エピソード1 いつもの日常
朝日が差し込まれると同時にアラームが鳴る。
「うぐぐ…グワッ!もう朝かよ」
ゾンビの様な声を上げ起床する。夜から朝にタイムスリップした感覚で眠気が覚めない、昨日のオンラインゲームが原因だろう。
「あの時辞めていれば…」
ゲームのレートは下がり体の調子は悪い、最悪である。
もっと寝たいという気持ちとは裏腹に体は勝手に起きていて着替えをする。階段を降りると母が朝ご飯の準備をしており、弟も目を擦りながらリビングに集まった。
「おはよう」
「全然2階から降りてこないから起こそうかと思ったよ」
「ごめん、今食べるよ」
うるさいなぁと思いつつも温かい朝ご飯があることに感謝する。
先週は母がインフルエンザになっていたので父が代わりに作ったが、不慣れであまり美味しくなかった。もちろん父には言っていない・・・
家を出ると雪が降っていて冷たい風が体に染みる。マフラーを巻いてきて正解だった。校門の前まで行くと聞き馴染みのある声が聞こえ、肩を掴まれた。
「おはよ」
「おいっすー、あれ顔やばくね、どしたん?」
(開口一番に顔をdisる方がヤバいだろ)と思ったがツッコミはしない。顔色が悪いのは元からである。
「てかそれより今日の数学の宿題、やった?」
「まぁ一応はね、でも合ってない所結構あるよ」
「それぐらいが丁度いいんだよ、テストで毎回最下位争いする俺が宿題だけしっかり解けたらまずいだろ」
先週、クラスで学力トップの人の答案用紙を写したら先生に激詰めされて相当焦ったらしい。
自分は平均的な学力なので彼からしたらベストな人選だろう。全く朝から失礼なやつだ。
「ハァ、分かった、後で見せるよ」
「サンキュー、まじで助かるわ、俺内申点ないと数学赤点ギリギリだからさ、今日ジュース奢るぜ」
彼は上機嫌で校門をくぐって行った。
彼は適当で大雑把だが嫌いではない。
なんなら小学校からの付き合いで友達としては好きだと思う。一般的には彼を親友と呼ぶのだろう。我ながら不本意だけど。
授業を適当に受けて、終わったらすぐ家に帰る。部活はしていない。
帰る途中コンビニに寄った。
最近ハマっている漫画と表紙のグラビアの為に週刊漫画を買う。高校生になり、お小遣いが増えた事で出来た楽しみだ。
小学校から中学校までサッカーをやっていた。
自分で言うのもあれだが地元では上手い方で少し有名だった。高校ではなぜかやる気が起きず今は帰宅部だ。
家に着くとカレー独特のスパイスの効いたいい匂いがリビングを包んでいた。
「今日カレー?」
「そう、カレー好きでしょ」
「うん」
会話を短めに終え風呂に入る。風呂から上がると弟が帰って来た。母が弟が通っているサッカースクールへ迎えに行っていたのだ。
体は泥だらけだが、反対に顔が満面の笑みで今日の調子が分かる。
「何点決めたの?」
「3点、ハットトリックでね、打ったら全部入ったの!!」
小学2年生の小さい手で三つの指を立てる。
自分の弟ながらすごく可愛い。
「お兄ちゃん、ご飯食べたらリフティングの練習するから教えてちょうだい」
「おっけー、今日は50回を目標にしようね」
兄から了承を貰い弟は満足そうに風呂へ入りに行った。
我が家では特殊なルールがある。
それは夕ご飯を家族全員で食べること。それまでは父が帰ってくるまで待つことになる。
このルールは他の家庭でも普通だと思っていたが話を聞いてみると意外とそうではないらしい。19時を少し過ぎた時、父が帰ってきたので夕ご飯の時間だ。
いつもの夕飯。
いつもの美味しいカレー。
いつもの日常。
だが前からあった、少しの違和感。
「ごめん、少し残す」
そう言うと、え!という顔で家族が驚いた後、少し心配そうな顔をする。
「具合が悪いのか?」
父にそう聞かれ、何と言えばいいか分からず言葉を濁す。
「いや少し疲れてるだけ、寝れば治ると思う」
「母さんのインフルがうつったか?」
「いや熱は無いよ、少し休めば大丈夫…もう寝るから」
「えェ〜〜」
弟が不満気に声を漏らす。
「無理言わないの!お兄ちゃんが具合悪いんだから明日にしなさい」
グズる弟を母が宥める。
「風邪薬あるけど飲むか?」
そう言われたが父の心配の声を無視する形で逃げるように階段を上がった。
別に嘘は言っていないと思う。体は最近ダルいし食欲も無い。でも熱があるかと思えばそういうわけでもない。
じぁ、なぜ逃げるように階段を上ったのか?分からない。
ただ、今までと少し違う。嫌な予感がする。もうダルい疲れた。




