて来てくれてありがとう…」


「お、お父さん…」


 最近顔も思い出せなくなった父の顔がはっきりと見えた。

自分にとってとても大切な言葉だった。

辛く成長が見えづらい剣術の練習も、コツを掴めず壁にぶち当たる魔法の練習もこの言葉でここまで頑張ってこれた。


 差別され区別され淘汰され蔑まされた自分が!学校で友達すら作れず苦しんだ自分が!


 頼られた…初めて人に頼られ自分の存在を渇望され期待された!


「助けて、お願い」


 耳の中であの子の声がこだまして離そうとしない。

紫色の淡く輝く女の子の瞳が自分の心を掴んだ。


 ラインは来た道を引き返し、全力で腕を振って走った。



 死神視点

 

 久しぶりにこの街にやって来た。

ダークエルフという上物だがある意味嫌われる存在…

そいつがこの街にやって来ると聞いて黒く腐ったゴミ共がこの日の為に集まる。


(あのガキは元気だろうか?)


 一度人攫いの餌食になっていたガキを助けた。


 いつもはそんな事しない。

この国では人攫いは珍しくないし、変に目立つ事もしたくなかった。

しかし考えと裏腹にガキを助けた。

黒い目が一瞬蒼く光ったように見えたから。

俺と同じ眼をしていると思ったから。

イヤ、もうこの記憶は忘れよう、殺す事だけ考えろ。



 「ここで駄目ならもう無理かもな」


 こんなに殺しても変わらないならもう…


 世界は残酷で非情、それは死神と言われる俺が一番分かる。

犠牲に犠牲を重ねてきてこの命に意味はあったのか問いかける。

未だ答えは出ない…


(奴隷商を殺す)


 1人目を殺した時から戻れない所まで来た。

とっくにルーラ教会の親衛隊が死神を嗅ぎ回っている。


「最後の抗いかもな、ん?」


 奴隷市場に近づくと様子がおかしい。

趣味の悪い服を来たジジイどもが逃げるように建物から出てきた。


(奴隷共も逃げてやがる、何が起きた?)


 死神は大急ぎで奴隷市場の中に入った。

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